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酒の中のむかで

 むかしむかし、この世のあらゆる動物と人間たちが集まる年に一度の宴会が開かれていたころのことです。そして、むかでの体が今とは比べものにならないほど大きかったころのことです。その頃のむかでは、人間よりも、ゾウよりも、いちばん大きなリュウよりもまだ大きかったのです。しかし、むかではちっとも暴れ者ではなかったので、誰もむかでを恐がりませんでした。

 むかでは大変な旅行好きでした。いつもあちこちの国に旅行していましたが、毎年の宴会の夜には間にあうように帰ってきました。人間も動物も、帰ってきたむかでに会うと一緒に宴会に行きたがりました。道中むかでがよその国の面白い話を聞かせてくれるからでした。彼らは宴会が始まると、さっきむかでが話してくれたことを自分が見たかのように話しはじめるのですが、むかでは気にしませんでした。

 ある年の、宴会の夜が近づいた夏の日のことでした。タムナという若者が畑仕事をしていると、そばにむかでが通りがかりました。

 「おかえりなさい、むかでさん」

 「ただいま、タムナ」

 「今度はどこに行っていたんですか」

 「ずっと東の国、この世をおつくりになった神様の国だよ」

 「それはすごい。ぜひお話を聞かせてください」

 するとむかでは残念そうな顔をして、今年の宴会には出ることができない、西のお日さまが沈む国まで、神様に急ぎの用事を頼まれたのだから、と言いました。

 「それなら、途中まで一緒に行きましょう。東の国のめずらしいお話を聞かせてくださいよ」

 「いいとも」

 こうしてタムナとむかでは一緒に行くことになりました。途中でいろいろな動物や人間たちに会いましたが、みんなむかでと一緒に行きたがりました。

 むかでの話はいつもよりもっとめずらしく、面白いものでした。それでタムナたちは宴会のことも、今どこを歩いているのかもすっかり忘れてしまいました。だいぶたったころ、むかでが「おい、ずいぶん西のほうまで来てしまったけど、宴会には間にあうのかい」とたずねるまで、だれも思い出せなかったのです。

 みんなはあわてて宴会に急ぎました。

 ところが、もう遠くまで来ていたので、みんな道に迷って、うろうろしたあげくくたびれて死んでしまいました。タムナだけが、ようやく生きて帰ることができたのです。

 次の年、むかでが西の国から帰ってみると、宴会の場にはタムナの一族・友達が武器を手に手に、大勢でむかでを待ちかまえていました。タムナはむかでが帰ってきたのを見つけると、大声でどなりつけました。

 「おい、むかで。おまえのせいでたくさんの仲間が道に迷ったり、飢えて死んでしまった。どうしてくれる。ようし。みんな、こんな奴はやっつけてしまえ」

 そして一斉にむかでに飛びかかって、ほんの小さなむかでになるまで切り刻んでにしてしまいました。このときからむかでは、今みられるような小さなむかでになってしまいました。

 タムナたちはむかでをやっつけてしまうと、満足して宴会に戻りました。

 むかでの方では、納得が行きません。仕返しをすることにしました。バラバラになったむかで達はこっそりと、それぞれ酒の壷の中に入りこんでタムナやその仲間たちに飲まれるのをじっと待っていました。

 タムナは憎いむかでをやっつけてしまったので上機嫌で、酒がなくなると壷のところに来て、みんなで回し飲みをはじめました。むかでたちはさっとタムナたちの口の中に滑り込んで、おなかの中で噛み付いたり、毒をまきちらしたりして暴れました。タムナたちはみんな、苦しがって倒れてしまいました。


 お酒を飲むと苦しがったり、倒れてしまう人がいるのはこういうわけなのです。


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