エピローグ:買い取った未来のその先へ
2030年。
世界から「貧困」と「病」という言葉が消え、人類は火星のテラフォーミングを完了させていた。
すべてを買い叩き、すべてを再設計した男、藤城蓮は今、三十歳という節目を迎えていた。
場所は、月面に建設された超豪華ホテル『FGルナ・グランド』。
窓の外には、かつて蓮が守り抜き、今や銀河で最も価値のある惑星となった「地球」が、美しい青い宝石のように浮かんでいる。
「蓮。……いつまでそうやって、地球を眺めているの?」
背後から声をかけたのは、冴島凛だ。彼女は今や、地球と火星を結ぶ物流網のすべてを統括する、宇宙最大の運送会社の女帝となっていた。
「……いや。0歳の時に見た、あの淀んだ景色とは、ずいぶん変わったなと思ってね」
「そうね。あなたが変えたのよ。……私たち全員の運命と一緒に」
凛の隣には、かつて世界金融を牛耳り、今は銀河通貨の調整役を担うエマ・ロスチャイルド。そして、全惑星の法秩序を管理する最高法務責任者となった神崎麗華が並ぶ。
「蓮様、そろそろお時間です。銀河銀行の評議会へ出す、次世代エネルギーの価格設定……承諾書にサインを」
麗華が差し出した電子ペンを受け取ろうとした瞬間、空中に無数の光の粒子が舞い、一人の少女の姿を形作った。
実体化ナノマシンによって、ついに完全な「肉体」を取り戻した九条舞だ。
「……サイン、不要。……私が、全銀河の計算を終わらせた。……蓮は、もう何もしなくていい。……私と、遊ぶだけ」
「舞、抜け駆けは禁止よ!」
「そうよ、今日の蓮のスケジュールは私が独占するって言ったじゃない!」
宇宙の覇者となった女たちの、相変わらずの喧嘩。
蓮は苦笑しながら、ペンを置き、彼女たちに向き直った。
「……みんな、ありがとう。僕が欲しかった『未来』は、この景色の中に全部ある」
蓮は、左手の薬指に光る、4つの異なる宝石が埋め込まれた特製の指輪を愛おしそうに眺めた。
0歳から始まった二度目の人生。
最初は、ただ自分が幸せになるために金を稼いだ。
次に、愛する者たちを守るために国を救った。
そして最後は、人類のために神と交渉した。
だが、そのすべての根底にあったのは、**「自分の人生を、自分の望む価格で買い取りたい」**という、シンプルな欲望だった。
「蓮、これからの予定はどうするの? 太陽系の外、アンドロメダ銀河の『先行予約買収』でも始める?」
エマの問いに、蓮は悪戯っぽく微笑んで、窓の外の漆黒の宇宙を指差した。
「いいや。……次は『時間』だ」
「「「「えっ?」」」」
「この素晴らしい今を、永遠にリピートできるシステム。……あるいは、別の並行世界の僕たちを助けに行くための『次元ポータル』。……それを作るための資金なら、まだ少し余っているからね」
蓮の言葉に、四人のヒロインたちは顔を見合わせ、そして吹き出した。
「やっぱり、あなたは最後まで『買い取り伝説』の神童なのね」
笑い声が、月面の静寂に響く。
かつて孤独だった「前世の自分」に、今の蓮ならこう言うだろう。
――絶望するな。未来は、自分の手でいくらでも「安く」買い叩き、最高に「高く」作り直せるんだ。
銀河の王、藤城蓮。
彼の「買い取り」に、終わりの文字はない。
なぜなら、彼が見つめる未来は、いつだって今の自分よりも価値があるからだ。




