ギルド会議
今回PKに対して悪いように書いています。
自分はMMOの経験がない為、PK行為に対して忌避感を持っており、かなり悪しき方向に書いています。
アタルヴァ社会議室
『話は聞いたぞ。すさまじいPK合戦だったらしいな。』
「ああ、かなりややこしい事態になっている。双方のヘイトがMAX状態だからな。
ひとまず今回の件がまとまるまで双方へのサーバ侵入を禁止したから、しばらくはなんとかなるだろう。」
電話から流れる音声を聞きながらその男は、冷や汗を垂れ流す。
「今回の件において、様々な要望が出されているよ。
もっともどれかを取捨選択しなければならないだろうがね。」
『そこまで矛盾しているのか?』
「ああ、まったく困ったものだ。」
そう言いながらその電話を受けている男……アタルヴァ社の社長は頭を抱える。
「……初心者と上級者プレイヤーの格差、サーバ間同士の対立、そしてキャラクタースキンの問題……はぁ……。」
『仕事量が多すぎるな。』
「ああ、だが、やらねばなるまい。それが我々の仕事なのだからな。」
『だが、この要望の数々は……。』
「……まあヨーロッパサーバの社長とも話し合う必要がある。一回切るぞ。」
『わかった。それじゃあ、こっちでも要望をまとめてみる。』
「うむ、頼んだぞ。」
そう言って社長は電話を切る。
「……プログラムについては原子に一任すれば問題ないが、人の感情まではどうにもできん。」
そう言って一言大きなため息をついた。
日本……F.O.E社内。
「やはり向こうも問題を抱えていますか?」
「ああ、今回の件についてはこちらは蚊帳の外だ。だが、プレイヤーへの配慮は考えなくてはいかん。」
いきなり上級プレイヤーに襲われる恐怖……これは初心者プレイヤーに対してかなりのプレッシャーになるに違いない。
「みな勘違いしてるようだが、『できる事』と『やってはいけない事』にはかなり大きな差異があると私は考えている。
襲われる都合を一切考えず、そのまま活動し続ければ、『ちょっとした楽しみ』でやってきてくれる方に申し訳なく思う。」
そう言ってF.O.Eの社長は外を向いてつぶやく。
「最悪、悪質プレイヤーのサーバ単位での出入り禁止も視野に入れた調整が必要かもしれんな。」
この手のPK問題は意外と根深いものがある。
PKを好むプレイヤーとPKを嫌うプレイヤーそれぞれの立場があり、それぞれが同一サーバで行動している以上、そういったもののすり合わせというものが問題になるのである。
今回の件は、攻略系ギルドが攻略の為のアイテムを買いそろえる為に複数個所の商店で大量のMP回復ポーションを買いあさっていてそれを運ぶ途中を狙われたというものがある。
これらのMP回復ポーションは非常に高価であり、販売すれば大量の利益が得られるのである。
なので<レッドシザー>はこれを襲ったのだ。
それに対抗すべく<ブラック・ブレード・ブラザーズ>は戦闘できるメンバーほぼ全員を集めてこれに対抗した。
戦いはそれこそ数時間の間続き、運営が双方を一時的に戦闘不能状態にすることによって一応の決着を見た。
しかし戦いが終わったとしても、双方の感情の差は収まらない。
<ブラック・ブレード・ブラザーズ>は<レッドシザー>に対して、何らかの対抗策を練る事すら考えている有様だった。
互いが互いを罵り合う中、ある一人のプレイヤーが立ち上がった。
「ホワイトベル」と呼ばれるそのプレイヤーは、有力ギルド達と運営会社3社にメールを送ると、代表が集まっての会議がしたいと<エルダー・テイル>の事は<エルダー・テイル>内での話し合いも必要であると。
ワイワイ騒いでいるだけなら、誰でもできる。そんな中でプレイヤー同士での対話の必要性を説明した彼女の言葉は、すんなりとはいかないものの、大規模なギルドもこの問題に頭を抱えていたので、会社もまた、アキバギルド会館に会議用のホールを準備し、時間調整などを行い、代表者達を集めた。
会社側の代表として
アタルヴァ社広報役、ミスター・アタルヴァ。
プログラム調整、コハラ・マウントブレス。
法律の専門家、スターダスト・リブラ。
の3名が。
プレイヤー側の代表として
