地下迷宮探索
地下迷宮探索
機動部隊は地下迷宮探索のため、技術提供を行う者達以外を陸戦隊とし、艦隊の艦船警備要員を残し地下迷宮探索を開始した。
11階層には容易に到達したが、銃器で魔物を倒しても位階が上がらない事が判明し、剣・槍・鈍器・弓・投石など現地で入手できる武器で探索を行った。
また、探索には役割分担が必要な事も分かり、それぞれの得意とする役割を担うようになっていった。斥候、近接戦闘、中距離戦闘、遠距離戦闘、衛生、輜重である。
11階層の安全地帯にある地下迷宮都市には、簡易で小型の翻訳の道具が販売されており、身に着けているだけで翻訳を行ってくれるという、魔法技術の凄さが分かる道具があった。
これら魔法技術を用いた道具は魔道具と呼ばれており、地下迷宮の都市で生活する上で非常に役立っていた。
陸戦隊は順調に31階層へ到達し、徐々に陸戦隊全体での役割分担も始まっていった。
陸戦隊の最前線を行く先鋒部隊、先鋒を支える部隊、後方支援部隊という具合に分かれていった。
先鋒部隊は、艦隊乗員の中でも航空機搭乗員が占める割合が高くなっていた。
特に戦闘機搭乗員の戦闘能力が高く、探索を順調に進める原動力となっていた。
51階層に到達する頃には、陸戦隊の戦い方は固まってきており、艦船の警備に残した者達とも交代しながら探索を続けていった。
もちろん士気を維持するため、休養もしっかりと取っていたが、日本から持ってきている物資が底を付けば、士気の低下も免れないだろうと思われていた。
艦隊司令部は、艦隊乗員の士気の低下を抑えるため、日本食の再現に乗り出した。
何といっても重要なのは米で、乗員の中に稲穂をお守りに入れていた者がおり、迷宮都市国家と交渉し、米の栽培の許可を取り付けた。
艦隊は海竜の討伐で得ていた資金と、地下迷宮探索で得ている資金で大いに潤っていた。
米の栽培に適した土地を購入し、人を雇い、米を生産させるだけの資金は十分過ぎるほど持っていた。
米はお守りに入っていた僅かな稲穂であったため、まずは種籾の増産から開始する事になった。
艦隊の乗員達の口に入るのはまだまだ先の話になるのだが、また米が食べられるようになると、乗員達の士気は向上するのであった。
大豆に似た豆はこの世界にもあり、いずれは米麹を作り、味噌や醤油の生産も考えられていた。
そこまでいけば日本酒も造られるようになるであろうから、日本食の再現も進んでいくと考えられた。
1年が過ぎ、艦隊は61階層に大規模な拠点の建設を開始した。
迷宮都市国家にも許可を取り、探索者の派閥としては最大規模となる「艦隊」の拠点となる施設を建設していった。
安全地帯の各階層にも、61階層には及ばないが派閥「艦隊」の拠点を設け、現地の探索者や探索者志望の者達を受け入れていった。これは陸戦隊の迷宮探索をより順調に進めるためであり、主に後方支援が目的であった。
しかし、派閥加入後の訓練は海軍式であるため、すぐに音を上げて辞めていく者達もいたが、豊富な資金でしっかりと育成していくため、多くの者は残り一端の探索者となっていった。
5年が過ぎ、71階層にも大規模な拠点の建設を始める頃には、陸戦隊最精鋭の部隊は91階層に到達し若返っていた。
彼らが引率する形で81階層にも宿営地が造られていった。
若返りは、身体が最も能力を発揮できる年齢まで若返る事が判り、早期の全乗員の若返りが目指されるようになった。
特に将官を始めとする年嵩の者達は、身体を張って戦うには高齢であるため、万全の体制で急がれる事になった。
5年で91階層への到達は、迷宮都市国家でも非常に稀な事であるようだった。
陸戦隊最精鋭の多くは航空機搭乗員であり、それは日本国民7千万人から選りすぐられた存在ともいえ、またその探索を万全に支える体制があったからこその結果ともいえた。
艦隊が停泊していた湾には船渠が造られ、艦船の整備がある程度できるようになっていた。
いずれは同等の艦船を建造するために、今ある艦船は大事に保全されていた。
技術提供を行っていた乗員達も、交代で陸戦隊に引率され探索を行い位階を上げていっていた。
迷宮都市国家の工業力はまだこれからであったため、技術提供の任務は継続して行われていった。
10年が過ぎ、艦隊の乗員達は皆若返っていた。
将官を始めとした年嵩の者達も欠けることなく皆若返っており、あと110年という気の遠くなる歳月を前に奮闘し続けていた。
迷宮都市国家最大の探索者派閥「艦隊」は隆盛を極めていた。
91階層までを常に探索し、それによって得られる資金を惜しみなく使い、派閥「艦隊」加入の探索者を育成し、迷宮都市国家にも強い影響力を持っていた。
艦隊は地上の迷宮都市国家の科学による発展にも協力しており、蒸気機関を用いた鉱山開発や蒸気機関車の開発が行われていた。
漁船も焼玉エンジンを用いた物が使われ始めており、大型船の建造も試みられ始めていた。
艦隊の乗員達は皆若返っていたため、迷宮探索は継続しつつも休養を取る際の娯楽を求めていった。
元の世界の娯楽を再現させようとする者もいれば、現地の言葉を覚え所帯を持つに至る者まで現れた。
艦隊司令部もあと110年もの歳月、乗員達の士気を維持するために、健全な娯楽は推奨していった。
皆若返っているため、精神が肉体に引っ張られる傾向にあったが、そこは軍隊であるため規律は保たれていた。
探索者の中には女性も多く、陸戦隊員と恋仲になる者達もいた。
艦隊司令部としては、個々人の恋愛に口出しはしなかったが、希望者には派閥「艦隊」の女性加入者との出会いの場を設けたりといった配慮は行っていった。
艦隊の乗員達は、110年後には元の世界に帰還するため、現地の者達との関わりはそこを踏まえた上で行われたのだった。
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