水族館の非日常
【六月のちびっこ祭り】にリスペクトを寄せて
<一>
小学生のボクちゃん。
君は何のために動物園に行きますか?
動物を見るため。
そうでしょうね。
先生もそうなのよ。
動物はかわいいわね。
それではボク。
君は何のために水族館に行きますか?
水の中に棲む生き物を見るため?
いいえ、そうではないでしょう。
だめよ、嘘言っちゃあ。
ボク。
君は、水の中の『世界』を見るために水族館に行くんでしょ?
うん。そうそう。
水の中の世界はとても不思議な世界なのよ。
特に、大きな水槽の裏側あたりを探検してごらんなさい。
そこでいったい何が起こっているのでしょう。
普段と違う何かが・・・。
『嘘ばっかり』
そう思った君。
小学生の君。
それでは先生と一緒に行ってみましょうね。
本当の水族館に・・・。
<二>
目黒たけしクン。
たけしクンは、この春から小学三年生。
今、たけしクンにはとても好きな女の子がいます。
同じクラスの恵比寿華鈴ちゃん。
華鈴ちゃんは、勉強はあまりできないけれど、たけしクンの知らないいろんなことを知っています。
全然やさしくありませんが、たけしクンが何かに迷っているとき、すぐに『こうしなさい』って言ってくれます。
華鈴ちゃんは、まだ子供だけどいわゆる『優柔不断』ではないのです。
あと華鈴ちゃんはちょっとエッチなおませさんです。
なんと、いつもたけしクンをズボンの上から触ってきて、大きくしては喜んでいます。
華鈴ちゃんは、小さいけど実行力もあります。
この間、あまり、たけしクンが大きくならなかったとき、華鈴ちゃんは廊下に呼んで思い切って自分のスカートをめくってパンツをたけしクンに見せました。
たけしクンはすぐに大きくなりました。
たけしクンは決心しました。
今度華鈴ちゃんにスカートめくってパンツ見せてもらっても、がんばって大きくならないようにしようと思いました。
何故なら、それがうまくできたら、ひょっとして華鈴ちゃんはパンツも脱いでくれるかもしれないと思ったからです。
でも今のところその作戦は全然うまくいっていません。
がんばるどころか、どんどん逆になっていきます。
華鈴ちゃんがたけしクンのほうを見るだけで、たけしクンは華鈴ちゃんがパンツを脱ぐことを想像してすぐに大きくなってしまいます。
華鈴ちゃんは一ついたずらを思いつきました。
ある日いつもの倍くらいに大きくなったたけしクンを見て、華鈴ちゃんはさらにスカートをめくったのです。
それだけならば、まだよかったのですが、華鈴ちゃんはもっとすごいことを考えていました。
華鈴ちゃんはその日わざとパンツをはいていなかったのです。
たけしクンは生れて初めて見る華鈴ちゃんのおへその下を見てどうにもならなくなりました。
急に鼻血が出てきて、先生に鼻ティッシュを詰めてもらいました。
それでも血が止まらないので、保健室に行くことになりました。
「先生!」
「はい。恵比寿さん。何ですか?」
「あたし、目黒たけしクンに保健室までついて行ってあげたいと思います。」
「そう。やさしいのね恵比寿さんは。じゃあお願いね」と先生はニコニコ顔で華鈴ちゃんの頭をなでました。
上を向きながらたけしクンが廊下に出てから、華鈴ちゃんはさっそくたけしクンのズボンの前をぎゅうぎゅうしました。
「いっ、痛いよう。痛いよう。」
たけしクンが前かがみになると、
「だめだめ。鼻血が出ちゃうよ」と華鈴ちゃん。
たけしクンが顔を上げて上向くと、華鈴ちゃんがまたズボンの前をぎゅうぎゅう。
痛い痛いとたけしクンがまた前かがみ。
「だめってば。たけし。鼻血が出ちゃうって」と華鈴ちゃん。
たけしクンが顔を上げて上向くと、華鈴ちゃんがまたぎゅうぎゅう。
「小っちゃくなっちゃった」と言って、次はスカートの後ろをめくって可愛くたけしクンにウインク。
「ブーーーーーっ!!」
「ブッブクブーーー!!」
たけしクンの口のまわりはとうとうまっかっかになってしまいました。
「あはっ、あははははは。おもしろーい。たけし、サイコー」と華鈴ちゃんがさわやかに笑います。
本当に人もうらやむような、ほほえましい光景です。
<三>
「今日はみんな前から楽しみにしていた社会科見学です。
これから二クラスで一台づつ、バスに乗って『河童浦水族館』に行きます。」
「わーい!」「きゃーっ!」「わーい!」
クラスのみんなは大はしゃぎです。
水族館に着くとみんな一列になって入館。
初めは小さな水槽でしたが、突き当りを曲がると大人も見上げるような大水槽です。
大きな甚平ザメが上の方を悠々と泳いでいます。
陽光色の人工太陽にきらめくさんご礁。
色とりどりの熱帯魚が暮らす海底の再現です。
