第12話:ジョブズの焦燥と、特許の檻
サンフランシスコ、パロアルト。 カンファレンスのVIPルームにて、俺は一人の男と対峙していた。 黒のタートルネックにジーンズ。若き日の、しかし既に強烈なカリスマを放つスティーブ・ジョブズだ。
「……君が、藤城蓮か。信じられないな、ただの子供じゃないか」 ジョブズは不機嫌そうに、しかし興味深げに俺を見つめる。彼の横には、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾスといった、未来の覇者たちが顔を揃えていた。
「年齢の話をしに来たわけじゃない、スティーブ。君たちの『構想』について、少しアドバイスをしに来たんだ」 俺は、舞が持ってきた最新のタブレット端末(2025年のiPadを再現したもの)をテーブルに置いた。
「な……なんだ、このデバイスは!? 全面液晶、物理ボタンがない……。直感的なインターフェースだと!?」 ジョブズの目が、獲物を見つけた猛獣のように光る。
「君がこれから10年かけて作ろうとしている『iPhone』の完成形だ。……残念だけど、このデザイン、通信規格、そして『指で操作する』という概念に至るまで、既に僕の会社が世界200カ国で特許を取得済みだよ」
「……何だと……!?」 ゲイツが声を荒らげる。 「冗談じゃない! そんな特許が認められるはずが……」
「認められているんだよ。君たちがガレージでコードを書いていた頃、僕はエマを使って世界中の特許庁を『買収』……もとい、説得して回ったからね」
俺は、麗華が用意した膨大な特許書類の束を突きつけた。 今、この瞬間、世界のITの未来は俺という「檻」の中に閉じ込められたのだ。
「選択肢は二つだ。僕の軍門に下り、フューチャー・ゲートの子会社として開発を続けるか。……あるいは、僕に特許使用料を永遠に払い続け、一生僕の『下請け』として生きるか」
シリコンバレーの天才たちが、一人の日本人の子供を前に、屈辱に震えながら沈黙する。 「……君は、神か、それとも悪魔か?」 ジョブズが絞り出すように言った。
「いいや。僕はただの『投資家』だ。……自分の気に入った未来に、全賭けしているだけのね」
俺は彼らに背を向け、窓の外に広がるカリフォルニアの空を見上げた。 2000年のITバブル崩壊まで、あと2年。 アメリカの富をすべて吸い上げ、日本を「世界で唯一の超大国」に作り変えるためのカウントダウンが、今、始まった。