<ブラック・ブレード・ブラザーズ>代表。ニュートン(イギリス)。
<レッドシザー>代表代理。イレブンブレード(アメリカ)。
<猫まんま>代表。玉三郎(日本)。
<ポセイドン>代表。ロード・オブ・シー(アメリカ)
<青空同盟>代表。スカイ・ブルー(フランス)
<関西にプレイヤータウン作ろう同好会>代表。ビリケン(日本)
<シャーウッド>代表。ロビン(イギリス)
<赤き挑発者>代表。レッドブル(スペイン)。
<眠れる子羊>ホワイトベル(日本)。
の9名が集められ、3時間の間、会議を行う事になった。
『皆様、私はアタルヴァ社の代表としてきました、ミスター・アタルヴァです。
こちらがコハラ・マウントブレス。』
『よろしく。』
『こちらが、スターダスト・リブラ。』
『どうも。』
『今回、PKの件について、皆様の忌憚なき意見を聞きたいと思い集まっていただきました。』
『はっ、PKなんてのは権利なんだろ? そんなに止めてほしかったら、プログラム自体で止めとけよ。』
イレブンブレードがそう発言して、他のメンバーを切り捨てる。
『それは違います。』
その言葉に重ねるようにホワイトベルが重ねる。
『強盗は権利ではなく『できる』だけにすぎません。』
『いくら武器を持ってるからって、相手を襲っていいって理由にはならないんだぜ。』
その言葉に賛同したのはロード・オブ・シーだ。
『本当は、味方に攻撃も当たらなくもできたんだけどね。そうするとPK側が範囲魔法を連発する事になりかねないからやめたのよね。』
コハラがそう言って茶々を入れる。
『……私の方からもよろしいでしょうか。』
ニュートンがそう言って、意見を言う。
『なんだよ。襲われたからって何か言いたいのかよ。』
『ええ、今回我々はあるレイドイベントに参加する予定でした。』
そう言ってニュートンが淡々と説明をする。
『メンバーの一人が商売用のサブキャラでMP回復アイテムを買って、次のレイドに挑戦しようとしていました。
<エルダー・テイル>最高級アイテムの秘宝級アイテムは、レイドでしか手に入れられませんからね。』
『ま、最初にクリアした人間がレイドのお宝総取りってのがこの世界のルールだからな。』
ビリケンがそう言って、ニュートンの言った言葉を補足する。
『ですが、PKを許可した場合、レイドギルド同士の足の引っ張り合い……つまり相手ギルドを妨害しながらの活動などもできるようになるわけです。』
『純粋にレイドを楽しむのではなく、相手の妨害をして先を争うようになる。そう言いたいわけか。』
レッドブルがニュートンの言葉を補足するように言葉を紡ぐ。
『そうでなくても、初心者を狙ったPKによって今始めた初心者達がすぐにこのゲームをやめていくという状況はそれこそ、<エルダー・テイル>を衰退させる一因になるのではないでしょうか?』
『てめえ……好き勝手言いやがって……。』
『私はアタルヴァ社の利益の代弁者としてここにいます。イレブンブレードさん、そう言うのならば、貴方達の方からも<エルダー・テイル>を盛り上げる提案をしてみてはいかがですか?』
イレブンブレードの書き込みに対して、ミスター・アタルヴァが牽制をする。
『……ちっ。』
その言葉と共に、会議場に沈黙が訪れる。
『一つ提案いいかな?』
『なんでしょうか。玉三郎殿。』
『問題なのは中級者による初心者狩りです。そこでちょっとした提案なのですが、プレイヤーとプレイヤーが競技として戦えるような場所……どこか闘技場みたいなが所があれば中級者達のたまり場として使えると思うんだが……。。』
『なるほど、PVP専用の場所か……。そいつは面白そうだな。』
『コハラ。プログラム的な観念観念からの問題点は?』
『特に問題はないよ。場所を設定して数値をちょちょっといじれば良いだけだから。
あーでもマップ作るの私じゃないから。』
ミスター・アタルヴァの意見に聞きながら、コハラはそう答える。
『………それはスタッフにやらせる。』
『わかりました。』
『さて、他に要望はないのかな。おそらく全部は無理だろうが、せっかくここに来たんだ。好きに喋ってくれたまえ。全部の要求は無理かもしれないが、色々と盛り上げたいからな』
