7 お弁当狂詩曲
間違えて、即投稿しちゃいました……
これでダメなら、もう、レタスをちぎってお皿に乗せ、“レタスサラダ”を作るしか無い!
そんな風に考えながら、篠崎料理人はご飯をボールに入れて軽く塩を振って混ぜ、粗熱を取った。次に適度な大きさのラップにご飯を乗せ、軽く包んで華憐に手渡す。
「それを、こんな風にギュッギュっと握ってください」
『こんな風に』と手本を見せるように、華憐の眼の前で握って見せると、華憐も見よう見まねで“にっちゃにっちゃ”と握り始めた。
生粋のお嬢様である華憐は、今まで泥遊びをした事などなく、泥団子なども作った事も無い。それは、普通の子供なら、それなりの形に作るであろう物が作れないという事だ。
なので、オニギリを握らせても、丸くも三角にも俵型にもなる事などなく、ただただ歪な形の物が作られるだけだった。それでも、出来上がった物体Xを誇らしげに見せる華憐に、たかが料理人が何を言う事が出来るというのか……。
「じょ、上手に出来ましたねっ! 初めてで、コレだけ出来れば充分ですよ」
「えへへへぇ」
あからさまなお世辞の言葉に、照れ笑いで答える華憐。ラップに包んだご飯を握っていた筈なのに、ホッペタにご飯粒が付いているのは、何故なのか……?
摩訶不思議アドベンチャーな現象は、最早テンプレなのか?
篠崎料理人は、引きつった笑顔で華憐を褒めながら、明日の朝作るらしいお弁当の事を思い、憂鬱になるのだった……。
翌朝6時、何時もならまだ夢の中にいる筈の華憐は、眠い目を擦りながら調理場でニチャニチャとオニギリを握っていた。
週末は、何時も誠は御崎家に泊まり、月曜日は3人で登校するのが決まりだ。だから、2人にお弁当を作るのは、今日が一番良いのだ。
でも、今日、華憐が作るのはおにぎりだけ。オカズは篠崎料理人が用意してくれるとの事だった。
華憐としては、オカズも作るつもりだったのだが、昨日の練習で一度も成功しなかったので、「今回はやめておいた方が良い」という篠崎料理人の言葉に従う事にしたのだ。
「オカズまで作るつもりなら、4時には起きてもらいますよ?」
「オカズも作りたい」と訴えた華憐に、篠崎料理人は難しい表情で腕を組んでそう告げてきた。毎日9時間は睡眠時間が必要な華憐には、土台無理な話である。
そう告げられた瞬間に、オカズ作りは諦めた華憐であった……。
それでも、頑張って6時に起き、オニギリという名目の物体Xを6個も作ったのだ。
華憐はとても頑張ったのである。
「誠様、お兄様。これ、華憐が作りましたの!」
「……」
「……」
だから、朝食の席で得意げに物体Xを誠と澄人の2人に見せたのも、当然の事であった。
だが、2人には見せられたソレが何なのか、解らなかったのも仕方が無い事であったのだが……。
しかしここで「ソレは何?」なんて聞けるわけが無い。兄と婚約者という立場の意地にかけても、そんなセリフは言えないのだ。
2人は、真剣にモザイクがかかっていそうな物体Xを見つめ、ソレが何であるのか推理していた。
ラップに包まれている所を見ると、食べ物だろうか?
色は白。なら、お餅か? いや、ゆで卵と言う可能性も……無いか。形が歪過ぎる。
だが、2人がどんなに頭脳は大人な小学生ばりの推理力を駆使しても、物体Xの正体に至らない。
難しい顔で華憐の手元を見つめるだけなのだ。
そして、そんな難しい表情を向けられる華憐は、まるで2人が自分を睨みつけている様に感じてしまった。2人の頭の中で「真実は何時も一つ!」と幻聴が聞こえている中、彼らに見つめられている華憐の瞳がどんどん潤み始める。プルプルと身体を震わせ、小首を傾げた辺りで2人は華憐の現状に気付き、ハッとした。
「いじ……」
「「いじめない(ねぇ)よっ!」」
何時ものセリフを口にした華憐に、くい気味で返答を返す。
「華憐様は、昨日から料理の練習をされていらしゃって、今朝も6時に起きてそのオニギリを作ったのですよ」
カオス一歩手前な空気の中、お弁当のオカズを手にやって来た篠崎料理人が、ナイスなフォローを入れてくれた。
その言葉で、物体Xの正体が判明し、2人の表情は一気にデレデレとダラシないものとなる。
得体の知れないものを食べさせられる恐怖より、華憐が自分達の為に事前に練習した上に早起きまでして手作り料理を作ってくれたという事が、嬉しくてしょうがないのだ。
華憐の努力に報いるためなら、例え数日入院する事になったとしても、本望と思う様な2人なのである。ちょっとお腹を壊す程度で済むなら、無問題! いや、寧ろウェルカム状態だろうか……。
「華憐、何時に起きてコレを作ってくれたの? 体調は大丈夫かい?」
「華憐、スッゲー嬉しい。今日は、皆に見せびらかしながら弁当を食べるぞ、俺は!!」
「えへへへぇ。華憐、凄く頑張ったの! だから、ご褒美は限定クマさんが良いっ!」
「「解った。手配しておく!!」」
満面の笑みで嬉しそうに華憐に声をかける2人は、端から見るとドン引きする程のデレ具合だった。
そんな2人に、華憐も嬉しそうに照れ笑いしながら、限定テディベアをおねだりし、2人は当然の様にその要望を聞き入れる。
そんなある意味何よりもカオスな光景を見てドン引きしながらも、篠崎料理人はお弁当を入れた袋の中にソッと胃薬を偲ばせるという、小さな思いやりと気配りを忘れない御崎家料理人の鑑の様な人物なのであった……。
この日のお昼休み、学園高等部の2年B組の教室では、阿鼻叫喚な悲鳴が轟き渡った。
なぜなら、学園の二大王子とも囁かれる誠と澄人が、モザイクがかかっていそうな物体Xを幸せそうに食べ始めたせいだった。
何時もなら、ため息が出る様な麗しい光景が、今日は体当たりドキュメントを見ている心境になる。
2人の周囲に未開のジャングルが見える気がする。そう、2人の食事風景は、未開の地の食事風景そのものだったのだ……。
教室内の彼方此方で、「うぷっ!」や「うぉえっ!」等の声が聞こえてきても、2人は素知らぬ顔で幸せそうに物体Xをハグハグと食べ続ける。
「こんなに個性的なオニギリを食べたのは、初めてだよ……。」
「ああ。流石、華憐がする事もやる事も一味違うよなっ!」
「うんっ! 天才だと思うよね!?」
「澄人が良い事言ったっ!」
華憐バカな2人は相変わらずの平常運転で、華憐を褒めちぎり只の塩むすびな筈なのに“個性的な”味になっているオニギリを美味しそうに完食してしまったのだった。
勿論、胃薬なんて必要としない。
なので、なぜか胃の具合がよろしくない様子のクラスメイトに胃薬を配り、感謝されてみたりしている。
ある意味、今回の物語の最大の被害者は、2年B組の生徒たちなのであった……。
あとで、修正するかもです。