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剣より重い計算式(ロジック) ~異端の査定員エマ・ルミナスの監査報告~  作者: 二進
第1章:辺境の死神と『奈落』の番犬

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第1章:総決算査定報告書

 王立保険ギルド本部、特別監査室。

 窓から差し込む王都の朝焼けを背に、エマは真鍮の万年筆を置き、銀縁眼鏡を外して眉間を押さえた。


「ヴォルフ。第一章の清算が完了し、本部の不純物(グレイソン)も排除されました。第二章、さらに深い不備(エラー)へ潜る前に、これまでの『負債者』たちを再定義しておきます。……貴方の主観(ノイズ)も許可します。書き加えなさい」


「……へっ、査定員殿による『地獄の台帳』のおさらいか。いいぜ、俺の拳に伝わった連中の『不快な手応え』を書き足してやるよ」


---


【|エマ・ルミナス & ヴォルフ《査定員と執行者》】


エマ:

私の役割は、この世界の不備を正し、6年前に踏み倒された負債を回収すること。ヴォルフ、巷で囁かれている「辺境の死神」という呼称は、統計的に不正確です。私は一度も死を振り撒いてはいません。不当な利得を論理的に剥奪(ロジカル・デス)しているだけです。


ヴォルフ:

それを世間じゃ「死神」って呼ぶんだよ、お嬢様。お前は俺が担いで運ぶ精密機械、俺はお前の計算を邪魔する奴を噛み砕く番犬。……この関係は、1ゴールドの狂いもねえ《《定数》》だろ?


---


セラフィナ(セラ)(不変の定数)


エマ:

私の数式における、数少ない不変の定数(インバリアント)。シュタール支部の泥を一人で被ってくれた彼女には、いずれ利息付きの報酬を支払わねばなりません。


ヴォルフ:

お嬢様が唯一、頭の上がらねえ姉貴分だ。俺たちの王都行きの切符を、あいつは「面白い数字を見せなさい」なんて笑って作りやがった。……食えねえ人だが、背中を任せるには最高の一枚だ。


---


【 |ザック & アルベール《初期の不良債権》】


エマ:

第1話のザック、第4話のアルベール。共通点は「自分だけはバレない」という確率論的慢心(バグ)です。魔獣のブレスが金庫室だけを焼く確率、ラピスラズリの魔力残滓が3グラムしか残らない矛盾……。彼らのメッキは、1枚の領収書で剥がれるほどに安価でした。


ヴォルフ:

英雄のフリしたクズに、芝居がかった芸術家か。お前が算数で追い詰めるたびに、連中の面皮が剥がれていくのは傑作だったな。俺が床に縫い付けた時の悲鳴は、どいつも安物の笛みたいな音だったぜ。


---


【 |ヴェイン & 『紅蓮の翼』《使い潰された消耗品と過大評価の負債》】


エマ:

本部の掃除屋であったヴェインは、数字に「情」という不純物を混ぜました。勇者パーティ『紅蓮の翼』は、討伐前に解毒薬を買い溜めるという予知(エラー)を犯した。彼らが積み上げた51,750ゴールドという負債は、その首を折るには十分な重量でした。


ヴォルフ:

ヴェインって男は、最後にお嬢様に宣告された時、ただの「息子」に戻ってやがった。……『紅蓮の翼』の方は、お嬢様の数字に心を砕かれて、俺が噛み砕く前に自滅してやがったな。


---


【 |オズワルド & グレイソン《システムの心臓部を蝕む有害資産》】


エマ:

第一章の中間決算。私の前に立ちはだかった、父の事件の構成部品たち。彼らが強いた「72時間の猶予」や「連帯保証」というルールが、最終的に彼ら自身の首を絞める罠となりました。


ヴォルフ:

権力という盾で守られてると思ってたタヌキどもが、お嬢様のペン先一つで「全資産差し押さえ」を食らった。最後、グレイソンを大理石の床に叩き伏せた時の手応え……あれこそが、俺たちにとっての本当の報酬だったな。


---


エレナ・ウォーレン(不安定な鏡像)


エマ:

かつての憧れ。現在は組織の不備に蓋をするための「蓋」に成り下がった機能不全(システム・エラー)。グレイソン失脚後に「総局長代行」という地獄のポジションを押し付けられた彼女の胃壁が、第二章の終わりまで保つ確率は極めて低いです。


ヴォルフ:

いつも胃を押さえてるエリート様だ。お嬢様を「組織のガン」だと罵りながら、その実、お嬢様の「正論」に救われたがってる。……あいつの青白い顔を見てると、たまに同情したくなるぜ。


---


「……ふぅ。これで第一章の『帳簿』は閉じられました。ヴォルフ、追加の糖分を。……これから出会う、アリア、ビアンカ、および財務卿……」


 エマは真鍮の万年筆を懐中時計の鎖にかけ、冷たく、および激しい復讐の炎を宿した瞳で窓外を睨んだ。


「清算は、まだ始まったばかり。1ゴールドの誤差も、1秒の猶予も、彼らには与えません」


「ああ、わかってるよ。お前のペンが折れる前に、俺が全部叩き割ってやる」


---


(第一章:辺境の死神と奈落の番犬 ――完――)

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