『海マップの実施については……さすがに現状では手が足りないだろうな。せっかくのバイキングも陸上で活動していたら山賊だからな。』
『ま、わてらは関西にプレイヤータウンができたら特に文句はあらへん。あ、できればアキバとは違う雰囲気で頼みます。』
『新種族かな、現在ヒューマン、ドワーフ、エルフ、猫人属、狼牙属の5種類だけど、せめてアルブに関連する種族を出してほしいな。』
『アルブ?』
『説明書見なかったのかよ。前の時代に滅ぼされた謎の種族の事さ。』
全員がわいわいとのんきに喋りだす。
そんな中、イレブンブレードは何も言えずにその場でじっとしている。
『イレブンブレードさん。あなたは何か意見がりませんですか?』
『ねえよ! まったくどいつもこいつもPK嫌いときてやがる……。』
『あのねえ、幾ら復活するからと言っても経験値とかお金とか失うことになるんだよ!!』
ホワイトベルが強い口調でイレブンブレードを責めたてる。
『そんなもん、幾らでも稼げるだろう!!』
『稼いだはしから奪われてたら苦労はせんわ!!』
『貴方達は仕事もせずに24時間張り付いてるから、経験値は楽に稼げるんでしょうけどね!!』
『仕事はしてるさ!!』
やや怒り気味のスカイ・ブルーの言葉にイレブンブレードが驚愕の言葉を紡ぐ。
が、その瞬間何か慌てたように、イレブンブレードはログアウトをした。
アタルヴァ本社。電算室
「レッドシザーも退会予告を出してますね。」
原子がそう言って、画面に流れるデータを覗き見る。
「………まさか自分からばらすとは思わなかったな。」
「ええ、まさかライバル企業からのスパイだったなんて。」
IPなどで、ある程度の証拠は集まっていたのだ。しかしそれだけで退出させては向こうに何をどういわれるのかさっぱりわからない。
偵察していると言われたら、そこまでになってしまうのだ。
とはいえ自分で働いていると言ったせいで、いろいろばれたと思ったのだろう。
現在、色々と設定を弄り回しているらしい。
「あまり、収穫にはならなかったけどね。」
「いや、今回の件でいろいろと面白い事がわかったさ。」
そういってミスター・アタルヴァことアタルヴァ社社長は印刷した会話ログを覗き見る。
「彼ら個人個人が欲しい物と……彼らが本当にこの世界を楽しんでいるという事がね。」
それら全てをかなえることはできなくても、彼らが何を欲しているのかがよくわかった気がする。
アキバの会議室
『どうも、イレブンブレードさんは仕事中にやってるのを上司に見つかって慌てて、向こうに戻ったらしいな。』
ミスター・アタルヴァはそうとぼけて、退出したイレブンブレードから全員の意識をそらす。
『まあ、彼が帰ってくるまで、好きに話したまえ。』
その言葉と共に全員がワイワイと喋りだす。
その言葉一つ一つを受け取りながら、ミスター・アタルヴァはこれから先の事について思いをはべらす。
一つ一つこそとめどないがそれが繋がって、何らかの形を成していくのはとても面白い事だった。
そして、会議も終わり和やかな雰囲気のまま全員が立ち去っていく。
『このギルド会館は、皆様が会議などにご自由にお使いください。』
ミスター・アタルヴァがそう言って、全員が立ち去るのを見守る。
最後に、玉三郎が立ち去ろうとしてミスター・アタルヴァに声をかける。
『ああ、そうだ。これはうちのメンバーの一人が言っていたんだが、料理を渡すと、NPCが喜んでいたって話なんだが……元に戻せねえのか?』
『ゲームバランスの問題がありますからね。おそらく無理だと思います。』
ミスター・アタルヴァは少し考えて(おそらく向こうで意見をまとめて)返信する。
『……ま、向こう言って直接料理するんだったらともかくさ。コマンドでポンとできる料理の味がまともっておかしくない?』
コハラ・マウントブレスがまるで当然のように言う。
『……そりゃそうだな。とりあえずそう伝えておくよ。』
玉三郎もそう言ってギルドホールから立ち去って行った。
今回のオリジナルキャラはどのタイミングかで名前を変更するかもしれません。
次回はログホライズンの最新話に関わる話になる予定です。