たけしクンは入館のとき、華鈴ちゃんと手をつないで入りましたが、いつのまにか華鈴ちゃんは脇にいません。
「華鈴ちゃあん。華鈴ちゃーーーあん。どこにいるんだよう・・・」と不安がってうろうろするばかりのたけしクン。
「こっちこっち。たけし」
たけしクンが声のするほうを見ると、華鈴ちゃんが奥のほうで手招きしています。
たけしクンはほっとして華鈴ちゃんのもとへ走っていきました。
「こんなところに洞穴があるよ」
水槽の脇のドアが開いていてたけしクンが中に入ると、華鈴ちゃんが下の方に続いた穴を指差しています。
「行ってみようか」と華鈴ちゃん。
「やめておこうよ。先生の見えるところより遠くに離れたらいけないって言ってたよ」
「ちょっとだけだから三分五分、へへ」
そして、華鈴ちゃんはたけしクンを洞穴の入り口に引っ張ってきて背中を押しました。
「ちょっ、ちょっとボクが先なの?」
「あったりまえでしょ。たけし、おちんちん付いてるんだから」
「ボクのおちんちん、華鈴ちゃんが何かするとき大きくなるだけ。ほか、何にも役にたたないもん」
「早く行かないと、おちんちん、またぎゅうぎゅうするよ」と華鈴ちゃん。
<四>
入り口は暗かったので、どんどん暗くなると思っていたら、中はだんだん明るくなっていきます。
ついに眩しいくらいに明るくなって二人は大きな丸い壁に囲まれた部屋に出ました。
壁の正面にはまだ穴が続いていたので、部屋を横切ってその穴の中をさらに進んでいくと、左のほうに魚のクマノミがたくさん泳いでいました。
右は、というと薄暗いのですが、二匹怖い顔をしたうつぼが岩の間から顔を出して二人の方を見ています。
(歩きにくいなあ・・・・)
(あれ?)(あれ?)
二人は同時に思いました。
(ここって水の中?)
たけしクンは華鈴ちゃんのほうを見ました。
肩まであった華鈴ちゃんの髪はふわっと水の中で浮いてひらひらとしています。
たけしクンの服も水中で揺られてひらひらしています。
でも息は全然苦しくありません。
たけしクンは飛び上がってみました。
そのままずうっと上に上がっていきます。
「ちょっと待って、たけし。あたしも行くぅ」
たけしクンはまだ泳ぎができません。
たけしクンは華鈴ちゃんに追い抜かれて慌てて彼女の足首をつかみました。
華鈴ちゃんは平泳ぎの足の動きをやめて足をのばしたまま大きくゆっくりバタ足で進みます。
たけしクンは華鈴ちゃんの後ろから足首につかまったまま進んでいきます。
「華鈴ちゃん。ちょっと待って!」
華鈴ちゃんは振り向いてたけしクンのほうを見ました。
たけしクンの顔のまわりの海水は何やら真っ赤です。
実は華鈴ちゃんは、今日もいたずらしてやろうとわざとパンツをはいていませんでした。
華鈴ちゃんのお尻は、たけしクンにすっかり丸見えです。
「このままじゃ血が止まらなくて、死んじゃうよぅ」
(ん、もう、世話やけるなあ・・・・・)
華鈴ちゃんはスカートを太ももに挟み、後ろを隠して窮屈そうに泳ぎ出しました。
「華鈴ちゃん。何だか楽しいね」とたけし。
たけしは大好きな華鈴ちゃんにつながって泳いで本当に幸せそうです。
「シィ!!」と突然華鈴ちゃんが言いました。
斜め前のほうからは、十数匹のホウジロザメが向かってきます。
「たけし!あんたの大量鼻血の匂いのせいでサメがきちゃったよぅ」
「華鈴ちゃん。どうしよう。ボク」
「よし、とりあえずたけし、『お虜』になって。あたしその間に逃げるから」
「うん、わかった。・・・・・。うん?華鈴ちゃん。オトリって何するの?」
「お虜よ。お虜!あたしからできるだけ離れればいいのよ。それだけ。ああ、あと鼻血いっぱい出さなきゃお虜にならないからね。そうか。鼻血ね。はいはい。」
華鈴ちゃんはスカートを脱いで手に持ちました。
華鈴ちゃんのおへそから下は全部丸見えです。
「ブーーーーーっ!!」
「ブッブクブーーー!!」
「ブビブビブビブビぶーーーーーーーー!!」
左のほうにいたクマノミが一斉に逃げました。
たけしクンの顔のまわりはもう一面真っ赤になりました。
<五>
華鈴ちゃんはUターンして全速力で逃げているうちに、急に悲しくなってきました。
(たけし。今ごろサメに食べられちゃってるね〜)
(あたし、たけしの分まで一生懸命生きるからね。グスン)
《 『食べられちゃってるね〜』じゃない!!馬鹿かおまえは!! 》
前から大きな海亀が三匹泳いできました。
こんな大きな亀は陸亀のゾウガメくらいしか見たことがありません。
一番大きな亀の甲羅の大きさ(直径)は華鈴ちゃんの背丈ほどもあります。
(人間の言葉が聞こえてきた。まっ、まさかあの亀の言葉?)
