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陰陽高校生 異端録  作者: 風間 義介
二章「動き出した組織」
6/14

一、

 翼が零課から派遣されてきた剃髪の男と長髪の男を尋問し、暗示をかけたうえで解放してから数時間後。護と月美は何事があったかは当然知らないまま、帰宅した。

 ふと、護が庭先を見ると、白羽とセシアがハーブを育てている一角でしゃがみこんでいるのが見えた。

 ――どうした?セシアさん

 護が心のうちでセシアに問いかけると、セシアの声が頭の中に響いてきた。どうやら、気づいてくれたらしい。

 ――護さん、月美さん。お帰りなさい……すこし、ハーブを見ていました

 護と月美は二人の元に向かう。ローズマリーの少し強い香りが冬の風に流れてくる。

 今の季節は、ローズマリーの他にもフェンネルやレモンバーム、セージが生えている。一部分は土だけになっているが、それは冬の時期に外で育てることのできないハーブのために空けているスペースだ。

 「色々、あるでスネ、ハーブ」

 「そういえば、そうだね」

 セシアの言葉に月美は護の方を見る。護は空を見て、月美には話したことがないことを思い出し、ぽつぽつと話し始めた。

 「ハーブは魔よけにも使われてきたからな、それに……」

 薬としても使用できる。医者に診てもらうこともあるが、時々、あやかしとの戦闘で傷を負うことや病に至ることもある。

 そのため、できる限りここで治療できるよう、ハーブを使うようになっている。そして、より自然に近い環境で育て、ハーブの力自体を高められるようにしていた。

 「そうなんだ?」

 「そうなんだよ」

 月美のキョトンとした顔に、護は微笑みながら答える。

 ふと、セシアの頭の中に、護の声が響いてくる。

 ――いろんなハーブがあって、ようやく一つの薬ができるんだ……人間も同じ。いろんな人がいていいんだよ……だから、超能力があるとかないとか気にしなくていい。

 どうやら、以前、自分に超能力があることを気にしていたようだ。護も、あやかしを見る目を持っているからこそ、そう言えるのだろう。

 そう考え、セシアが護の方を見ると、その視線に気づいたのか、護はそっと彼女に微笑んだ。

 しばらくの間、ハーブを眺めていた四人だったが、さすがに冷えてきたため屋敷の中に引き返した。


 護たちが帰宅した頃、翼は皇院の一室にいた。そこには、勘解由小路保通ともう一人、別の男性の姿がある。

 「おや、芦屋さんもいらっしゃいましたか」

 「あぁ……今回の一件は派閥を超えて対応せねばならないからな」

 「助かりますよ、光道(みつみち)さん」

 保通はもう一人の男、芦屋光道の方を向く。

 芦屋一族の当主はその言葉とは裏腹に、早く帰りたい、という雰囲気を醸し出している。何しろ、零課内部のライバル派閥のトップと、先祖からの因縁がある一族がこの場にいるのだ。居心地も悪くなるだろう。

 「……本題に入りましょう」

 翼が光道の心の内を察し、本題に入ろうとした。その言葉を聞いて、保通は今まで調べてきたことを話し始めた。

 要約すると、弓削光という人物は弓削一族の現当主であり、かなりの力量を持つ術者だ。だが、一族の中でも異質な性質を持っていたためか、一族からも周囲の一般人からも冷たい目で見られていた。

 その後、当主になってどういうわけか孤児のための養護施設を私財で設立した。おそらく、それが弓削光の所有する研究施設ということになるのだろう。

 だが、その施設がどこにあるのかまではわからなかった。

 「……なるほど」

 「その養護施設とやら、本部には届いていないのか?」

 「届いていない……だからこの程度の内容しか報告できないんですよ」

 保通はそっとため息をつく。

 本来、養護施設等の建設にはそれなりの手続きが必要になる。むろん、既存の施設を養護施設に改造するという場合もあるが、それならそれで登録手続き等が必要だ。しかし、それを行われた痕跡がない。

 「彼らの尋問は?」

 保通は翼にそう問いかけた。

 彼ら、とは先日土御門邸を偵察していた超能力者二人のことだ。すでに尋問を行ったことと、記憶を消して帰還させたことはすでに知っている。

 だが、翼は黙って首を左右に振る。特に成果がない、という態度の表れだろう。

 「無理だったか」

 「あぁ……」

 おそらく、こうなることを見越して、重要な記憶にはプロテクトをかけているのだろう。

 あの二人からは研究所に関する記憶がまったくと言っていいほどなかった。むろん、多少、彼らの脳から、直接情報を取り出すこともできたが、それをやると彼らを廃人にしてしまう可能性がある。

 だが、変に恨みを買いたくない、という理由から、それはやめたのだ。

 「……探すには、彼らをおとりにするしかない、か」

 翼はそっとため息をつく。二人とは、セシアと白羽のことだ。だが、護がそれをさせないだろう。

 むしろ、下手に動くことの方が危険かもしれない。

 「……現状から、泳がせるしかない、か」

 「そうなりますな」

 光道の言葉に、保通はため息交じりにそう答える。翼もそれに同意見、というようにうなずく。

 全員が同意すると、保通と光道の姿はふっと消え、彼らが立っていた足もとに、紙で作られた人形がひらひらと舞い落ちる。

 「……さて、仕事をするかな……」

 翼は人形を拾い上げ、ぽつりとつぶやいた。


 ちょうどその頃、光は人気のない森の中に建造された研究施設の内部を歩いていた。巨大な強化ガラスが張られた部屋まで行くと、そこの管理を任されていると思われる白衣の男が光の気配に気づいた。

