5000人の『死』
神託の天塔のクリアから2年後。たかやはカナミから相談を受けていた。レイドイベントなどに参加したい。
しかし………。
『ギルドを作りたくない??』
カナミから相談を受けたたかやはその言葉に驚愕した。
『そっ、ギルドって色々ややこしいじゃん。だったらさいっそギルド作らないで、皆で少しずつ管理した方が楽でしょ?』
『……理屈上はそうだが、実際には色々とボーナスも考えれば、ギルドを作った方が楽だぞ。』
『でも私はギルドを作りたくないから作らない。』
『うーん、そうなるとメンバー集めが難しいな。回復役と武器攻撃職は野良を集めればある程度助かるが、盾役と付与術師はフリーが少ないからな。』
『たかやさんは?』
『俺は運営に関わってる人間だ。ギルドには参加しないようにしているんだ。』
きっぱりと断りながら、たかやはやれやれと考える。
『……まあ、こんなことを考えてる奴がいるって事を話しておくのは、ちょっとした手助けとしては問題ないだろ。』
そう言いながら、たかやは頭を抱えた。
『うん、わかった。それじゃあ、よろしくね。』
『……それで、付与術師の僕を誘いに来たと?』
『そ、シロくん、頭良いし、付与術師は数が少ないうえに上手が人がいないって言ってたし……。』
頼られるのは悪い気分ではないがさすがにギルドを作らないで組織を作ると言うのは幾らなんでも発想が飛躍しすぎではないだろうか?
『とりあえず人を集めてみようよ。ばーっとばーっと。』
『それで、俺の所に来たってわけか。』
『ちょっと冒険しただけの相手にこういうのも悪いかもしれなけど……。』
そう言って、シロエは目の前の直継に声をかける。
『……良いぜ、そういう事なら、面白い事祭りだぜ!』
『ありがとう……大変かもしれないけど、手伝ってくれるとうれしいな。』
このギルドを組まないギルドは、最初は無名だった。
変な奴が主導して、何名かが巻き込まれていると言った感じだったのだ。
バラバラに行動しながらも一つのチームとして動き続ける彼ら。
わいわいと騒いでいたと思ったら、静かなお茶会のようにみんなで話し合うなどをしていた。
何時しか彼らの事を、『放蕩者の茶会』と言うようになったのだった。
1人、また1人と仲間達が増えていき、『茶会』はやがて伝説のプレイヤー集団へと変化していく。
ギルドを作らず、自由きままにこの世界を楽しみながら、色々なクエストに挑戦を行う。
ややもすれば無駄かもしれないが、それはとても楽しい時間であった。
『なるほど、にゃん太さんも『茶会』に入ったんですか。』
『ええ、ここはここで居心地が良いですからにゃ。』
F.O.E本社ビル。
「………今度は5000人クラスで殺さにゃならんのか……。」
「前は1000人でしたからかなり増えてますね。」
「当たり前だ。何せヤマトを滅ぼそうとする巨大な敵だからな。」
彼らはレイド制作専門のスタッフである。レイド級モンスターの調整や作成などを手掛けており、シナリオなども手掛けているのだ。
「……ま、幾ら死んだとしても所詮は文字だけの存在だ。<ハーフガイア>には何ら影響を及ぼさないからな。」
そう言って、その男はシナリオに目を通し始めた。そこには何ら悲哀も憐れみもない。
それは、只仕事で話を作っている人間の眼であった。
歪みかもしれない。間違っているかもしれない。それでも新しい<エルダー・テイル(古の物語)>は作られていく。
さて、<エルダー・テイル>のレイドイベントには幾つかのパターンが存在する。
まず、『ゴブリン王の帰還』『スザクモンの鬼祭り』のように、定期的に発生するイベント。
次に、不定期的に発生するレイド級モンスターの挑戦。(これは簡単にレイドが楽しめようにする為の物)
次に、『邪神教団の野望』など、冒険者が特定の人間と接触する事で開始されるイベント。
次に、サーバ管理会社が気まぐれで起こすイベントなどだ。
これらのクエストはそれこそレイド制作班が頑張って作ったのだ。決してセルデシアの都合で作られたのではないだろう(多分)。
彼らは<ゲームの都合>をセルデシアに押し付けた。それはある日<ハーフガイアの都合>を押しつぶすことになる。
そして、ヤマトをめぐる精霊山の攻防が始まり、冒険者達はそれに勝利をした。
この時、<D.D.D.>や<ハウリング>と言った名だたるギルドが挑戦を行った。
そして、彼らのヤマトをまたにかけた冒険は、数多の電子記録に残る事になったのだった。
但し、そこには<放浪者の茶会>の名前は残っておらず、只個人個人の情報のみが記録の水平線の中に残っているだけである。
アタルヴァ社開発室
「ええと、『B』『C』『D』『E』の調整についてですけど……外部の人間を使うんですか?」
原子はそう言いながら、資料を次々と渡す。
「確かにそうなんだが、経済学ってのはそれこそ実践が難しい学問でな。大学のお偉いさんが、研究の為に金を出してでも、この仕事を請け負いたいって言ってるんだ。
スポンサーとして、ここまでしてくれる人間は他にいないんだ。」
「なるほど、現実世界の経済で色々やらかしてしまえば、それこそ多大な被害を及ぼしますけど、ゲーム内でしたら被害は最小限に抑えられる……そういう事ですか。」
「ああ、そうなると、システムはもっと複雑になるだろうな。そのあたりも仕様書を持ってきたから色々と調整してくれ。」
「わかりました。」
そういって、原子は資料を受け取ろうとして、ちょっと手間取る。
「どうした、原子?」
「いえ、ちょっと眩暈がしただけです。」
「そうか、体、ちょっと労われよ。」
「ええ、わかっています。」
少々困った顔で原子はクスッっと笑った。
しかし話はそれだけでは終わらなかった。このシステムの調整に複数の大学が名乗りを上げたのだ。
それは、<エルダー・テイル>の終わりをさらに伸ばす、とんでもない事態を引き起こすのだった。




