変わるコト変わらないコト
「変わるコト変わらないコト」
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「ふぅ~~」
深いため息をついた。ようやく今週も終わった。仕事をこなし、帰宅する。
現実は変化の兆しもない。ただ毎日の繰り返しの作業を行ってるだけだ。
買ってきた半額の弁当をつまみながら、寝転がりゴロゴロする。
「あ~~~」
疲れた体を椅子にもたらせ口から出るままに声を出し、何も考えずぼーっとする。
やることがない。ただそれに尽きる。以前までなら帰ればすぐにユニットを装着し【ファンタジーア】の世界に潜り込んでいた。
近接系を極めてやると思ってから、現実でも鍛えることによって強くなれる性質を利用し日々研究と鍛練の様なことを行った。
結局の所、他の魔法職に範囲でよくやられていたが。だがそれでもここまで努力したのはなかった。
「なんか新しいの探すしかないか・・・」
そして何気なくユニットを装着し、コマンドを押した。ここ十年つづけてきた動作を。
「あ、まちが・・・・・・・」
そうサービス終了されているはずの【ファンタジーア】を起動した・・・
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見えん。何にも見えん。真っ暗すぎる。サービス終了してるから普通繋がんないだろ。
しかも繋がったとしても、最後にログアウトしたのは農耕の村ボルクスの片隅のはずだろ。
と、そう思いながら細い右手に握ってた大剣を肩に担ぎゆっくりと洞窟を進んでいく。
「どこの洞窟だよここ・・・カンテラなんか荷物になるだけだから持ってきてないぞ・・・」
若干高めの声洞窟内に響く、最近はPTで狩ることが多かったためメンバーの魔法だよりで一人の時用のアイテムはほとんど持ち歩いてなかった。
「はぁ・・しかたない。ライト(光)」
左の手のひらに魔法陣が浮かび、その後ロウソク並みの小さな灯りが浮かび上がる。
「くら・・・」
ほとんど見渡せない。焼け石に水状態もいいとこだ。ただそれほど深くないのか、ロウソクの火がわずかに自分側へ揺れる。出口は近そうだ。
とりあえず、暗闇は怖いので早足になりながら外を目指す。
その思考の片隅で【ファンタジーア】の洞窟にも確かに暗闇の洞窟がある。しかし、こんな浅い所で洞窟が暗くなるとこあったっけと思いながら。
すぐに洞窟から出た。広がりを感じたからだ。
「なぜ、暗い?」
月が照らしている。そんなことあり得ない。【ファンタジーア】で夜とは、町や村の生活圏と一部のフィールドのみに適応しており常夜と呼ばれる状態でのみある。
他はすべて昼間使用。でなければほとんどのプレイヤーは、夜だけ行動するようになってしまうという運営の配慮からだ。
それゆえに、やりこんだ自分として夜のフィールドを知らないのはありえない。結果、
「どこ、ここ?」
何だここ知らないぞ?ってかサービス終了してるのに接続切ってないってどういうことだよ。愚痴を様々に思い浮かべながら急速に不安を感じ、
「切るか、ログアウトっと・・」
システムを開き指でログアウトの項目を探そうとする。けれどもそこに映るのは透明の枠のみだった。
「ない・・・?」
なんだそれ・・・仕方がない時間潰してからもう一度挑戦するか。久しぶりに【ファンタジーア】に入ったしな。いろいろ探検するか。暗いが。
とりあえず明るい場所を探すか、と考え近くで一番大きな木に登ろうと決める。そして、右手に持っていた大剣を地面に突き刺し、枝に手をかけ一気に・・・一気・・に・・・
「誰の腕だ・・・コレ?」
目に映るのは、枝を掴んだ細く柔らかそうな腕が見える。キャラのナリィの手ではない。ドワーフは総じて筋肉質だ。その中でもナリィは、近接仕様のいわば脳筋そのものの姿。
それとは、まったく似通わないモノであった。
速攻で枝から手を離し、地面に着地する。すぐに自分の身体を確かめようと手を伸ばし・・・
「あれ現実の俺の腕って・・・どうだったっけ・・」
自分の腕どころか名前さえ浮かばないという状況に気が付く。風が吹き木々がざわめく。
深呼吸しゆっくりとよく考えることにする。さっぱり思い出せない。ただ、現実に退屈していた。それだけが強く残っている。ならなんにせよ良いかどうにもならんし。そう受け入れることにする。考えないこれ大事。
現実だったものではないってことは解る。なら異世界転生って奴か?それとも憑依?まぁなんでもいいや。退屈しなさそうだ。
「まずは、スペックの確認か。次にどこまでがゲームのままなのか。最後に持ち物ってところか。」
手じかな木に大剣で袈裟切りに切りつける。拳は痛そうなので止めておく。木はメキメキと引きずった様な音をたて千切れ、折れていった。森に木が倒れる音が響く。
思ったより大きな音が響いたことにびっくりしたが、引き千切った感じスペックは高そうだ。良かった良かった。身長は150くらいで長い耳があり胸がある。
「女で・・・エルフか・・まじか・・」
洞窟での光景を思い出す。そしてそれは無いだろと考えながら、ライト(光)の魔法を唱える。左の掌に浮かぶ方陣から出てきたのは、以前出したのと変わらないロウソクの火。
ゆらゆら揺れる光に周りを照らす光量はない。魔法でなければ、風が吹けば消えてしまいそうな程の頼りなさ。間違いなく、【ファンタジーア】〔愚者〕の称号持ちのナリィ状態だ。とりあえず後回しで、心の中でそう思い。
次は、システムのアイテムとステータスだが・・。無理っぽいなコレ。システムはログアウトの項目と一緒で何も映さない。
スロットに入れていた回復薬が腰の横の袋に入ってるのみで、後はアイテム全滅かよ。溜息が吐きたくなる。システムがこれで、外見が違うなら銀行に預けていた物は取りだせはしないだろう。この世界がまったく一緒とも思えんし。
俺の血と汗の結晶たちが・・・。手に残るのは、フランベルジュっぽい外見に似せて仕上げたお手製の大剣。ただ廃墟にロマンを感じた際に作り始め、無骨に仕上げたモノであり。硬いだけが取り得の重たい剣だった。
これだけ【ファンタジーア】ナリィと似ているのに、なんで容姿と特性がエルフに変わってんだよ。
強いけど以前の愛着のある容姿を想い悲しみに浸っていると、
「グォオオアアァァァ 」
雄たけびがあがる。かなりデカイ熊くらいの化物が走って来る。
眠りでも邪魔したか悪いな。でもちょうどいいかな、腕試しだ。そう思い、素早く大剣を肩に担ぎ熊っぽいのの正面に構える。正面から切りつけると止まらない場合怖いので、ちょっと左に回避しつつバットを振る感覚でホームラ~ンといきたかったが、
「うっそ~~~」
鈍く響く金属音の後、大剣が手から滑り落ちる。手がかなり痺れる。硬い鉄を思いっきり切ろうとした感じだ。軽くつかんだ状態でなければ、すぐさましゃがみ込んで転がりまわっていただろう。すぐさま大剣を拾う。
月明かりが止まった熊っぽいのを照らす。普通の熊ならただの毛皮の場所が鉄っぽい。
鉄熊と言われるモンスターであり、物理にかなり強い耐性を持つ上位種であった。
そんなことを知らない俺は、見たことない熊の姿を確認した後。ナリィ仕様で叩き切れないのがこの世界の標準かよ!と心の中で叫びながら、スペックを活かし全速力で夜の森を逃走し始めたのだった。
当然逃げる。死にたくないもの。
その場に倒れこんだ熊を残して・・・
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