供贄の黄金
今回、自分なりにお年玉企画に挑戦してみました。
詳しくは後書きでどうぞ。
「仕様についてはわかられたでしょうか?」
担当者の説明に原子は真面目に答える。
「仕様についてはわかりました。北米サーバでも同じような事をしていますから。」
「今回我々が考えているのが、地域別の社会システムの構築です。北米サーバにおいては同じサーバ内に複数の経済システムを並行して作っていたわけですが、我々は国家ごとに別々の社会システム構築を考えております。」
「国家ごと……そうでしたね、日本サーバは幾つかの国に分かれていたのですね。」
「ええ、それぞれに別の社会システムを構築させる事で、どのような社会にどのような特徴があるのかをはっきりさせる。それがこの設定の目的です。」
仕様書を見ながら原子はどのようなプログラムを打つのかを一瞬で頭の中で作り上げる。
(これは1か月ぐらいかかりそうね)
「まあ、まだ仕様変更なんかもありますからゆっくりやって構いませんよ。
とりあえず最低限必要な分はこれだけですので、よろしくお願いします。」
「わかりました。」
社会システムの構築。
一言で言うのならば、MMO内のシステムに『リーダー』を作り出すと言う事である。
例えば村々においては『村長』として村全体の判断を行う『リーダー』の権限をもったシステムを組み込んでおき、村々で何が足りなくなるかなどを判断していくシステムだ。
「……なんだろう、最近MMOじゃなくてシミュレーションゲームを作っている感覚になっている……。」
「あるいはそれが理想のMMOなのかもしれませんね。」
そう言って原子の疑問に答える。
「え?」
「原子さんは10年以上MMOと付き合ってきたのでしょう?そんな中で冒険者達がどのように動いてきたのかを考えてみてください。
彼らはただ戦っているのではありません。どうすれば利益が最大になるのか、どうすればダンジョンを攻略できるかそれを必死になって考えているのです。
それはRPGというよりもシミュレーションゲームに近いでしょう。そしてRPGと違ってシミュレーションゲームには終わりが無い事があります。」
「……なるほど。」
「しかし単純にシミュレーションゲーム化しただけであったのなら、それについていけない人間はやることができなくなる、だからこそだれでも参加できる冒険型のMMOとしての形が作られるわけです。」
「うーん確かにそんな感覚はありますよね………。でも反対意見もあるのでしょう。」
「ええ、MMOはRPGであるべきだと言う意見ですね。
単純に冒険だけを楽しめればいいと。
私もそれは否定はしません。しかし何万人ものプレイヤーがいる以上いつかはシミュレーションゲームのようになっていくでしょうね。」
原子はその考えに関してはかなり近い物を感じている。自分が担当している『A』についてはもはやRPGをする為の物ではなく、シミュレーションの為のプログラムに近いからだ。
「何時かはPCとNPCが同じ立場で物事にあたっていくのかもしれませんね。」
「はっはっはっ。それはありませんよ。NPCは何処まで行ってもNPC…PCの引き立て役にしないとPC達が怒りでやめちゃいますからね。」
さてF.O.E本社。シナリオ制作班がぶつくさ言いながらシナリオを作っていた。
「『ヤマトの地下奥深くに金貨でできた河がある。冒険者は消えた金貨の行方を追ってその黄金の川を探すことになる……』か。」
彼らが今作っているシナリオは『供贄の黄金』と言うクエストだ。
ヤマト全土に存在する金貨の量がある一定以下の時に発動し、冒険者を地下の黄金の川に案内する事になる、クエストをクリアする事で大量の金貨を放出する為のクエストだ。
万が一ゲーム内経済が崩壊しかけた時に発動し、冒険者の手でゲーム内経済を安定化させるのが目的の一連のクエストだ。
何故運営が直接干渉しないのかと言うと、運営が直接動くよりも冒険者に動いてもらった方がモチベーションを強く保てることだ。
救済措置として金貨をばらまくよりも、冒険者に大量の金貨をクエストの報酬として渡した方が良いだろうと言う判断からだ。
供贄一族の設定を使ったのは、彼らがあまりにも活躍していなかったらのサプライズである。
もっともその事を供贄一族が知ったら卒倒しかねないのだが。
また、ここには幾つかの機能が存在しており、金貨はある一定以上とったのなら無くなってしまうシステムになっていた。
また、不要なアイテムをここで処分する事もできるのであった。
