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6 お弁当狂想曲

明日もこの時間に更新します。

ーー今時は、お嬢様でも手作り料理位はできなきゃね。



誰が言い出したのか……。

この言葉のせいで、星陵学園の高等部では今、空前の手作り弁当ブームが巻き起こっていた。


許嫁へ渡すのは勿論、好きな男性への差し入れ、果ては女の子同士でお弁当の交換まで。学園の至る所で手作り弁当を見かける。

その内容は、料亭の仕出し弁当顔負けの物もあれば、可愛らしいキャラ弁、初心者マークのような物までありとあらゆる種類の物があった。


勿論、1年A組でも手作り弁当は流行っており、クラスの女子は仲良しグループで“お弁当交換”なんてたのしんでいたりする。

華憐もお弁当を交換したいのだが、残念な事に彼女は料理ができない。

楽しそうにお弁当を交換しているクラスメイト達を見て、羨ましそうに瞳をウルウルさせながら見つめる事しかできないのだ……。


「ちょっと……、華憐ちゃんが仔犬の様なでこっち見てるわよ」

「お弁当交換したいのかしら?」

「お声かけ、してみます?」


女生徒達は、華憐の視線に気付いて気遣う様にヒソヒソと話し合っている。

華憐は、今にも涙が零れそうなほど瞳を潤ませ、プルプルしながらそんな女生徒たちを見つめていた。その様子は、迷子の子猫の様で、声を掛けずにはいられない。

だから、皆がこぞって華憐の側に寄って来て「どうしたの? お腹痛い?」や「甘いもの食べます? 新作のチョコを持ってきてますのよ?」など、必死で機嫌を取ろうとするのも当然の事なのだ。


「華憐ちゃんも、一緒にお弁当交換……、致しませんか?」


そんな中、楽しそうにお弁当交換していた一団が、そっと華憐に近づいて来て、遠慮がちに声をかけた。

そのお誘いに、華憐は『にぱぁっ』っと擬音語が聞こえそうな位に、花咲く様にとても嬉しそうに笑った。しかし、次の瞬間には花が萎れたようにションボリと悲しそうな表情を見せる。


「わたくし、お料理……出来ません…」


ウルウルの瞳を伏せながら悲しそうに呟く華憐に、周りにいた者達全てが“キュンッ”とした。両手を口の前で握りしめ、俯いている華憐の姿に、フワフワの長い尻尾を抱きかかえてションボリしているシマリスの幻影が重なる。

こんな可愛い生物、構わずにはいられない!


「誰にだって“初めて”はあるんですもの。練習すれば、直ぐにお料理ぐらい出来るようになりますっ!」

「そうですわ! それに、華憐様がお弁当を作って、誠様や澄人様にお渡しになれば、お二人ともとてもお喜びになるはずですよ!?」

「私も、初めの頃は何度も失敗しましたのよ? でも、家の料理人に習いながらではありますが、今では1人で作れるようになったのですよ?」


口々に、「レッツ・トライ!」と、華憐に料理を勧め、自分の失敗談や許嫁に喜んでもらった時のエピソードなどを、身振り手振りを交えながら語り始めた。

そんな話を聞かされてしまえば、華憐も誠や澄人にお弁当を作って、褒めてもらいたくなる。


上手に出来たら、美味しいお菓子を用意してくれるだろうか? いや、もしかしたら、新しいぬいぐるみをプレゼントしてくれるかもしれない!

近々、限定のテディベアが発売されるらしいし、おねだりしてみようか?

イヤイヤ、それよりも夢の国に連れて行ってくれないだろうか?


華憐の頭の中では、手作りのお弁当に感動した誠と澄人が、この間DVDで見たチョコレート工場に連れて行ってくれる想像で、一杯になっていた。

チョコレートの川でチョコフォンデュを楽しみ、ウ◯パ◯ンパと一緒に歌って踊るのだ!

華憐は良い子だから、言いつけを破って薄っぺらになったり、変な色になったりはしない。胡桃を選別するお仕事中のリスさんを欲しがったりなんかも、絶対にしない!


自分の想像で楽しくなってしまい、「うぃり・うぉんか♪」と小さく口ずさみながら頭を揺らし始めた華憐を、クラスメイトたちは微笑ましく見つめていた……。





「華憐様、次に先程用意した調味料を入れて下さい」

「はい……」

「…………」

「あれれぇ? どうして、変な色になるのかしら??」

「……つ、次の調理に挑戦しましょうっ!」


ある日曜日。華憐は、御崎家の料理人に指導してもらいながら、料理を作っていた。

今日は珍しく、誠も澄人も生徒会の用事で家にいない。来週に迫った、親睦旅行の最後の調整に追われているのだ。

華憐は2人がいないこのチャンスに料理の練習をする為、今日は1人家に残ったのだった。

今日練習して、明日の朝お弁当を作って渡す。

華憐の中では、完璧な“お弁当を作ってご褒美をもらおう計画”が立てられていた。


さて、肝心の料理だが……。

料理の工程としては、簡単な3ステップ。


1、料理人が切った材料を鍋に入れる。

2、料理人が用意した調味料を鍋に入れて、火を点ける。

3、出来上がった料理を皿に盛り付ける。


だ。

しかし、何度チャレンジしても、違う料理に変更しても、“3”の所で料理がダークマターに化学変化してしまう。

これは、ある種の超常現象だった。

ゆで卵を潰して、マヨネーズと混ぜるだけなのに、ダークマターが出来上がる。

茹でたジャガイモに、他の具材とマヨネーズを加えて混ぜたら……。

ほぅら、簡単! ダークマターの出来上がりっ☆


コレには御崎家の敏腕料理人も、対処のしようがなかった。

華憐に包丁を持たせるなど、指の一本や二本落としかねないので、『切るだけ料理』はさせられない。ウインナーや肉を炒めるのは、油がはねて華憐が火傷する幻影が見えるので却下。魚を焼くと、ダークマターの出来上がり☆


何を作ってもダークマターになる事に、とうとう華憐の瞳に涙が浮かび始めた。身体をプルプルと震わせ、「華憐にお料理なんて、初めから無理だったのかなぁ?」なんて、涙声で料理人に問いかける。


そんな事言われても、泣きたいのはコッチの方だ……。

なんなんだ、この手品は?


華憐に半泣きで問いかけられても、料理人の方こそがマジ泣き5秒前な現状だ。

失敗する要素など何も無いのに、出来上がるのは全てダークマターなのだ。『指導法が悪い』とか、そんな次元の問題である筈が無い。

きっと華憐には、『料理をダークマターに変える呪い』が掛かっているのだろう。


しかし、例え1料理人といっても、御崎家の者。大切な可愛いお嬢様の願いは、何が何でも叶えてあげたい!


なので、料理人の彼ーー篠崎しのざき 隼人はやと45歳(妻と娘2人あり)は知恵を絞って考えた。

ポクポクポク…………、チーンッ!


「お嬢様! オニギリを作りましょうっ!」


篠崎料理人は良い笑顔で、そう宣言し「コレがダークマターになるなら、お嬢様は神の手の持ち主だ……」と小さく小さく呟いたのだった……。

簡単☆ダークマターレシピ!

今回は、定番のやり取りを入れられそうにないです……。

どうしよう……。


ダークマターは、この後スタッフでちゃんと食べましたので、ご安心を!←ウソです

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