開発途中の風景
西暦199X年……米アタルヴァ社内開発室。
「オンラインゲームねえ……本当に流行るんだか。」
部屋の中でカタカタとキーボードを打つ音が鳴り続けている。
「流行らなきゃ、どうしようもないだろ。」
「そりゃそうか。」
彼等は新しいオンラインゲーム<エルダー・テイル>の開発に追われていた。
「頼まれていたプログラムできました。」
そう言って黒髪のボサボサ頭の女性がフロッピーを別の社員に渡す。
「おお、すまないな。」
フロッピーを渡した後、すぐに女性はまた新たなプログラムをうち続ける。
「しかし、漢字って読みにくいな……山吹原子さんだっけ?」
「ハラコで構いません。向こうではそう呼ばれてましたから。」
そう言ってその黒髪の女性はにやりと笑う。
「おーい、お前らきっちり仕事してるか?」
そう言って恰幅の良い男性が入ってくる。
「ええ、今ハラコさんが作った経済プログラムの調整を……。」
「ああ、それは後回しにしてくれ。メイン職業なんだけど調整どれぐらい進んでるんだ?」
「……ええと、今パーティー戦でのバランス調整をしているんですけど、特に問題は無いと思いますよ。
やや騎士がダメージを受けやすいから、その辺の調整もかねて……。」
この時、職業はナイト、シーフ、ソーサラー、クレリックの4つの職業しかなかったのだ。
「そいつは良かった……実はだな。メイン職業を12個に増やしてくれ。」
「………今からですか?」
「幾らなんでもそりゃないっすよ。メイン職業1つ増やすだけでもバランス大変なんですから!!」
「とはいってもメイン職業4つだけじゃつまらないっていう意見もあるんだ。ともかくあと8個考えてくれ!」
「そんな無茶苦茶な!!」
メンバーの1人が悲鳴を上げる。
「サブ職業はどうしますか?」
そう言って横からハラコが声をかけてくる。
「そっちは特に問題ない。ええと……。」
「剣・鎧などを作る <鍛冶屋>。
弓・杖などを作る <木工職人>。
服・皮鎧などを作る<裁縫師>。
魔道書物などを作る<筆写師>。
薬品などを産み出す<調剤師>。
そして『世界を発展させる力』を持つ<料理人>。」
この6つが<エルダー・テイル>最初期のサブ職業であった。
『世界を発展させる力』とは何なのかについては、ここでの説明を避けておく。
「ともかくだ。アイディアはこちらでも考える。バランス調整は任せたぞ。」
そう言って上司は、すたすたと立ち去って行った。
「どーすんだよ。戦闘バランスとか……。」
呆然と立ち尽くし、唖然とするしかない一同。
「………私は、先にNPCのプログラム作っておきますから、戦闘のバランスとかは任せました。」
ハラコはそう言って、またパソコンをカタカタと動かし続ける。
「ハラコ。そろそろ休め。もう1週間家に帰っていないんだろ?」
「そうですね。」
そう言ってハラコは壁にかかっている進行表を見る。
「これ以上作業しても他が追い付いてませんし、今日はここで帰らせていただきます。」
そう言ってハラコはさっさと席を立つとそのまま帰る準備をする。
その様子を見て一同がホッっとする。
「……ハラコは働きすぎだよ。」
「日本語の名前の通りアトム(原子)のように規則正しい奴だからな。」
「(帰宅が)11時の悪魔だよな。」
「仕事中毒なんだよ。ジャパニーズビジネスマンの真似事をしてるだけさ。」
そう言って一同は疲れたかのように一気に愚痴る。
「俺達もさっさと帰るか。」
「そうだな。」
そう言ってメンバーは次々と立ち去っていく。
「じゃあ俺は仕事の引継ぎをするんで、後はよろしくお願いします。」
「わかったよ。じゃあ後頼むわな。」
「了解でーす。」
こんな感じで、<エルダー・テイル>開発の日々は過ぎていくのであった。
今回登場したキャラクターの名前がやばい名前になっておりますが、これは自分的にも悩んでいる部分もあり、どちらとしても動かせるようにわざとこういう名前にしております。
恐らく更新は2週間に1編ぐらいのペースを考えています。