第14話:運命の9月11日、神童は空を見上げる
2001年、9月11日。ニューヨーク。 秋の爽やかな青空が広がるマンハッタンの、ワールドトレードセンター(WTC)が見える一等地に、フューチャー・ゲート(FG)米国本社ビルはそびえ立っていた。
最上階の執務室。12歳になった俺は、学校を休んで(もはや形式的な手続きすら不要な立場だが)、冷徹に空を睨んでいた。
「……蓮。予定の時刻まで、あと5分」 九条舞が、数台の特殊モニターの前に座り、キーボードを叩く。彼女が開発した『全地球監視システム』は、ハイジャックされた4機の旅客機の軌道を、国防総省よりも早く、正確に捉えていた。
「麗華、政府への根回しは?」 「完了しています。ホワイトハウスと航空局には、私から『FG社の最新防衛システムの実地演習』として、一切の介入を禁じさせました。……もし彼らが動けば、アメリカの全金融口座をフリーズさせると脅しておきましたから」
神崎麗華は、冷たい微笑みを浮かべながら紅茶を淹れる。 「蓮、本当にやるのね? 歴史そのものを、真っ向から叩き壊すつもりなのね」 エマ・ロスチャイルドが、緊張に肩を震わせながら俺の隣に立つ。 「歴史が『正解』だとは限らない。……この事件をきっかけに始まる泥沼の戦争、失われる数百万の命と数千兆円の損失。それを防ぐ方が、投資効率がいい」
俺は右手を上げた。
「舞、起動しろ。……FG製、高出力レーザー迎撃衛星『イカロス』」
「……了解。ロックオン。……照射」
マンハッタンの上空、成層圏よりも遥か高層。 人知れず配備されていたFG社の人工衛星から、肉眼では見えない不可視の光線が放たれた。 WTCに向かっていた旅客機の「エンジン」だけを精密に焼き切り、さらに舞の遠隔ハッキングで操縦系統を強制掌握。 ビルに激突するはずだった死の鉄塊は、吸い込まれるようにハドソン川へと誘導され、水しぶきを上げて不時着した。 1機、また1機と。
「……全機、着水を確認。……犠牲者、ゼロ。ペンタゴンに向かっていた機体も、近くの基地に強制着陸させた」
舞が淡々と報告を上げる。 窓の外。本来なら黒煙に包まれるはずだったツインタワーは、何事もなかったかのように朝日に輝いている。 ――歴史が、変わった。
「……勝ったわね、蓮」 冴島凛が、俺の手をぎゅっと握りしめた。彼女の目には涙が浮かんでいる。
だが、俺の戦いはここからが本番だ。 事件が未遂に終わった直後、俺は全世界に向けて声明を出した。
「世界中の投資家に告ぐ。……テロの時代は終わった。これからは、僕が提供する『絶対的な安全』の下で、新しい経済を始めよう。……協力しない国には、二度と太陽は昇らないと思ってほしい」
この日、藤城蓮は「一国の神童」から、地球を直接統治する**「影の皇帝」**へと昇格した。 未遂事件の裏側にあった「巨大な資金の流れ」をすべて逆探知し、テロ支援国家の資産を一夜にして全て没収。 その額、およそ300兆円。
12歳の誕生日に、俺は「平和」という名の最大の商品を買い取ったのだ。
第15話:皇帝の休日と、ハーレムの反乱
大事件を防いでから一ヶ月。 世界は「奇跡の少年」に跪いていた。 だが、当の俺は、FG社のプライベートビーチが広がる南の島で、最大の危機に直面していた。
「蓮、泳ぎましょう! 私、この日のために新作の水着を選んだんだから!」 凛が、眩しい白のビキニ姿で俺の手を引く。
「あら、幼馴染の特権はそこまでよ。……蓮、私の島では『王』に相応しい、もっと大胆なもてなしを用意しているわ」 エマが、情熱的な赤い水着で割り込んでくる。
「……二人とも、どいて。……蓮は、私と新しいAIのデバッグをする。……水着は、着てない(スクール水着を中に着ている)」 舞が俺の背中にぺたりと張り付く。
「皆様、お静かに。蓮様のスケジュールは、この麗華が秒単位で管理しております。……今日の午後は、私との『密室での外交交渉』のお時間です」 麗華が、大人の色香を漂わせるパレオ姿で微笑む。
「……お前ら、世界経済はどうした」
「「「「そんなことより、蓮(様)の方が大事!!」」」」
世界を救い、歴史を書き換えた男。 だが、4人のヒロインたちの愛の猛攻からは、未来知識をもってしても逃げ出すことはできなかった。
「……やれやれ。成り上がるのも楽じゃないな」
俺はコーラを飲み干し、青い海を見つめた。 100話まで続く物語は、ようやく中盤。 次なる獲物は……「宇宙」か、あるいは「不老不死」か。
神童の野望は、地球の重力すらも超えようとしていた。




