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陰陽高校生 異端録  作者: 風間 義介
一章「追われる二人」
3/14

二、

 白羽とセシアが土御門邸のやっかいになってから、数日がたった。

 セシアは徐々に本来の体調を取り戻しつつあったが、まだまだ油断の出来ない状態だ。白羽の方は傷の方は良くなってきたし、土御門家の人間を、特に護と月美を少しだけ信用したようで、自分から護の作業を手伝ったり、セシアを看病してくれている月美に礼を言ったりする光景が見られるようになった。

 休日になって、少しばかり体調のよくなったセシアは、浴衣で土御門邸の庭を歩いていた。ふと、庭の奥の方を見てみると、同じように浴衣を着た、自分よりも年上の少年が草を摘んでいるのが目に入った。

 「あの、ナニをしてるデスカ?」

 セシアは、片言の日本語で少年に声をかける。声をかけられた少年は、セシアの方を振り向き、よかった、とつぶやいた。どうやら、この少年が自分を看病してくれていた少女が話していた人らしい。

 「これかい?この庭で栽培しているハーブだよ……君も、飲んでいたよ?」

 「毎晩入れてくれテタ、あれデスカ?」

 「そのとおり、どうだった?味の方は」

 「えっと……美味しカタ、カナ?」

 セシアは思い出しながら、感想を述べた。

 護はその感想を聞いて、それはなにより、と微笑み、ハーブの採取を続けた。セシアはその背中を見つめていたが、ふと、彼女自身の頭の中に護の声が響いてきた。

 ――こじらせるといけないから、早く家に入ってな

 どうやら、セシアの能力を知った上で、あえて心の中でつぶやいたらしい。

 「あの……気持ち悪く、ないデスカ?」

 ――何が?

 再び、護は心の中でつぶやいたことが、セシアの頭の中に響く。口に出すのがおっくうだから、というわけではなさそうだ。

 セシアが、他人の心を読めるテレパスだとわかっているからこそ、わざとこうしているようだ。

 「わかってるデスヨネ?護さんの考えているコト、私の頭の中に聞こえてきてるデスヨ?」

 ――そうみたいだな。でも、それを言ったら、俺も見鬼の目を持っている人間だ

 普通の人間に見えないものが見えてしまう、認識できないものが認識できてしまう目を持っている。それゆえ、人から理解されず、頭のいかれた子供として、周囲から認識されていた。

 だから、今さら誰になんの力があるからと言って、気味悪がる理由は無い。

 それは、同情や憐れみから出た言葉ではない。本気でそう思っていることが、言葉と一緒に伝わってくる。

 「さすがに、最初は驚いたけどな」

 「ふみゅ……」

 そう言うと、護はセシアの頭をなでる。それがくすぐったくて、思わずセシアは妙な声を出す。

 しかし、嫌がっている様子ではない。むしろ、少し満足そうにしている。

 ――護さんの手、あったかいです

 ふと、護の頭の中にセシアの声が響いてくる。

 どうやら、セシアは相手の心を読み取るだけではなく、自分の心を相手に伝えることもできるようだ。それがわかった護は、さすがに驚いたような顔をした。しかし、その目は優しいままだった。

 「さ、ぶり返すといけないから入ろう」

 「……ハイ」

 セシアは少し嬉しそうに微笑み、護の後に続いて家の中に入って行った。


 その日、護と月美は日曜日であるにも関わらず、どこに出かけるでもなく、今朝採ってきたハーブを相手にハーブティーのブレンドを行っていた。普段なら、護は書店めぐり、月美は近所の子供たちの相手をしているところだが、それができない事情があった。

 白羽とセシアだ。

 零課、と呼ばれる霊的な警察機関がいつ、どこで見張っているかわからない。あるいは、もうすでに二人が土御門邸にかくまわれていることを察知しているかもしれない。

 そのため、屋敷の外部に出ることは控えた方がいいと判断したのだ。

 「セシアの体調、だいぶ良くなったみたい」

 「……そうか」

 「白羽君も、だいぶ柔らかくなったみたい」

 「……そうだな」

 月美との会話に護はただただ淡白に答えるだけだった。月美はその対応に少しばかり不満を覚え、頬を膨らませた。

 そして、少しばかり困らせてやろうと考えたのか、月美は次なる話題を振った。

 「そういえば、護、浮気じゃないって言ったよね?」

 「……ん?」

 「今朝、セシアと一緒に家に入ってきたよね?」

 「……あぁ……浮気じゃないのは本当だが?」

 護は月美が振った話題の意図を察し、素早く弁解する。実際問題、ハーブを摘んでいる時にセシアが庭に出てきたというだけだ。そのあと、少し話もしたが、先に話しかけてきたのは彼女の方だ。

 「ふ~ん?そうなんだ~?」

 「……明日、部活休みだからどっか行くか?」

 「うん!」

 護のその一言に、月美は満面の笑顔で答える。それを見て、護は気づかれないようにため息をつく。

 結局のところ、月美は護にかまってほしいだけで、本当の意味で困らせようとしてはいない。護もそれを知っているから、愛想を尽かすことなく、今もこうして付き合っている。

 「さて、それじゃあそろそろ二人を呼んできますか」

 「あ、わたしが行くから、護はお茶淹れてて」

 護が立ち上がろうとしたのを察し、月美はセシアと白羽を呼んでくる役を自ら買って出た。

 護自身、本当は月美に淹れてほしかったのだが、月美は護の淹れたお茶の方がおいしいことを知っている。

 その意図を察してか、護はそっとため息をついて、湯気が立ち始めていたやかんの火を止め、ブレンドしたハーブをティーポットに入れ、お湯を注ぎはじめた。

 月美が二階に上がり、セシアの部屋の前に行くと、中から白羽の声も聞こえてくる。どうやら、セシアの看病をしていたらしい。まだしばらく安静にしていた方がいいことにかわりはないのだが、どうやら、だいぶ体力が戻ったらしい。普通に会話する分には問題なさそうだ。

