第7話:守護者の財力、あるいは神の視点
1995年。日本という国にとって、これほどまでに平穏が遠のいた年はなかった。 一月、未曾有の大震災。そして三月、歴史に刻まれる最悪のテロ事件。
だが、そのすべてをあらかじめ「知っている」人間がいたとしたら?
「……蓮。あなた、一体どこでそんな情報を……」 六本木のオフィス、フューチャー・ゲートの司令室にて。 モニターの光を浴びる九条舞が、震える声で俺に問いかけた。
彼女の目の前にあるのは、一週間前から俺が「予測」として書き連ねた緊急配備計画だ。 震源地の特定、倒壊する高速道路、そして救助に必要な物資のリスト。 俺は、小学生の小さな体で椅子に深く腰掛け、冷徹に指示を出す。
「舞、質問は無用だ。僕の指示通り、ヘリコプターを二十機チャーターしろ。あと、冴島財閥の倉庫にある全ての備蓄品を神戸の港へ向かわせるんだ」 「でも、そんなことしたら何十億、何百億って損失が……」 「金なら腐るほどある。……それに、失われた命は金では買い戻せない」
俺は画面に映る日本地図を見つめた。 前世でニュースを見て、ただ涙を流すしかなかった無力な自分。 だが今は違う。俺の手の中には、国家を動かす以上の「キャッシュ」と「物流網」がある。
そして運命の、一月十七日。 大地が揺れた。
政府の初動が遅れる中、被災地に一番乗りしたのは自衛隊でも警察でもなかった。 『FG』のロゴが入ったヘリの大群と、炊き出しの準備を終えたトラックの列だ。
「な、なんだ、あいつらは……民間企業だと!?」 呆然とする役人たちを尻目に、俺は現場の司令塔として動く冴島凛に無線を飛ばした。
『凛、予定通りだ。避難所を設営し、衛星回線で通信環境を確保しろ。混乱に乗じた略奪も想定内だ。警備会社も動かしてある』 『……了解。蓮、あなたの言う通りだったわ。本当に、全部……』
凛の声は震えていたが、彼女は完璧に任務を遂行した。 この一件で、日本中のメディアが「謎の企業・フューチャー・ゲート」と、その裏にいる「伝説の神童」の正体を追い始めた。
だが、俺の戦いは終わらない。 二ヶ月後。俺は警察庁の幹部、そして時の総理大臣と極秘に面会していた。
「……藤城君。君が言う『地下鉄での大規模テロ』、到底信じがたいが……」 目の前に座る総理は、小学生である俺を前に冷や汗を流している。 俺は、舞が解析したカルト教団の資金流出データと、毒ガス製造工場の衛星写真を突きつけた。
「信じる信じないの問題ではありません。僕は既に、その教団が所有するフロント企業を全て『買い叩いて』おきました。資金源は絶たれ、彼らは今、逃げ場を失っています」 「買い叩いた……? あの巨大教団をか!?」 「ええ。彼らが都内に所有していた土地もビルも、今朝の時点で全て僕の会社の所有物です。警察が動かないなら、僕が『不法侵入』として私設警備隊を突っ込ませますが……どうしますか?」
総理は絶句した。 国家の警察権力を超え、資本の力でテロリストを物理的に「立ち退かせる」幼児。 数日後、未遂のまま教団の幹部たちは一斉検挙された。 歴史は書き換えられたのだ。 何百人もの命が救われ、日本は最悪のシナリオを回避した。
「ふぅ……」 騒動が落ち着いた放課後。俺は一人、音楽室でピアノを弾いていた。 そこへ、一人の少女が音もなく入ってきた。
「……素晴らしい演奏だわ。でも、あなたのその指、鍵盤を叩くよりも、世界を叩き売る方が得意なんですって?」
凛でも、舞でもない、聞き慣れない声。 振り返ると、そこには金髪碧眼の、宝石のような美しさを持つ少女が立っていた。 彼女の背後には、黒スーツの護衛が四人。
「……誰だ、君は」 「エマ・ロスチャイルド。あなたの『神業』を見学に来たのよ、藤城蓮」
第3のヒロイン、世界経済の支配者――ロスチャイルド家の令嬢、エマ。 彼女は優雅に歩み寄り、俺のピアノの蓋をパタンと閉じた。
「日本という小さな国を救って満足かしら?……さあ、次は私と『世界』を賭けて遊びましょう?」
小学生の俺の前に現れた、世界最強のライバル。 守護者から覇者へ。 物語はついに、日本を飛び出し、地球規模のマネーゲームへと突入する。




