第23話:神々の査定と、地球の時価総額
2022年。人類が「不老不死」の入り口に立ったその瞬間、空が、黄金色のノイズに包まれた。
それは気象現象でも、舞のホログラムでもない。太陽系そのものを覆い尽くすほどの巨大な「意思」の顕現。地球上のすべてのディスプレイに、無機質な文字列が表示される。
【文明ランク:Cマイナス。知的生命体:収益性低。本惑星を『不良債権』として処理し、原子分解による資源回収を開始する】
「……冗談じゃないわ。誰が、私の蓮の地球を勝手に査定しているのよ!」
『正妻戦争』の料理対決でエプロン姿だったエマが、空に向かって怒鳴り散らす。
だが、相手は物理法則そのものを書き換える上位存在――宇宙の管理者、『銀河銀行』の査定員だった。
「舞、相手の正体は?」
蓮は冷静に、しかし瞳に投資家としての鋭い光を宿して問いかける。
『……解析不能。……彼らは、三次元の物質ではなく、情報の「価値」そのもので構成されている。……物理攻撃、無効。……交渉、唯一の手段』
「交渉か。僕の得意分野だな」
蓮は、不老不死装置の出力を最大にし、自らの意識をデジタル化して、舞と共に銀河のネットワークへとダイブした。
気がつくと、蓮は真っ白な空間にいた。目の前には、巨大な天秤を持った、光り輝く幾何学体が浮いている。
『人間よ。この星は、すでに寿命だ。資源は枯渇し、知性は内輪揉めに終始している。これをリサイクルし、新しい銀河の糧とするのが、宇宙の「効率」だ』
「効率、か。……君たちの査定は、甘すぎるな」
蓮は、仮想空間の中で不敵に笑い、指を鳴らした。
空間に、蓮がこれまでの人生で築き上げてきた「資産」がホログラムで展開される。それはただの金ではない。
1995年の震災を防ぎ、2001年のテロを回避し、2020年のパンデミックを鎮めたことで生まれた「可能性の総和」だ。
「君たちは、この星を『資源量』でしか見ていない。だが、僕という一人の人間が、歴史という『確定した損失』をどれだけ利益(未来)に書き換えてきたか、その実績を見てから判断しろ」
『……データ、照合中。……!? ありえない。一人の個体が、惑星全体の歴史エントロピーを逆転させている……?』
「そうだ。地球の時価総額は、君たちの計算より一億倍は高い。……そして、僕は今、その地球を『担保』に、君たちの銀河銀行そのものを『逆買収』する提案をしに来たんだ」
『逆買収……!? 原始的な三次元文明が、我々を……?』
「ああ。僕には、君たちが持っていない『未来の答え』がある。……僕を支配下に置くか、僕に支配されるか。……どちらが『高配当』か、計算してみるがいい」
蓮は、前世の記憶と舞の演算を組み合わせた「宇宙規模の経済成長シナリオ」を突きつけた。
静寂が訪れる。神と呼ばれた査定員が、一人の少年の提示した「数字」に、初めて恐怖を感じていた。
数分後。空を覆っていた黄金のノイズが消え、透き通るような青空が戻ってきた。
【査定保留。地球を『特区』として認定。代表者:藤城蓮を、銀河銀行の終身特別筆頭株主に任命する】
世界中が、何が起きたか分からぬまま歓喜に沸いた。
だが、FGタワーの屋上に降り立った蓮を待っていたのは、宇宙の危機よりも恐ろしい、四人のヒロインたちの視線だった。
「蓮、銀河の株主になったんですって? おめでとう。……で、誰を『銀河の王妃』にするか、もう決めたわよね?」
凛が、優雅に、しかし逃がさないという気迫で迫る。
「……蓮。銀河のネットワーク、私と統合した。……私が、宇宙一の妻」
ホログラムの舞が、実体化ナノマシンを使って蓮の腕に絡みつく。
「宇宙規模の外交なら、私にお任せください。蓮様」
麗華が、婚姻届を挟んだバインダーを差し出す。
「ちょっと! 私を忘れないで! ロスチャイルドの資産を銀河通貨に両替する準備はできてるわよ!」
エマが割り込んでくる。
蓮は、高く澄み渡った空を見上げ、苦笑した。
「……地球を救うより、こいつらを説得する方が、よっぽど高い授業料がかかりそうだな」
0歳から始まった逆行人生。
ついに神の領域すらも「買い取った」少年。
彼の「買い取り伝説」は、今、宇宙という名の新たな市場で、愛する者たちと共に永遠に続いていく。




