序章
超能力。それは科学では説明しきれない、生物が操る自然に干渉する力。
それは当然、人間にも扱うことができる。しかし、それを扱える人間はごくわずかだ。それゆえ、それが本物であれば、大多数の人間は彼らを神の如く崇め、祀り上げる。しかし、ひとたびそれが嘘と分ければ、手のひらを返したかのように冷たく扱う。
人と違うから。多くの人が見えないものを見たり、できないことができたりするから。その他大勢の人たちとは、明らかに異質だから。
――だから、そんなことが無くなるように、私たちは……。
昼だというのに人気のないコンテナの山の中を、二人の少年と少女が走っている。その後ろを、スーツを着た数人の大人たちが追いかけている。
「いたか?」
「いや、そっちに行くぞ」
短いやり取りを終えて、大人たちは立ち去っていく。
物陰に隠れていた少年は、こちらには来ていないことを確認すると、ほっとため息をつき、少女の方を見る。
少女は息を荒くしている。顔も真っ赤になっているうえに、その肌はしっとりと汗でぬれている。
「セシア、大丈夫か?」
「だいじょぶ、ダヨ……それヨリ、白羽もケガ、だいじょぶ?」
セシア、と呼ばれた少女は少年の足を見る。少年、白羽の足からは血こそ出ていないものの、鋭い刃物で斬られたかのような傷がある。
「血は止めてある……でも、そろそろ安心して休める場所を見つけないと……」
自分の怪我よりも、この少女の容体の方が心配だ。
なにしろ、こちらは、自分たちの「力」ではどうしようもない。
どうしたものか、と少年が思案していたとき、一人の少女が声をかけてきた。
東京某所。科学至上主義の現代で珍しく、神社への信仰が残る下町の雰囲気を残した町の一角に、比較的大きな屋敷が存在していた。そこに住んでいるのは、宮内庁に勤める人で、時代をさかのぼること平安時代の頃から天皇にお仕えしていた一族なのだとか。
そして、その屋敷には高校生になる少年と、数ヶ月前に引っ越してきた遠縁の少女が住んでいる。二人とも、この地域の人々と仲が良く、それゆえか、近所の子供たちもよく遊びに来る。
その屋敷では今日も三人の少年と少女が屋敷に遊びに来ていた。
「……来たな、わんぱくっ子ども」
護は縁側から少年たちが入ってくる光景を見て、微笑んだ。自他共に認める人間嫌いだったが、最近はどういうわけか、近所の人たちとうまく付き合えるようになってきていた。そして、小学生くらいの子供には優しくなった。
以前なら、やかましい、黙れの一点張りで相手にしなかったが、最近はそういうこともなくなった。
「護兄ちゃん、こんにちは」
「遊びに来たよ~」
「遊んで~」
子供たちは玄関を通らず、縁側まで直接走ってきた。
護は傍らに置いていたティーポットに入っているハーブティーを、人数分の紙コップに注いだ。ハーブティーから立ち上る湯気が、晩秋の寒さを物語っている。
「ほれ、寒かったろ?」
護がハーブティーを三人に差し出すと、三人は護の隣に腰かけ、ゆっくりとハーブティーを飲む。
「ぽかぽかする~」
「……ちょっと辛い」
「あったかうまぁ……」
子供たちは口々に、ハーブティーの感想を漏らす。
「寒いからな、体をあっためる力のある生姜とシナモンを入れてるんだ……多少辛いのは我慢してくれよ」
そう言いながら、護は茶色い瓶を一本取り出し、辛いと漏らした少年の持っているコップに、中身の液体を垂らす。飲んでみなと微笑むと、少年は再びハーブティーを口にする。すると、今度は辛くなくなったようで、満足そうな微笑みを浮かべた。
「ただいま!護、ごめん、少し手伝って!」
門の方から、月美の声が響いた。護は取りだした小瓶を懐にしまい、子供たちにここにいるように指示を出すと、サンダルをはいて、門の方へ向かう。
見ると、あきらかに体調を崩している少女を背負った少年が、月美の隣にいた。少年の足にある傷を見るなり、護はわけありと察し、早く中に入るように促した。
少年は最初警戒していたが、月美が大丈夫だから、と伝えると、しぶしぶ家の中に入って行った。
どうも、風間 護です。
なぜだかアイデアが出てしまったので、陰陽高校生をシリーズ化してしまおうという、少々無謀なことに挑戦してみます。
「奮闘記」を読まなくても楽しめるような構成にしますが、できれば「奮闘記」も読んでくださると幸いです。