『ゲーム内の経済を安定化させるためのクエスト』という一見ふざけたクエストではあるが、その実、プレイヤーを満足させつつ、ゲーム内の経済を安定化させる手段であった。
「しかしこんなクエスト用意しなくても、プレイヤー達が自分達で経済を安定させてくれると思いますよ。」
「……ふざけるなッ! それを信じて幾つのMMOが消えていった? BOTによる過負荷でどれだけのサーバが消し飛んだ? 俺達はそうなるわけにはいかないんだぞっ!」
リーダーが叫ぶ。MMOの流行り廃りは自分達の生活が懸かっているのだ。それをプレイヤー(他人)の手にゆだねるわけにはいかない。
人気の出そうな要素はきちんと取捨選択して入れ込んだ。
美しいグラフィック、コラボ作品、初心者救済………自分達は綱渡りをしながら戦っているのだ。
それをのほほんとプレイしている人間がわかるはずもない。彼はそう思っているのだ。
最高級のシステムとそれですら不満に感じるプロの感覚。それこそが<エルダー・テイル>を最高の物に仕上げているのだった。
幾ら経済システムを複雑化させようとも、経済がゲーム理論と人の感情で動いている以上、必ずどこかで破たんが現れる。
「食糧不足か………クエスト『新緑の邪神』が発動するな。」
『新緑の邪神』は、<エルダー・テイル>の食糧アイテムが減少した時に発動するクエストだ。
確率の偏りとちょっとした要因が重なりあった為に、食糧アイテムが急激に減少した。
そのせいで食糧アイテムの価格が急激に上昇しつつある。
その為に経済を安定化させるためのクエストが発動したのだ。
≪放蕩者の茶会≫の集会場。
『何々……現在<セルデシア>は食糧危機に陥っています。
『新緑の邪神』が大地の栄養を吸収している為です。冒険者よ!『新緑の邪神』を止めてください!……か。
面白そうなクエストだな。』
『しかも挑戦レベルが少々低いですね。これはすぐにでも動かないと、先を越されてしまいますわよ。』
メイド服の女性が全員を急かす。
『んー。何だろう? ちょっと変な感じがするのよね?』
カナミがそう言って一同を引き止める。
『どうしたんですか?』
『これだけの大事件なのに<古来種>が動いていないのは変じゃない?』
そう言ってフレーバーテキストや依頼主を指し示す。
『なんかちぐはぐな感じがするのよ。世界中に影響を及ぼすようなクエストなのに<古来種>じゃなくて領主連合が依頼人ってさ。
依頼だって予告がそんなにあったわけじゃないのに急にレイドだって。
報酬も幻想級のアクセサリって、少しおかしくない?』
『細かな設定ミスだろ? 食糧アイテムが値上がりしていたから、何か予告があったのかも。』
KRがそう言ってカナミの意見を否定する。
『<ホネスティ>のアインスさんと話をしてみたんですけど、そういった予告は一切出ていなかったそうです。』
『なんか不気味な話になってきたな。』
とそこでシロエに一つの連絡が入ってくる。
『……2xxで、関係者らしき人物の書き込みがあったそうです。
何でも、このクエストはハーフガイアに流通する食糧が減ってきているから、それを是正するためのクエストらしいですね。』
『なんじゃそりゃ?そんなの運営が適当に流せばいいじゃないか。』
『そうすると、この機に乗じて買い占めている人の不服を買いますからね。
それをするぐらいならば、こういった大規模クエストで是正すると言うのは間違っていないと思います。』
『なるほど、運営が直接動けば反発もあるだろうが、こういったクエストならば値下がりは仕方がないと言う事か
『だとするとこの幻想級の報酬も本物か!
じゃあ、さっそく参加祭りだぜ!!』
『私はパス。』
カナミはいきなりそう言う。
『へ?』
『何か、つまんなさそう……と言うか他に食糧問題の解決法があると思うのよ。私は。』
『………例えばどのような?』
『何でもいいから食べ物を落とすモンスターを片っ端からやっつけて、それを村々で売りまくる!』
『力技!?』
『そういう事、そっちのほうが絶対面白いよ!! と言う事でシロ君、KR。調査お願いねー!』
いきなりの無茶ぶりに2人は固まってしまった。
なろうでのお年玉企画……それは『新緑の邪神』を倒す権利です!
この『新緑の邪神』を退治したのは自分達のキャラクターだと言われる方は感想欄で書かれてください。もしも複数立候補された方がおられたのなら自分が4日にランダムに選んで発表させていただきます。
『新緑の邪神』には設定上ちょっとした落とし穴が存在しますが、この時期は倒すのが最良の手段です。
(大災害以降は違います。そのあたりはネタバレになるので書きませんが……。)