 「所長、いらしたのですか」

 「ああ。どうだ?具合は」

 男に応え、光は問いかける。男は、ふたたび強化ガラスの奥にいる少年を見る。

 少年は光の姿を確認すると、彼女をありったけの憎悪をこめた眼でにらみつけた。その瞬間、彼の体から青白い火花が飛び散る。その火花は少年の頭上に徐々に集まり、やがて白い球状の光が出現した。

 その光は強化ガラスの方へ飛んでいった。まっすぐに飛んでいった光と強化ガラスとが激突したが、光は強化ガラスに阻まれ、光たちには何の被害もない。

 「……PK(サイコキネシス)で雷を操る、か」

 「はい。PKで自然現象を操作する個体は、これで三人目になります」

 しかし、未だ条件はわからず、他の個体との比較検討が難しい状況でして……。

 男はなおも説明を続けるが、光の耳にそれは届いていない。

 何より、この少年は光が求めている能力を有していない。彼女が求めているのは「コネクト・テレパス」の能力を持っている個体、個体名「セシア」のような例だ。

 「……テレパスの例は?」

 「いえ、まだ……」

 「そうか……」

 男の答えを聞くと、光はなんの関心も示さなかったかのように、その場を立ち去った。

 研究所内をどこに行く目指しているというわけでもなく歩いていると、黒いスーツをまとったサングラスの男が光の方へと歩み寄った。

 光は彼に臆することなく近づいた。

 「……どうだ、その後は」

 「やはり、土御門かと……しかし、どうなさるおつもりですか?」

 「何をだ?」

 「土御門をつぶすか、つぶさぬか、ということです」

 光の質問に、サングラスが答える。光はすでに、土御門邸に白羽とセシアがかくまわれていることを知っている。そのため、いつでも土御門家の隙をついて二人を奪還できるよう、自分の部下二名を偵察に送っていたのだが、彼らは失敗した。尋問を受けた結果なのだろうか、土御門家の偵察をするように命じてから数日間の記憶が欠損している、というおまけつきだ。

 もうそろそろ、こちらも本格的に動いた方がいい。その意図からの発言なのだろう。

 「土御門はつぶさない、というより「つぶせない」ことは、わかっているだろう?」

 「わかっています。ですが、これ以上彼らに邪魔をされては……」

 仲間が二人、尋問の末に何かをやられたのだ。身内としては黙っているわけにはいかない。

 やや興奮気味の男を、光はそっとなだめ、言葉を紡ぐ。

 「大丈夫だ、手は打ってある」

 「どのような?」

 男の質問に、光は怪しげな笑みを浮かべて答えた。

 「我々ができないのなら、土御門に関わりのある人間を使えばいい」

 「それはつまり……」

 「土御門家の周りにいる人間を使えばいい、ということだ」

 そう言って、光はその場を立ち去った。

 男は光の言った言葉の意味を理解できなかったが、おそらく、今までの偵察を無駄にすることなく事を進めるつもりのようだ。

 それを察した男もまた、光に背を向け、自分の仕事に戻るのだった。


 護と月美が土御門邸に帰宅して数時間後。

 翼から外出を控えるよう言われていた二人だったが、土御門邸を偵察していた超能力者二名が確保された、ということを知り、外出しても大丈夫かもしれないと判断し、白羽とセシアを連れて、最近近所にできたショッピングモールへ向かうことにした。

 むろん、人目を避ける必要はあるが、セシアと白羽の服もそろそろ考えなければならない。いつまでも浴衣や単衣、護と月美が貸し与えた服、というわけにはいかない。何より、そろそろ冷え込みが激しくなる時期だ。

 護と月美も、そろそろ新しく防寒着を買おうと考えていたころだったので、ついでに白羽とセシアも外に連れ出そうと思ったのだ。

 土御門邸の門の前。一足先に支度を終えた護と白羽は、そこで二人が着替えを終えるのを待っていた。

 「……なんだか、緊張する……」

 「セシアと一緒にどこかに行くのは、初めてか?」

 「ええ、まぁ……」

 護の質問に、白羽は赤面しながら答えた。

 零課の、弓削光の研究所に監禁されるまでは、白羽とセシアは同じ孤児院で過ごしていた。だが、孤児院では、二人が小学生と同じ年齢だったということもあったためか、買い物以外の用事でも、外出はあまりできなかった。

 そのせいもあって、セシアだけでなく、外の世界の人々にも少しばかり緊張している。

 「お待たセ、白羽」

 「ごめんね、護」

 ふと、屋敷の方からセシアと月美の声が聞こえてきた。

 セシアは月美から借りたクリーム色のポンチョを、月美は若葉色のピーコートを着て、頭には桜色のカチューシャをつけている。護は、月美の格好に慣れてきたので、赤面することなく、にっこりと微笑みながら月美を迎えたが、白羽はセシアのいつもと違う服装に少し赤面した。

 それはセシアも同様だった。ちなみに、護は黒いロングコート、白羽は白いハーフコートを着て、濃紺のチノパンを履いている。

 「……かわいいな、その格好」

 「……白羽も、チョトかっこいいヨ」

 月美は二人のやり取りを見て、くすくすと微笑んだ。普段から護とのやりとりを見られて、笑われることが多いので、男女のやりとりのどこがおもしろいのか、と疑問に思っていたが、何となく理解できた。

 「……さてと、行こうか。暗くなる前に帰りたいし」

 護は月美に手を差し出しながらそう言うと、月美は笑顔になって、うなずき、その手を握る。そのまま二人が歩き始めると、後ろの方から白羽とセシアの声が聞こえてきた。

 「あ、待ってください!」

 「置いてかナイデ~」

 護と月美は立ち止り、二人の方を見た。彼らも、二人と同じように手をつなぎ、こちらのほうへ走ってきている。

 その様子が微笑ましくて、護と月美は同時に微笑み、優しげなまなざしで二人を見つめていた。

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