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陰陽高校生 異端録  作者: 風間 義介
三章「差別に苦しみ、悩んだ心」
13/14

四、

 護たちが光と対峙した頃、白羽もヘルダとの対決にも終止符が打たれようとしていた。

 白羽の体からは直接、電撃を受けたせいか、煙が立ち上っている。意識も、少しばかりもうろうとして来ている。

 ――次で決めないと……

 白羽は右手を握り締め、竜巻で拳を包み込んだ。

 いままで戦ってきて、ヘルダの電撃を防御することができないのは、いやというほど味わってきた。ならば、少しでも危険の少ない接近戦に持ち出そうと考えたのだ。

 「なぜ、あなたは分からないんですか……」

 「分かるはずがないさ……」

 突き出された拳を受け流したヘルダが、白羽の耳元で問いかける。白羽はそれが何を意味しているのか、何となくではあったが理解できた。

 光の思想。それは確かに白羽たち超能力者にとってみれば、偏見をなくすための第一歩になるだろう。そして、そのために、人と人とをつなぐ懸け橋となりえるセシアの能力をさらに研究することが必須事項と言うこともわかる。

 だが、それでも白羽は理解してやるつもりはない。

 理解してもらいたいのなら、自分から歩み寄ればいい。それを怠った人間が、他人に理解をしてもらうということ自体、おこがましいことだ。それこそ、「同等な対価」というものだ。

 「わずかでもいい、俺を俺として見てくれる人間がいれば、それでいい」

 お前には、その喜びがわからないだろうけどな。

 白羽は受け流された拳と拳を突き出し、まとわせていた風を解放する。台風、とまではいかないが、それなりに強い風がヘルダの横腹に襲いかかる。白羽が解放した風自体にあまり破壊力はない。だが、自然界に流れる風とは異なり、白羽の放ったそれは、風の当たる範囲がかなり限定されている。

 対して強くない風でも、体にかかる負担は必然的に大きいものとなる。

 みしっ、と骨がきしむ音が聞こえたと同時に、ヘルダは口から透明だが粘着質な液体が吐き出し、気を失った。

 「……いっつぅ……」

 白羽は気を失ったヘルダを寝かせると、肩を押さえ、うめく。その手の下には、深くえぐられたような傷がある。だが、その傷口はえぐり取られたと同時に高熱で焼かれていたため、大した出血にはなっていない。

 傷を気にしている余裕はあまりない。白羽は自分の体に鞭打ち、立ち上がり、セシアのいる区画へ、よろよろと歩いて行った。

 白羽が次の区画に足を踏み入れると、何名かの研究員は突然の侵入者に驚きはしたものの、手にしていた警棒を振りかざした。白羽は自分の周囲に風の防壁を作り上げ、警棒を受けとめる。白羽は風の流れを変え、研究員を吹き飛ばし、壁に衝突させた。

 他に襲いかかってくる存在がいないことを確認すると、白羽は改めて部屋を見渡した。

 いくつかの装置と巨大な強化ガラスに区切られたもう一つの部屋があった。そしてそのガラスの向こう側には、白羽が助けたいと願っていた少女が横になっていた。


 白羽がセシアを見つけ出し、救助を始めたころ、護と月美は光と対峙していた。

 「どうあがいても、邪魔をするのだな。土御門の化け狐」

 「あいにくと、人間じゃないことは認めるが、お前のような人間から化け物呼ばわりされる筋合いはないね」

 護は独鈷から刃を顕現させ、構える。それを見た光が手にしていた剣を護に対し、振りかざす。護がそれを受け止めようとした瞬間、月美の声が凛と響いた。

 「禁っ!」

 護の前に突如召喚された、見えない障壁が光の刃を阻み、砕け散った。その衝撃で光は吹き飛ばされ、二人から離れた距離で着地した。

 「化け物の味方をするか……お前は人間だろうに」

 「……私には、あなたの方が化け物に見える」

 月美は警棒の切っ先を光に向け、言葉を返した。

 護は、確かに人間でありながら神狐の神通力をその身に宿している。そこだけを見れば、確かに化け物だろう。だが、彼には人の心がある。

 白羽やセシアを心配し、慈しむ心が。そして、月美を守り、愛する心が。

 だが、光にはそれらがない。人の身でありながら、人を慈しみ、愛する心を持っていない。

 それは、白羽とセシアから話を聞けば、わかることだった。

 「私が……化け物、だと……」

 ふざけるな!

 光は返された月美の言葉を聞き、激怒し、めちゃくちゃに剣を振りまわす。

 振り回された剣の切っ先から、霊力をまとい三日月形に光る「何か」が飛んでくる。護はそれを防ごうと宙に五芒星を描き、障壁を築く。しかし、それもすぐに飛び散り、障壁の向こうにあった護の体を切り刻んでいった。

 どうやら、霊力を刃に変えて飛ばしたようだ。

 「……つぅ……」

 カマイタチの嵐が治まると、護は膝をつき、後ろの方にいるはずの月美を見た。

 月美もまた、ボロボロの状態で膝をついている。急所に飛んでくる刃を受けとめたせいなのだろう。その手に持っている警棒は、すでにぼろぼろだ。

 護の持つ独鈷の刃も、ひどく刃こぼれしている。それだけ強力な術だったという証拠だ。

 「ほう?今のを耐えたか」

 「あいにくと、剣術はうちの式神たちから直接仕込んでもらったんでな」

 護は不敵に微笑みながら、ふたたび独鈷を構える。月美も同じように警棒を構える。だが、少しばかり傷が多すぎる。カマイタチであるため出血はあまり多くは無いが、それでも激痛が走り、術に集中することが難しくなってしまっている。

