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終焉の魔獣 その2

テストサーバのラスボスの攻略はなかなかに進まずにいた。

理由ははっきりとしている。パーティーバランスが圧倒的に悪いのだ。

まず最初に6名で攻略し、そして4パーティーが集まったらラスボスとのバトルという事で、最初のパーティー用のメンバーとレイド用のパーティーで温度差が発生するのだ。

パーティー4つ全てに<付与術師>と<吟遊詩人>が混ざるのはよくある事。

バラバラのパーティーのせいで、やることなすこと全てが反対。

そもそも、3サーバのパーティーが必要という事で、パーティーバランスがうまく作れないなどなど……。

逆に攻略できないという事で、気楽に参加をしながら、次の拡張パックの情報などを集めるなどの形を進めていた。


『……名声によってダメージが変わるだぁ?』

攻略会議中、そんな素っ頓狂な声が鳴り響いた。

『はい、黒の頭の能力は都市名声度に応じてダメージが減少、あるいは増加してく能力だと思われます。』

『……つまりはこういうことだ。PKやら迷惑行為を続けていたら、その能力を持った相手に太刀打ちできなくなるって寸法か。』

『はい、おそらくは。』

その言葉に攻略会議に参加していた一同が驚愕する。

『……となると、PKパーティー混ぜていたら、攻略不可能なシナリオが今後出てくる可能性が出てくるって訳か?』

『あるいはPK行為そのものに対してのペナルティモンスターが出てくる場合も考えられます。』

『……なんというか、話聞いてりゃ、それほど問題なく思えるが出てきたら世界が変わるぞ。』

この能力がもたらす影響は大きい。下手をするとPKプレイヤーはレイドに参加させられなくなる可能性も存在するのだ。

『……なんでまたそんなにPKを嫌ってるんだ?』


(あんなゲームで遊べるかよ)

(いきなりやられたんだぜ。やってらんねえよ。)

(お前、よくあんな奴らと一緒にゲームできるよな。)

水原貴也はそんな夢を時々見る。

昔の記憶だ。PKにあってゲームをやめていった友達。話が合わずにどんどんと疎遠になっていたクラスメイト。

だからこそ貴也はたかやとして<エルダー・テイル>の治安維持に色々と協力している。


貴也には止めていった彼らを止める権利はないし、責めるつもりもない。

彼らは後からやってきたわけであり、PK達よりも弱いのが普通なのだ。

悪質なPKに対してはアカウント停止がなされるのだが、1度でも受けた精神的なダメージはそう簡単にはぬけはしない。

一度襲われたのなら、同じ冒険者全てが敵に見えてくるし、その実信頼なんてできるはずもない。

日本サーバの治安は良いのだが、それでもPKを好む人間はいるし、マナーの違う海外からのPKメンバーもいる。

そんな彼らにカモにされるが初級冒険者なのだ。


<エルダー・テイル>の月額料金はそこそこ高い。『面白い事』を見つけることができずに辞めてしまうことが多々存在する。

よくPKに対しての理解が進んでいないとよく言われるが、その実『いきなり襲われる』側に対しての理解があまり進んでいない事については誰も議論を行わなかった。

それは襲われた側はゲームを辞めてしまい、こう言ってしまうのだ。

「MMOはつまらない。」

と。


こうなってくると、MMOをやりたがる人間は加速度的に減っていく事になる。

「MMOプレイヤーは初心者にいきなり襲い掛かってくる。」

「MMO世界は無法地帯だ。」

勘違いが勘違いを呼び、勘違いした無法好きがさらにMMO世界を荒らし……。

そしてMMO世界は終焉を迎えることになる。


どれほど強力なモンスターと戦える力を得たにしても、そんな顔さえ分からない人間の悪意に耐えられるはずがない。


水原貴也は、そうさせないように活動を続けている。

初心者に対してPKへの注意を促しながら、PK活動に対してのペナルティシステムの作成などの協力をしている。

それは全て父の為であり、また彼は<エルダー・テイル>の世界を愛しているのだった。


ネットゲームの主流がMMOからソーシャルゲームに進んでいるのもそっちの方が一因だ。

ソーシャルゲームではいきなりほかのプレイヤーに襲われる可能性は低く、ゆっくりと安心してプレイがすることができるからだ。

MMORPGの中で<エルダー・テイル>はまだまだ人気を保っているが、何らかの事件が発生すれば、その人気に陰りが見えてくるだろう。

ゆえに、何らかの形でPKを抑止するシステムや行動については、様々な状況を考えなくてはいけない。


ゆえに、直接的あるいは間接的にPKに対してのペナルティシステムの作成が必要だとアタルヴァ社は考えていた。

その為の黒、その為のダメージ計算システム。アタルヴァ社が用意した物はそれであった。


とはいえ、PKだけが問題ではない。

幾つかの社会的な主張を上げる人物達や、情報開示の問題。

それらすべてを解決するには時間が足りないし、不満点などのぶつかり合いはよくある事だからだ。


PKでは中堅には慣れてもトップになることはできない。

そういった『押さえつけのシステム』で何とか人気を保っているのが現状なのだった。



『………じゃあさ、そういった『PKプレイヤー』がトップになれないシステムってどうなの?』

『……MMOが成長を続けるには必要なシステムなんだろうな。

 <エルダー・テイル>だって、成長し続けているからさ。』

『……画像とかは古臭いのに、そう言ったシステムだけは新しいのね。』

『まあ、画像については昔からのパソコン愛用している人に優しいって事で。』

かやとドラゴンナックルはそう言って、話し合う。

『……昔は町に入れないとかそう言うのもあったんだが、PK側の要望で押し切られる形でPK団体も町の中で活動できるようになってな……。

 色々と、時代は変わっているんだよな。』

『………そういえばさ、さっき北欧サーバ分裂とかなんとか言ってた人がいるけどなんなの?』

『……まあな、自国の設定は自国の会社に任せたい……そんな人たちが結構いるんだよ。』

かやはそう言って一息ため息をつく。

『……北欧サーバはフランスが中心になってるから、そのあたりでの設定の差異が結構あるんだよな……。

 ロンドン…じゃなんかった、ロンデニウムとか最初ひどかったぞ。

 プレイヤータウンなのに夜になると、町の近くでレイド1モンスター『リッパー』が現れたんだよな……。』

『へー。』

『丁度その時町の中にいて、そいつに襲われて反撃したんだが衛兵に攻撃されて色々と大変ったんだよ……。』

『それは……。』

『……衛兵はモンスター無視するから、ああなると役に立たないどころか、邪魔になるだけなんだよ……。

 あいつエリア進入禁止無効化能力持ってるから、余計にややこしいことになってな……。』

かやはそう言いながら、愚痴をこぼす。

『ゲームに関する愚痴は長くなりそうだから、適当なメンバーを揃えて、もう一度挑戦してみない?』

『……そうだな。それじゃ、行こうか。』

かやはそう言ってメンバー集めの為に動き始めた。


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