 白羽も、だいぶ緊張が緩んできたらしい。ようやく、彼の笑う声が聞こえてきた。

 「白羽、ヤト笑うようになタネ」

 「そう、かな?……うん、たぶんそうだな」

 白羽は指摘されるまで分からなかったらしい。困ったような微笑みを浮かべている。

 セシアはその様子を見て、くすくすと笑っている。

 「な、何がおかしいんだよ?」

 「だって、白羽かわいいんだもん」

 「なっ!!」

 「やぱり、かわいい」

 セシアは白羽の反応を面白がっているかのように、くすくすと微笑んでいる。白羽はセシアの、その微笑みを見て、頬を赤く染めている。

 白羽とセシアのそんな和やかな空気に、月美の呼び声が割って入る。どうやら、護と月美が作ったお菓子を試食してほしいようだ。白羽はセシアを助け起こし、そのまま彼女の手を引いて一階へと向かった。


 護たちが色々とおしゃべりに興じていたころ、翼は宮内庁の一角にある部屋にいた。警察庁直属の霊的守護機関、国家公安委員零課、通称「零課」と同じく、宮内庁にも天皇や総理大臣を守護する霊的機関。が存在していた。

 通称「皇院(すめらぎいん)」。それが平安の世から天皇を守護してきた国家機関「陰陽寮」の後身として、秘密裏に作られた機関だ。

 そして、そこに勤務するのは、表向きは宮内庁に勤める職員、あるいは日本史、宗教、日本文学の大学教授ないしは研究員となっているが、その全員が陰陽師や巫女などの霊能者だ。

 翼は所長を務めている勘解由小路保通(かでのこうじやすみち)に、緊急の話があると言って、休日であるにも関わらず、こうしてここにいる。そして、目の前には私服姿の晴彦が少しばかりいら立った様子で座っている。

 「苛立っているな」

 「当たり前だろう。お前さんが呼び出しさえしなければ、俺は今頃、のんびりと久々の休日を過ごしていたんだからな」

 「……独身なのに、か?」

 「独身だから、だ」

 保通は大きくため息をつく。

 翼と保通は中学時代の同級生で、そこからの腐れ縁だ。もっとも、大学は別々だったので、四六時中、顔を合わせていたというわけではないが、皇院でアルバイトをしていたため、どうしても週に一回は顔を合わせてしまう。

 だからこそ、この二人は互いの性格をよく知っている。そして、保通は翼と相性が悪いことをしっかりと理解していた。

 そして、二人のそんな腐れ縁な関係は皇院と零課に分かれた今でも続いている。

 「で?調べてほしいってのは、零課のことか?」

 「ああ……知っていたのか?」

 「土御門家の周囲には小妖怪どもが多いだろ?彼らから聞いたことだ」

 今度は翼がため息をつく。たしかに小妖怪は土御門家の周囲に多く存在している。しかし、土御門家の周囲には、当然、結界が張り巡らされている。そのため、彼らは屋敷内に入ってくることはできない。

 だが、息子の護は彼らに好かれている。護自身も、彼らに好印象を抱いている。だからだろうか。時々、護は彼らを屋敷に招き入れる。そのせいで、土御門家の内部情報が彼らに漏れている。おそらく、白羽とセシアのことも、彼らから漏れたのだろう。

 「……その通りだ。零課が何をやらかそうとしているのか、知っておきたくてな」

 白羽とセシアがなぜ、零課に追われていたのか。それが気にかかっていた。

 彼らは、護と月美には心を開いている。おそらく、あの二人ならなぜ二人が追われていたのか、零課が彼らに何をしたのか、その理由を聞くことができるかもしれない。

 しかし、二人がその情報を聞き出すには、まだまだ時間がかかりそうだ。だからこそ、事前にある程度の情報は手に入れておきたい。

 「……わかった。調べられるだけ調べてみるが、わかってるだろ?」

 「ああ……わかってる」

 皇院にも派閥は存在している。だがそれは、陰陽師、巫女、エクソシスト、仏教僧の四グループに分かれており、各グループ内の闘争も、グループ間の闘争も存在していないため、平和そのものだ。

 しかし、零課はそうもいかないらしい。

 もともと、警察庁や警視庁などの既存の組織から、見鬼の才を持つ人間や超能力を持っている人間を引っ張り出し、そこからさらに同じような特殊な人間を外部から招きいれて出来上がっていった組織だ。警察権力と強いつながりを持つ側と、民間の宗教団体に強い影響力を持つ側とで、半ば勢力争いになっている。

 下手な動きを見せて、自分たちがいる側に不利な状況を作りたくはない。

 「手に入れることのできる限りの情報は入手しよう。受け渡しは?」

 「適当に式を飛ばしてくれれば。それこそ、小妖怪を使ってくれてかまわない」

 では、連絡を待っている。

 そう言って、翼はその場を去った。それと同時に、保通も姿を消した。

どうも、風間です。

異端録の三話目、いかがでしたでしょう?

少しばかり登場人物が増えるので、自分の中で整理するのも大変なことに……メモや草案はあるんですが、ね。

暑い日が続きますが、皆さん、体調管理には気をつけて。

では、作品のご意見、ご感想、お待ちしております!

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