大きな海亀はもの凄く怒った表情をしています。
(亀の怒った表情って、いったいどんな顔?見たことないくせに、テキトーな作者・・・)
「ようし、サメの奴め、リベンジだ!」
華鈴ちゃんは海亀の背中にまたがって、ムチをふるいました。
(だから、どこからムチが出てきたわけ??この作者テキトーすぎるよ・・・・)
華鈴ちゃんはそういえば、水族館の隣の競馬場で騎手の置き忘れたムチを拾って館内に入ったのでした。
(・・・・・・・)
(ま、いっか)
サメのところに戻るとあたり一面先が見通せないほど真っ赤な血の海です。
(やっぱり、たけし食べられちゃった・・・)
と思って華鈴ちゃんはお線香をあげました。
(コラ!!!水の中!水の中!!)
・・・・・・・。
(今度はシカトかよ。まあいいや。おっ、おや?)
ところがたけしクンは生きていました。
たけしクンは岩の間から叫んでいます。
「華鈴ちゃあーーん。ボク、ボク、オトリやったよ!」
(しっかり逃げて隠れてる。お虜は逃げちゃダメなのよ!)
(じゃあ、果たしてこのおびただしい量の血は??)
底の方を見ると、二十匹くらいの数の河童が輪になって『黄桜』を飲んでいました。
皿の上にはつまみのにんべん印のはんぺんとサメの頭が山盛りになっています。
「いやあ。今日はいいサメがいっぱい獲れたなあ。久し振りの大漁だ」
「この目のあたりがおいしんだよなあ。歯もこりこりしていておいしいなあ」
(ゾーッ!!)と華鈴ちゃんは震えました。
岩の間から顔を出していた、たけしクンはというと・・・・。
よく見ると、華鈴ちゃんは下半身も露わに海亀にまたがっています。
たけしクンは小学三年生でしたが、すでに限界に達してしまいました。
「ブーーーーーっ!!」
「ブブブブ」
「うううっ!!うううううう!!」
(たけしクン、だいじょうぶ?)
華鈴ちゃんは心配になってたけしクンのもとへ泳ぎ寄り、大きな海亀の甲羅に乗せました。
「華鈴ちゃん・・・ボク何かとっても気持ちいい・・・」
「たけしぃ・・・たけしぃ。いったいどうしたの?」
たけしクンはどんなに触っても大きくなりません。
たけしクンはどうかしてしまったのでしょうか。
華鈴ちゃんは意味がわからず、たけしクンを見ました。
華鈴ちゃんはたけしクンがとても好きだったので、子供だけれど、たけしクンを抱きしめました。
「華鈴ちゃん!華鈴ちゃん!」
<六>
水族館での集合時間はあと十五分ほどです。
みんな三々五々、集合場所へきちんと集まってきました。
本当にしつけの良くできた良い子ばかりです。
集合時間になって点呼をとると、恵比寿華鈴ちゃんと目黒たけしくんがいません。
「どこかで見かけた人はいませんか?」
と先生は言いました。
「はーい」と学級委員の、朴優秀くん。
「そこの小さな河童の人形がたくさん並んでいる水槽の中で見ました」
「水槽の中?」
「恵比寿さんは小さな緑亀の上に乗ってました」
「優秀くんふざけないでね。で、何の魚の水槽のあたりですって?」
「えーっと。『ツラナガコビトザメ』って。世界最小の珍しいサメって書いてありました。サメの子が二十匹くらい生まれたばっかりですから、すぐ見つかると思います」
「ありがとう。そのあたりを捜してみるわ。みんなは、ここを動かないようにしていてください。いいですねえ」
「はーーい」「はーーーい」
先生が『ツラナガコビトザメ』の水槽の前に行くと、その水槽の中の水はピンク色に染まっていてサメの子がたくさん裏返しになって死んでしまっていました。
(珍しい品種にしては、水族館の管理が悪いわねえ・・・・)
三匹の緑亀のうち一匹の甲羅の上には、男女のお人形さんが二つちょこんと座っているように見えました。
お人形さんはとても仲が良さそうで、何だか心和ませられるほほえましい光景でした。
『水族館の非日常 平成22年6月』