 不利な状態と言うことに代わりは無い。

 「ふ……かなりふらふらな状態じゃないか。その程度で私を止めようと言うのか?」

 「当たり前だ……お前がなぜ、白羽たちを使って実験しているのか、知っているからな……」

 知っているからこそ、止めなければいけないんだ。

 護は光を鋭く睨みつけ、一気に光との間合いを詰め、独鈷の刃を振り下ろす。光はその刃を受けとめ、受け流す。光に受け流された刃を返し、今度は逆袈裟に切り上げる。

 光はその刃も受け流し、護の喉元めがけて剣を走らせる。護はそれを紙一重でかわし、距離を取り、月美の隣まで下がる。月美はそれと同時に、不動縛呪を唱え、光の動きを封じた。

 縛魔の鎖に縛られた状態で、光は口を開いた。

 「知っているからこそ、だと……?」

 「あぁ……俺も同じようなものだから、気持ちはわかるつもりだ」

 光が研究を行う理由。それは、何も力を持っていない一般人を、護や月美のような霊能力者や白羽やセシアのような超能力者に「作り替える」ため。その延長線上には、一般人と超能力者、霊能者との間に存在する差別や偏見を撲滅することが目的にあった。

 かつて、光は弓削一族が代々受け継いできた霊能力により、普通の人間には見えないものが見えてしまっていた。だが、霊能力者の一族の生まれであったため、それだけならば、受け入れてくれる存在は多くあった。

 しかし、それでも、弓削一族以外の人間からも受け入れてもらいたかった。そのために、何をするべきか必死に考えてきた。その結果、何も力を持たない一般人を、自分たちと同じ次元に導けばいいという結論に至ったのだ。

 だが、霊能力は潜在的なものや先天的な多く関与しているため、後天的な処置を施してどうこうできるものではない。ならば、霊能力に近い力である超能力を付与することならばできる。

 「ならば、なぜわからない!お前達のような霊能者を軽蔑してきた人間を少しでも減らすことができると言うのに!!」

 光の叫びは、そのまま激しい衝撃波となって二人に襲いかかった。衝撃波に耐えきれなかったのか、縛魔の鎖が砕かれ、飛び散っていく。同時に、衝撃波に耐えきれず、月美の体が宙に浮く。

 護は月美が飛ばされてしまう前に彼女の腕をつかみ、抱き寄せた。

 「わからないのは、あなたの方でしょう!」

 衝撃波にさらされながら、月美は光に向かって叫んだ。

 一方的に理解してもらおうとして、自分から他者に歩み寄ることを怠った。そして、結局理解してもらえず、歩み寄ることもできなくなる。このままでは、その悪循環を繰り返す。

 むろん、一般人も霊能力を身に付ければ、わかってもらえるかもしれない。それはわからないでもない。他人と感覚を共有することは難しいからこそ、同じものを見て、同じものを聞けるようにすれば、少なくとも霊能者と一般人の格差は小さいものとなり、霊能力者に対する偏見はなくなるだろう。

 「あなたの理想は、確かにすばらしいものだと思う……けれど、あなたのやり方では差別はなくならない……」

 月美は悲しげな瞳を光に向けた。

 光はその瞳を見て、どうしようもないいらだちを覚え、ねらいを護から月美に変え、恨めしげな叫び声をあげながら、手に持つ剣を月美に向かって振り下ろした。

 「分かったような口を聞くな、小娘が!!」

 護は光が振りかざした刃から月美を守るため、彼女を突き飛ばし、光と月美の間に割って入った。振り下ろされた刃は、護の構えた独鈷に受けとめられた。

 独鈷の刃と剣のぶつかり合う、激しく、そして甲高い音が響き渡った。

 護は剣をはじき、返す刃で光を袈裟に斬りおろす。その一撃を避けきれなかった光の服はわずかに裂かれ、その下に隠れていた白い肌が顕わになる。どうやら、下着も斬られていたようで、豊満、とまではいかなくとも、年相応に豊かな乳房が見え隠れしている。

 護はそれを気に止めることなく、刀印を結び、言霊を紡ぐ。

 「風神召喚!」

 呼び出された風が、月美を守るかのように包み込む。月美は護が紡いだ言霊の意図を察し、そこから動くことはしなかった。だが、護の背に向かって、一言だけ、死なないで、とだけ告げた。

 護は振り向きはしなかったが、その言葉にうなずき、八相(はっそう)の構えをとり、独鈷の刃に神狐(しんこ)の神通力をこめる。白い炎が刃から陽炎のように立ち上る。

 「終わりにしよう」

 護の言葉に応えるかのように、光は護との距離を一気に詰め、手にしている剣を逆袈裟に切り上げる。それを紙一重で避け、刃を脳天めがけて斬り落とす。その一撃は、光に受け流されたが、受け流された刃を素早く切り上げる。

 「くっ……」

 光は足を切りつけられた痛みに耐えられず、膝をついた。それを見届けた月美が、風の障壁の内側から不動縛呪を唱え、光の動きを完全に封じ込めた。それと同時に、護はシャツの袖を破り、光の口にそれを巻き付けた。

 言の葉を外に出せない以上、言霊を必要とする術は仕えない。どうやら、決着がついたようだ。

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