ギフト
真っ暗な場所で、声を聞いた。
体の感覚はないのに、意識だけが妙にはっきりしていた。夢を見ている時に近い。でも、夢にしては妙に静かで、現実にしては何も無さすぎた。
――お前に、ギフトを与える。
男でも女でもない声だった。怒っているわけでも、優しいわけでもない。ただ、決まっていることを読み上げているみたいな声。
「……は?」
自分の声も、どこか遠い。
――適性を確認。
――個体差異を確認。
――最適化を実行。
何を言っているのか分からない。ただ、不思議と怖さはなかった。逃げようにも、逃げる体も無かったし、そもそも逃げる必要があるのかも分からなかった。
――付与完了。
その瞬間、視界が白く塗り潰された。
気づいた時、石の床に倒れていた。
冷たい。背中からじわじわ現実が戻ってくる。息を吸うと、少し埃っぽい空気が喉に入った。
ゆっくり起き上がると、天井がやけに高かった。装飾の入った石造りで、体育館とかそういうレベルじゃない。もっと古くて、もっと重い建物だった。
周りには何人も人がいた。鎧を着たやつ、ローブを着たやつ、明らかに一般人じゃない連中が、俺たちを囲んでいた。
俺たち。
そこで初めて、自分以外にも倒れている人間がいることに気づいた。どうやら他の3人も自分と同じ状況のようだ。
「……成功です」
白い服の女が、深く息を吐きながら言った。神官、ってやつだと思う。ゲームとかで見たことあるタイプの格好だった。
その周りで、同じような服の連中がざわついていた。
「全員、生存しています」
「魔力反応も安定しています」
「今回の成功率は高いですね」
成功率、って言葉がやけに引っかかった。
俺の隣で、同じくらいの歳の男がゆっくり起き上がる。金髪で、やけに整った顔をしていた。状況の理解は追いついてなさそうなのに、なぜか落ち着いて見えた。
「……すみません、ここはどこですか?俺たちは今どうなってるんです?」
続けて青髪の女の子が怯えながら喋る。どうやらかなり混乱しているようだ。
「そ、そうです!私はどうなっちゃったんですか...!」
「....」
黒髪の男はずっと静かなままだ。
少しして、偉そうな服を着た男が前に出てきた。王族か、貴族か、そういう類だと思う。
「あなた方は、この世界を救うために召喚されました。あなた達には類まれなる力━━━ギフトとレベルが与えられます。その力でどうか魔の手からお救いください。」
……うわ、来た。
頭のどこかが、妙に冷静だった。
その後、順番に「ギフト」とやらを確認されていった。
最初の金髪の男。
「……5大魔法適正!?火・水・風・土・雷。五属性、全てに適性があるようです!」
周りがざわつく。
「すげぇ……」
「本物の勇者だ……」
本人も、少し戸惑いながらも、まんざらでもなさそうだった。
次は横にいた綺麗な青髪の女の子。この状況に怯えながらも言われた通りに前に出る。
「あの...」
「聖属性・高位治癒...それに状態異常完全耐性が確認されました!」
「当たりだな」 誰かが小さく言った。
「次の方、お願いします」
三人目の男が前に出る。少し長めの黒髪で、落ち着いた目をしていた。緊張していないわけじゃないはずなのに、妙に静かだったのを覚えている。
神官が手をかざす。光が走る。
次の瞬間、空気が変わった。
神官の表情が、明らかに固まった。
「……これは」
周囲がざわつく。
「見たことがない……」
「なんだ、そのスキル……」
神官が、少しだけ声を落として言う。
「……ダーク系統。ですが、分類不明。記録にも存在しません」
一瞬、静寂が落ちる。
本人は、ただニヤリと笑い、そのまま手の感触を確かめている。
誰も、すぐには答えなかった。
その空気の中で、最後に俺の番が来る。
手の甲に、少しだけ熱が走った。痛みはない。ただ、刻まれる感覚だけが残る。
頭の奥に、文字が浮かぶ。
《リサイクル》Lv.1
……それだけ。
「……リサイクル、?です」
神官が、少しだけ首を傾げる。
「価値の低い物を、別の物へ作り替える……生産系、ですね」
生産系。
その言葉で、なんとなく察した。
周りの空気が、少しだけ冷える。
露骨じゃない。でも、確実に温度が変わったのが分かった。
「……戦闘には?」
誰かが聞く。
「初めて見たスキルなので、直接的な効果は、確認できません」
……ああ、そういう感じね。
その空気を切り替えるように、奥から声が響いた。
「素晴らしい召喚になりました」
王族らしい男が、満足そうに頷いている。
「皆さんは、この世界にとって非常に貴重な存在です。よろしければ、お名前を聞かせてください」
順番に、名前を名乗っていく。金髪の男はレン、青髪の少女はユウカ、黒髪の男はトモノリという名前らしい。
そして、俺の番。
「……シュウジ、です」
形式的に頭を下げる。
王族は満足そうに頷いた。
「ありがとうございます。詳しい説明は、明日から始めます。今日はゆっくり休んでください」
その日は、そのまま城の一室に通された。
ベッドは、やたら柔らかかった。シーツも綺麗で、枕もちゃんとしていた。正直、ここ数年で一番良い寝床だったかもしれない。
天井を見ながら、ぼんやり考える。
……五属性とか、いいな。
そんなことを思った自分に、少しだけ笑った。
「……まあ、いいか」
この時は、まだ。
このスキルが、どういう意味を持つのか、分かっていなかった。




