Ep6_至近距離の誘惑
数時間後。
俺の目の前には、白紙の原稿用紙と、無慈悲に減り続けるデジタル数字が浮かんでいた。
「ねえ坊や、この『ぷにぷに』って擬音は何?
あと、もっと可愛い子描いてよ。私みたいに魅力的な子!」
サキュバスが横から原稿を覗き込み、勝手な注文をつけてくる。
そのたびに俺の筆が止まる。
「うるさい、読者は黙ってろ……。今は王道美少女を……」
『読者の期待を裏切りました。あなたの作品は評価に値しません。——罰を与えます』
「あ……ががががががっ!!?」
全身を走る強烈な電流。俺は机から転げ落ちた。
「あらら、異世界のスキルってえげつないわね。大丈夫? 坊や」
サキュバスは心配そうに言いながらも、手元では別の同人誌
(神絵師の既刊)をのんびり漁っている。
彼女には俺の生命力が視覚化されて見えているらしく、
この程度の電撃では死なないと高を括っているのだ。
『次回の締切は六時間と一分後です。……軽く睡眠を摂ることを推奨します』
脳内の非情なアナウンスに従い、俺は泥のように重い体を引きずってベッドへ潜り込んだ。
一分でもいい、意識を飛ばしたい。
だが、安眠は許されなかった。
「一人で寝るの? 寂しいじゃない」
ぬるりと、ベッドの中に熱が入り込んできた。
サキュバスが当然のように俺の隣に潜り込み、俺の腕を抱き枕のようにして抱きかかえてくる。
(……眠れん。というか、これ何の羞恥プレイだ)
至近距離にある、大きく開いた胸の谷間。艶やかに濡れたプルンとした唇。
視線を奪われないように必死に天井を仰ぐが、
脳裏には今の状況が「コマ割り」されて浮かび上がってくる。
(待てよ……。これ、そのまま次の作品にできるんじゃね?)
『突然やってきたサキュバスに寝込みを襲われる話』。
体験談ならリアリティも抜群だ。あのアングル、あの表情、あの……柔らかさ。
賢者タイムならぬ「作家タイム」に突入した俺は、
隣にで寝ている魔性の美女を最高の『資料』として観察し始め、
再び脳内でネームを切り始めた。




