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歪む世界

水原貴也は、<エルダー・テイル>運営の開発者の水原良馬の息子である。

父はやや厳格な面もあるが、息子がネットゲームで遊ぶことにそれほど文句を言わない。

「貴也、<エルダー・テイル>で困ったことはないか?」

運営ということで、プレイヤーが何を求めているのかをいち早くキャッチできるというのはある意味重要なことなのだ。

「……今のところ困ったところはないけど、シナリオどうしで幾つか矛盾があるみたい。」

「そうか。」

その程度の事では父親は動じない。そのぐらいの事は知っているからだ。

<エルダー・テイル>が始まって10年以上、各サーバによって作られたクエストは10000を超える。

レイド級のクエスト、そのレイド級の前のクエスト、パーティー向けのお楽しみクエスト、アイテムを入手するためのクエスト、コラボクエストなど、運搬クエストなどを除いたとしてもそれだけの数が存在する。

そんな中、一部のクエストにおいてシナリオどうしの矛盾が発生する事がどうしてもあるのだ。

矛盾に関しては、一つ修正すると近くのクエストを次々と巻き込みながら修正の連鎖が始まることがあり、よほどの事態がないと解消されないように設定されている。

「リーチャー(ギルドに属しているが、ギルドに貢献していない人間)が増えないようにするための対処ってあるのかな?」

「そのあたりはプレイヤーが考慮してマニュアルを作るべき項目だな。我々が介入できる余地はない。」

そのあたりの言葉で、大体のことを悟ったのだろうが、何も言わない。

「強いて言うならゲーム感覚でギルドを作るべきではないし、貢献者には優先して良い装備を与えるようにできるようなシステムをギルドを作る段階で作っておくのが良いだろう。」

そう言って良馬はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ネットの中もリアルも変わりはしない。ただネットの中では相手の姿が見えないから、余計なものを押し付けていく事が多くなっていく。」

「……そして崩壊していく。」

「そうだな…。ギルドに関していえばギルドマスターやギルド幹部の権限なども色々と考えられるな。」

ギルドシステムの再構成などは、様々なノウハウが存在するがギルドマスターがいなくなってつぶれたギルドはそれこそ無数に存在する。

一応ギルドマスターの権限を分けられるようにできるようにすることもできるが、そのあたりの調整は個人の領域に任されている。

「……たかや。一言だけ言っておく。ギルドが亡くなることを悲しむな。どんな組織も永遠に続くことはない。」

「……わかっています。」

良馬はそう言って、貴也に声をかける。

貴也は一度もギルドに属したことがない。別に悲しい思いをしたくないわけではない運営の息子としての遠慮があるからだ。

「……そうだ、ちょっと父さん静岡の方に仕事で行くことになったから、お母さんと仲良くやるんだぞ。」

「あれ? 静岡だっけ? 確か北海道の会社とコラボするって言っていた気がしますけど……。」

「コラボは北海道、静岡はシステムの件でどうしても外せなくてな………。」

「全自動翻訳システムでしたっけ? あれ本当に実装されるんですか?」

貴也はやや不安げに父に質問する。全自動で文章を翻訳しそれを会話として成り立たせる……。

「一応の試験的な研究はされているようだ。その件で明後日から試験的に静岡の方に行く。」

「まずは喋ってくれるアイテムの追加でしたっけ?」

貴也はそう言って、確認を行う。

「うむ、それについては、声優を使うべきだという意見もあるが、音声システムで作れば、あとで声優を呼ばなくてもすぐに音声データが作れるからな。」

例えば追加パックでデータを作る場合、必要な音声をシステムで作れるようにしておけば即日で対処できるというメリットがある。

声優と契約するよりも、そちらの方がはるかに動きやすいというのが最大の理由だ。

「…………。」

「どうした、たかや?」

「……ですけどコラボって本当にする気なのですか?」

「静岡の方が、ちょっと条件で出してきたからな。流石に聞かないといろいろとまずい。」

良馬はそう言って、にっこりと笑った。



さて新しいクエストを作るとなると、その為に他のクエストとの関連が必要になってくる。

それらを一つ一つ検証していきながら、クエストを作成していくのだが………。


前のクエストに縛られて、設定を書き直す。前のクエストとは全く別の設定が生えてくる。

そういうことが多発しており、そのあたりの修正などでかなり多くの時間が費やされることになる。

クエストが大きければ大きいほどその修正には時間がかかるようになるのだ。

それだけではない、海外サーバとの設定のすり合わせなど様々な要因がクエストを作る制限となる。


例えばイコマ。宮廷都市という設定だが、キョウの都という首都があるのになぜそういう設定がされたのか。

これはまずキョウが<スザクモンの鬼祭り>の為に作られたためものであり、イコマは後でウェストランデにおける、運搬クエストの集中発信所として設定されたからだ。

だがこれらを変更するとなると新しい<スザクモンの鬼祭り>の場所や運搬クエストの位置を変更せねばならず、さらに言うならばこの手の変更は古くからの冒険者に対して不満を持たせることになる。

その為このあたりの矛盾をあえて解消せずにしておくのであった。


アメリカ・アタルヴァ社……

「一部のクエストのレベルを上げるべきだ。」

密閉された会議室の中でそんな意見が飛び出してきた。

「ただでさえ中レベル域の数が増えすぎている。これはその最高レベル域でクエストを増やし続けたためであり、現在では中級冒険者が簡単にクリアできるまでレベルが下がってきている。」

「クエストのレベルを上げるべきではない。」

そう言って別の人物が意見を言う。

「クエストのレベルを上昇させたとして、それは新しいクエストにはならず、ただの再生産にすぎない。それは後から来た冒険者は不利になっていくだけだ。」

「アイテムについては、高レベルモンスターのランダムドロップで同じアイテムを手に入れることは難しくない。

 思い出などに関しては、彼らが経験したものは、「最高レベル」での体験であり「そのレベル」での体験ではないはずだ。」

双方の意見は平行線だ。お互い自分が正しいと思っているし、それらの証拠も多数ある。

相手が間違っていると思っている人間は基本的に中立の立場であり、彼らはすぐには意見を言わない。


双方妥協点を探り、一部のクエストについてはレベルを上昇させることになった。


<ゴブリン王の帰還>におけるゴブリン王の最大レベルは55・レイド4。これはゴブリン王が倒された時のレベルを考慮した物だ。

それからどんどんと冒険者の最大レベルが上がっていったために、このレベルでは最高レベルの冒険者では力押しで倒されるという事態が続いていた。

とはいっても<ゴブリン王の帰還>はレベル上昇クエストには入っていなかった。これは<ゴブリン王の帰還>がレベル変動型のクエストであることと、ゴブリンのレベルを上昇させてどーするんだという意見が多数を占めたためだ。

逆に<スザクモンの鬼祭り>はレベルを上昇させることになった。

これは、無数のモンスターが襲ってくるときにレベリングを行いやすくするためであり、短時間で終わることを考慮に入れて、レベルを上げることにしたのだった。


これはやや冒険者と受け入れがあったがそれはまた別のお話。

今回ちょっとミスがあって、翻訳システムについて自分は音声だと思ったのですが、ひょっとしたらテキスト翻訳だったりするのでしょうか?


なお、静岡や北海道については他の方の作品ネタです。

これについては次回ちょっと触れようと思います。

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