山吹原子
「君がこの<ニュー・リアル>を作ったのかい?」
「はい。数名と協力してもらいましたが、メイン部分は私が作りました。」
「………凄いな。」
そう言いながら原子は自信満々に言う。
「これだけのものが作れるなら、これを利用して別のゲームを作れないか? 例えばMMOとか。」
「それは面白いですね……一応、人間の干渉を最小限にして作成したゲームですから、プレイヤー干渉を前提とすると色々と変更する必要があると思います。」
「<ニュー・リアル>ってのはどこからとったんだい?」
「もう一つの新しい現実……。自分で作るもう一つの世界として作りました。」
そう言いながら担当者と原子は何度か話し合う。
「………あっ、そうだ。うちで働いてみませんか?」
「就職のお誘いですか? 私個人としては、御社で働く事が御社の為になるか判断はできません。」
そう言って原子は相手の判断を待つ。
「それじゃあ少しテストさせてください。」
「テストですか?」
「何個か私が問題を出しますんで、それの解決プログラムを今ここで作って下さい。」
「なるほど、わかりました。」
素直な子だなと思いつつ、スカウトは幾つかの案件を彼女に出した。
「………………。」
スカウトは少々頭を抱えた。
実力は高い。それこそプログラムを作る実力は。
性格は本当に素直と言ってもいいだろう。しかし……しかしである。
「どうしましたか?」
「……とりあえず、こちらで検討いたしますので、よろしくお願いします。」
「こちらも貴重な時間を割いていただきありがとうございました。」
(……貴重だからこそここに割り振ったんだけどな……)
やや丁寧な受け答えをしながら原子はにっこりと笑った。
「………で、調べてみてどうだった?」
「プログラムの腕はすごかったですね。性格はかなり大人しいというか……つつましいというか……。」
「要するにガッツがないって事か?」
「どうでしょう? あれだけの物を作れるのはかなりのガッツが必要だと思いますけど。
ただ気になったのが、素直すぎるってところでしょうか?」
「素直すぎる? どういうことだ??」
「いきなり、プログラムを目の前で作れって言われたらどう思います?」
「……少し嫌だな。」
「彼女は嫌な顔を少しも見せなかった。少々意地悪な問題を出したんですけどかなり早く解きましたし。」
「そうか……。」
<ニュー・リアル>を見ながら社長は呟く。
「……よし、彼女を雇おう!!」
「ええっ!!!」
「これだけのものが作れる人材だ。引き抜いて損はないだろう。」
「わかりました社長がそういうのでしたら………。」
「……山吹原子と言います。これからよろしくお願いします。」
かくして、山吹原子はアタルヴァ社に入社することになった。