第16話:リーマンショックを『食い物』にする男
2008年。世界は再び、強欲が生み出した「金融崩壊」の淵に立たされていた。 アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズの破綻。連鎖的に広がる恐怖。日経平均は暴落し、昨日までの富豪たちが路頭に迷う。
だが、19歳になった俺――藤城蓮は、世界で唯一、この瞬間を「待ち望んでいた」。
「……始まったわね。世界中のマネーが、行き場を失って叫んでいるわ」 FGタワーの最上階。20代半ばとなり、大人の色気を完成させたエマ・ロスチャイルドが、手元のワイングラスを揺らす。
「エマ、叫ばせておけばいい。……舞、準備は?」 「……完了。世界中の銀行システム、バックドアから接続済み。……今、スイッチを押せば、全人類の借金、消せる」 九条舞は、ホログラムディスプレイを高速で操作する。彼女の技術は既に、現代の量子コンピュータを数十年先取りしていた。
「借金を消す必要はないわ、舞。……蓮様、既に主要な政府・中央銀行のトップとは話をつけてあります」 神崎麗華が、一通の極秘署名が並んだリストを提示する。
「条件は……『ドル』という通貨の終焉。そして、FGが発行するデジタル通貨『FG-Coin』への移行、ですね?」
「ああ。既存の金融システムを一度完全に破壊し、僕が管理する『正しい経済』に挿げ替える」
俺は、窓の外でパニックに陥る東京の街を見下ろした。 リーマンショックという荒波の中、俺は100兆円を超えた資産を「全賭け」し、暴落する債権を紙クズ同然の価格ですべて買い叩いた。
そして、世界が「明日食べるパンがない」と絶望した瞬間。 俺は全世界のスマートフォン(舞が数年早く普及させたFG製端末)に、一つの通知を送った。
【親愛なる人類へ。本日より、君たちの生活はフューチャー・ゲートが保障する。……一人あたり月額20万円のベーシックインカムを支給した。確認してくれ】
世界中から悲鳴が消え、驚愕と歓喜が爆発した。 国家が救えなかった国民を、一人の男が「買い取った」のだ。 この日を境に、世界中の人々にとって、神よりも、大統領よりも、藤城蓮という名が絶対的なものとなった。




