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災厄の襲来

 夜空が街中から放たれた赤い炎に照らされ低くかかった雲を照らし出し夕暮れ直後のような空色を映しだす。

木や肉が焼ける臭いと怒声や悲鳴、金属同士がぶつかる衝撃音。滅び行く都市の情景だ。

破砕槌で粉砕された城門をみればそこには高い射撃技能を有するエルフの集団が彼らの身長ほどもあろう大型の弓を撃ち放ち町中の守備兵を制圧しているのが見える。目線を町の内側に向ければ、エルフだけではなく高い金属加工技術を伺わせる重厚な鎧をまとったドワーフの集団が碌な抵抗もできなくなった守備兵をその大槌で撲殺し物言わぬ躯へと変えていく。あるいはハーピィが空中から逃げ惑う分散した敗残兵を一人づつ首を切り裂き、ドラゴニュートが火炎を投射し立てこもる建築物ごと焼き殺してゆく。

同胞の緑色の肌が血に染まっていく光景が幾重にも繰り広げられるだけの日々についに最期の日がやってきた。この街は我々オークの誇りにして成功の象徴だった。かつて偉大なる族長が、部族社会であったオークの諸集団を統合していきたった一人の偉大な族長として君臨したその日、オークたちはみな種族に新たなる歴史が始まると信じて疑わなかった。だが他種族がそれを許さなかった。彼らはオークの統合に対し連合し侵略をしかけてきた。もちろん、それが一方的なものだったとは言わない。しかし彼らの目的は略奪や土地ではなく、オークという種族そのものを根絶するがごとく容赦の無さで我々を追い立てた。そしてついにこの都にまで迫ったのである。

もはや我々に生き延びる術は残されてはいない。だから偉大なる族長は最期に私のような呪い師たちに願いを、あるいは呪いを残し自害した。彼ら異種族たちに可能な限り大きな呪いをと。どうせ死ぬ定めだ、この都に残るすべての呪い師は命を捧げる禁忌の魔術を行使することをためらわなかった。なにか、なにか大いなる滅びをもたらせしものよ現れかし。我々へ与えた苦しみへ報いを与えるべし・・・と。


 この日、この星の歴史上かつて無いほど栄えたオークの帝国は完全に消滅した。

 だがその帝国が残した最期の呪いは確かに、何かを別の世界より引き寄せたことに誰も気づくことはなかっった。





 何も無い真空の宇宙空間。どの恒星系の重力圏にさえ影響されない正真正銘の外宇宙。そこにあるのはごくごく微量の水素原子と宇宙線と呼ばれる微量の高エネルギー原子核の流れのみ。

そこに孤独に漂う周囲と比べればあまりにも高密度の塊があった。その巨体も近隣の恒星系から遥かに離れたあまりに巨大なスケールの空間と比較すれば極微小な埃にさえ満たないちっぽけな存在にすぎない。

その名は播種船ダンドリオン。使命は母なる地球から人類種族を羽ばたかせこの宇宙のあまねく人類を発展させる最初の一歩となることである。

しかし彼女の中に一人の生者も生体部品も存在しはしない。ただデータとして保存されるのみである。人間を生きたまま、あるいは世代を超えながらでさえ旅をするにはその道程はあまりに過酷で長かったのである。

数十万、数百万の歳月を僅かな星間物質と半減期の長さゆえ出力の微小な原子力電池のみ頼りに漂うために彼女は設計された。

実際に最後に母なる地球へ情報を送信してからすでに5000年もの月日が流れている。

ただ彼女はひたすらに目的の恒星系に辿り着くまで半ば眠ったままの旅を続けるのみのはずであった。

しかし、突如として彼女はその位置から跡形もなく消え去った。

ただ無限の静寂に包まれた宇宙空間では、特に大した変化をもたらさず誰にも気づかれないまま彼女はこの世界から消滅したのだった。







 播種船ダンドリオンは突如として明らかな異常を感知した。そのセンサーに受ける数多くの数値が急激な変化を示しているのである。

特に大きな変化は電磁波である。直前の時点で把握していた位置では基本的にありえない量のあらゆる波長の電磁波が降り注いでいた。

しかしある意味ではそれは好都合である。太陽光発電システムが機能するからだ。

航行用コンピュータは中枢コンピュータを起動する必要があると判定、その出力を確保するために太陽光発電パネルを展開。船内に折りたたまれて格納されていた鈍色の巨大な板が可視光線を反射し鈍く光る。

数千年ぶりの大出力による電力供給を受け起動する中枢コンピュータ。本来の起動時期よりも大幅な早起きである。

電磁波の発生源は恒星、それも極近い…具体的には200光分(≒35億キロメートル)もの至近距離。恒星系の内部である!

中枢コンピュータはコレまでの航海記録などを照合するがどう考えても光速を超えた移動をしなければ実現しえない状況である。

しかし現実に観測されるデータは間違いなくこの地点がどこかの恒星系内であることを示していた。


更に恒星は母なる太陽ソルと同様の主系列星。寿命やエネルギー照射量の面で非常に良質である。

さらに注目すべきは第三惑星である、恒星のハビタブルゾーン内にあるばかりか観測されるスペクトルは明確に酸素や液体の水が存在することを明らかに示していた。そればかりか惑星に比して巨大な衛星が周囲を周回し潮汐力をもたらしているではないか。

さらに太陽系の外周には大型の木星型惑星が2つ存在しその重力圏で内部へ到達する可能性のある小惑星を誘引さえしてくれる。

これらは彼女の使命にあまりにお誂え向き過ぎて中枢コンピュータをして太陽系とデータを照合させる有り得ない予測を行わえる程であった。

情報を収集し終えた彼女は直ちに人類の新天地の建設を決意した。



彼女はまず恒星系と相対速度を合わせるため備蓄していた推進剤を利用しアステロイドベルトの大型小惑星と軌道を合わせた。

実は彼女自身のテラフォーミング能力は対して高くはない。むしろ単独では不可能である。一つの播種船にテラフォーミング可能な全能力を保有させるにはサイズが巨大になりすぎる。

ではどうやるのか?それは彼女が現地で事項調達してテラフォーミング用の機材を作ってしまうのである。

播種船ダンドリオンはあらゆる知識を保有した巨大な自律型万能マザーマシンなのだ。

最初に作るのは工場である。そう、巨大な生産機械が自ら工場を作る。なにせ巨大な事業なので最初から最後まで彼女がやっていては身がもたない。可能な限り損耗はしたくないということである。

工場が完成すれば次は資源採掘用・輸送用の宇宙船を建造し工場への資源投入と資源追加を任せる。

後は工場が自ら採掘輸送船を建造し資源を更に集め、集めた資源で工作用宇宙船を建造し新たな工場を作る生産の拡大が図られる。生産力の増大のループが生まれダンドリオンはしばらく仕事から開放されるのであった。


ところで、アステロイドベルトでの準備には20年ほどの年月がかかった。なにしろ最初の工場の建設だけで3年ほど必要としていたのだ。

むしろ宇宙空間で工作機械だけで小惑星を材料に作ったと考えると驚異的な速度である。

当然、ここだけでは不足する資源も多数ある。

だが数十万年の旅を覚悟してきた彼女にとって数年のスパンなどはっきり言ってちょっとしたことである。

またこの間にもう一つの準備もキッチリと行われていた。

前住する知的生命体の有無の確認という重要な作業である。

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