神託の天塔 その2
さて、時間は少々巻き戻る。
【第一階層を韓国サーバが突破しました。】
『なっ! こんなに早くか。まだレイドが始まってから1週間しか経過していないぞ!!』
『……第一階層は単純なモンスターの群れしかいませんでしたからね……マンパワーでゴリ押ししたのでしょう。』
『だが、階層ごとにボスがいるはずだぞ。』
『それも、マンパワーでゴリ押しすれば勝てない相手ではないですにゃ。』
『……なるほど。』
天界の塔は全8階層からなると言われている。これらを1つ1つ突破していきながら、最上階を目指すと言うのが最終目標だ。
『韓国サーバは廃課金サーバですからね。リアルマネーの力も加われば、かなり簡単に突破できるでしょう。』
<エルダー・テイル>を運営する上で問題となるのがやはりお金だ。日本サーバはやや広告で補っているところもあり、コラボアイテムや『現実世界の服をエルダー・テイルでも着れます』と言う言い文句などの広告を行っている。
たかやなんかは、そう言った宣伝の為、町の中ではそう言う服を着たりしている。
課金があるといっても、日本サーバでは、それほど課金で強くなることは無い。
幻想級は大半がレイドでなければ手に入れる事が出来ず、それ以外で手に入れようとするならば、エリア開放イベントなどでラスボスにとどめを刺したプレイヤーが手に入れられるのが普通だ。
後者は簡単そうに見えるが、実はレイドより手に入れる方法が難しいのだ。
まずエリア開放イベントはそれこそ何百人、何千人ものプレイヤーが世界中から集まってくるのだ。
それだけではない、エリア開放ボスは多くても8体……。つまり8人しか手に入れられないわけだ。
しかもボスは恐ろしく強く設定されている。
これは数千人の冒険者の猛攻に耐えなければいけないからだ。
単純な範囲攻撃の連発だけではなく、耐久力も一品だ。
話を韓国サーバに戻そう。韓国サーバは他の12サーバとは違った状況が存在する。それはすなわち『基本プレイは無料。ただしサービスなどは課金が必要』と言う事だ。
とりあえず無料で釣って、必要なサービスなんかは有料と言う事で、基本サービスパックなんかは他のサーバと同じぐらいなのだが、それこそ、普通では考えられない課金が存在する。
『廃課金幻想級装備』。日本ではそう言われている装備がまさに存在するのだ。
10ウォン(=約100円)のガチャを回して、百万分の一の確率でとる事が出来る、幻想級素材。
1,000ウォン(約10万円)以上の廃課金者に与えられる秘宝級サポートアイテム。
直接的に5,000ウォン(約5万円)で売られている幻想級武器。
そんな感じのサーバなのだ。
レイノルズ騎士団の集会場。
『…それじゃあ、俺達日本サーバがどれほど頑張っても、韓国サーバの連中には勝てないってわけか?』
『………わかりません。今回のレイドイベント、各国サーバが、アタルヴァ社のルールを守りながら、色々と裏で手を回しているみたいです。』
ギルドマスターのアイザックがそう言って部下達に話をする。
『………攻略は進んでるんですけど、素材回収が馬鹿になりませんね………。』
『パーティーランクの猛攻をどれだけしのげるのかが問題なんだがMPが持たねえよな、ありゃ。』
『……それで1人面白い奴を見つけましたよ。フリーのシロエって奴なんですけどね。』
『……やはり韓国サーバが一足先ですか。』
『これはとられても仕方がありませんね……。』
そんな中、ちょっとした事件が起こった。フレデリック=F=フーバーという男がアメリカでアタルヴァ社に訴えられたと言う事件が起きたのだ。
このしがないBOT作成プログラムの作り主は、世界中にBOTをばらまきその金でさらに高性能BOTを作成し続けていたのだ。
やや些細な事ではあったが、それでも事件は事件であった。
日本のどこかの家。
「つまり、村ごとに名産品を全部設定させて、それで日本サーバ全体の素材アイテム量をかさ上げしているって事ですか?」
「まあ、手っ取り早く説明すると、そう言う事になるな。」
「父さん、そんな手段で本当に塔の攻略が早くなると思っているんですか?」
「思っているさ。素材アイテムがあれば色々できるだろう?」
「できると言ってもレシピが無いと何も作れませんよ。」
「ははは、そりゃそうだったな。<エルダー・テイル>ではレシピが無ければ何も作れないのだからな。」
第一階層、第二階層と次々と攻略が進んでいくが、そんな中素材アイテムの不足がどんどんと問題となっていった。
素材アイテムが不足すれば、攻略の速度も下がる。
つまり素材アイテムはどんどんと値上がりするのが普通なのだ。
しかし前回たかやは値下がりしていると言った。それはつまり供給に需要が追い付いていないと言う事であり、つまり攻略する人数の少なさが需要の減少を行っていたのである。
日本サーバでは廃人と言われるプレイヤーが少なく、レイドに挑戦しようとするゲーマー自体が少ないのだ。
しかし、軽く攻略しようとする人間が増えてから、素材アイテムの価格は上昇していった。
さて、日本でやや軽い気持ちで攻略しようとしている人間が増えている間、外のサーバでは素材不足が深刻になり始めていた。
無論、素材アイテムはきちんとモンスターを狩っていれば、落とすものであったが、サーバ間が移動できなくなった弊害のせいか、素材アイテムに偏りが発生してきたのだ。
それだけではない、サーバ間の移動が禁止されたことで、サーバ内での国際問題が発生。
攻略の為の足の引っ張り合いが始まったり、素材アイテムを(架空の)自国内に引っ張り込む行為が多発。
その為に攻略速度が著しく落ちると言う事態になったのだ。
韓国サーバはどんどんと悲惨な状況になり始めていた。
課金アイテムの幻想級装備ではあるが、修理の素材は一応必要である(量は少なくていいが)。
そうなってくると、素材を集めないといけないのだが、課金をしているチームは仕事もしているメンバーが多く(そもそも、課金と言うものは、ゲームに時間をかける事が出来ない人間とできる人間の差を埋める為の代物である。)、素材集めに時間をかけられないのである。さてそうなってくるとどうするのか……つまり更なる課金である。
つまり、課金をする人間にさらなる負担がのしかかり、していない人間がそれにすがると言う事態になり始めたのだ。
そうなってくると、課金した側の不満が高まっていく。
俺達は課金した武器でTUEEEEがしたいんだよ。無茶苦茶な苦労をかけてまで名声が欲しいわけではないんだよ。
こうなってくると一般メンバーだけでの攻略難易度は遅くなっていく。
そう、廃人だけではゲームができないのだ。
それが<エルダー・テイル>のシステムだったのだ。




