異世界転移
異世界転移
1941年11月。日本海軍機動部隊は、ハワイ真珠湾へ向け出港した。
途中、哨戒隊の潜水艦が一隻落伍したものの、概ね順調に航海を進めていた。
しかし、12月に入り突然雷雲に覆われた。
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艦隊は雷雲を抜けると、現在位置を把握できなくなってしまっていた。
天体も地球から観測できる物とは異なっており、艦隊丸ごと異なる世界へと迷い込んだのではと推測された。
艦隊司令部は表面上は冷静さを保ちつつ、内心では大いに混乱していた。
艦隊の乗員達にも周知され、若干の動揺はあったものの、司令部が冷静であったため、規律は保たれた。
九七式艦上攻撃機を偵察に飛ばしたところ、九七艦攻の活動圏内に陸地が発見され、艦隊はそこへ向かう事になった。
途中、未知の巨大生物と遭遇したが、偵察機により逸早く発見しており、金剛型戦艦2隻が前面に出て対応した。
頭がまるで龍のような生物であり、ずんぐりとした巨大な身体を持ち、口から強力な水球を高速で吐き出してくる生物であった。
水球は金剛型戦艦比叡の舷側装甲に命中し、強い衝撃を受けたが装甲を貫く程の力はなかった。駆逐艦や巡洋艦であれば、被害が出たのではと予想された。
反撃に放たれた金剛型戦艦比叡・霧島による主砲斉射は、未知の生物を一瞬にして葬った。距離も極近く、過剰な火力となっていた。
陸地を目指す過程で、何度も同じ巨大生物に遭遇したが、距離5000mでの主砲2門の砲撃で仕留められる事が判り、砲弾が節約された。
何かの役に立つかと、海竜と名付けられた未知の生物の死骸を、状態の良い物を曳航し、陸地を目指した。
陸地が近付き、偵察により人工的に造られた都市が発見された。少なくとも人類、それに類する存在が都市を建設したと思われた。
発見した大きな都市へと針路をとって進み、都市から遠くない場所に大きな湾になっている所があったため、そこへ艦隊を停泊させた。
偵察で発見した都市は洋風な造りとなっており、海に面した場所には小さな漁港も見られた。
艦隊は現地の者と接触するために陸戦隊を編成し、小さな漁港へ駆逐艦を派遣した。
漁港に到着した駆逐艦から、陸戦隊と語学に堪能な士官が上陸し、現地の者と接触を果たした。幸い西洋風ではあるが人間であることが見て取れ、未知の存在などではない事が確認された。
現地の漁師と思しき人間とさっそく接触を試みるも、やはり言葉は通じず、語学に堪能な士官が身振り手振りで意思疎通を図ったところ、漁師がここで待っていろと身振りで伝えてきた。
しばらくすると、漁師が役人らしき人物を連れてきて、役人がなにやら道具を取り出し話しかけてきた。
「今聞こえている言葉は通じていますか?これは翻訳の道具です」
驚くべき事に、翻訳の道具を通して話しかけてきたのである。
そこからは滞りなく話が進み、様々な事が判明した。
やはりここは地球ではなく、異なる世界、異世界であるという事。
稀に異世界より、この世界に迷い込む者達がいる事。
海は危険な海竜が生息しており、近海での漁しかできず、交易は陸路が主である事。
この世界には魔法が存在し、地下迷宮というものがあり、ここは地下迷宮を有する都市国家であり、地球とは異なる文明を築いているという事。
迷宮都市国家は、この世界に迷い込んできた異世界人達に、迷宮探索者となって身を立てる支援を行っているという事。
そしてなにより一番知りたかった、元の世界に帰る方法が存在するという事だった。
艦隊がこちらの世界に来た日時と凡その海域から、専門機関に依頼すれば相応の対価を支払う事で、元の世界に帰るための日時を割り出せるという。
問題は対価であったが、曳航していた海竜の死骸が、極めて価値が高く、高額で買い取ってくれるという話になった。
竜は討伐が難しく、特に海竜は海という場所も相まって討伐が困難であり、その素材も高価になっているという事だった。
艦隊司令部は海竜の売却を即決し、元の世界への帰還を望んだ。
役人の方も、海竜を討伐できる戦力に興味を持っていたようであった。
異世界のとはいえ一国の強力な艦隊が、大都市の遠くない場所に停泊している事は問題にならないのかと懸念されたが、役人はその実態を認識できておらず、ただ海竜を討伐できる力を持った艦隊としか考えていないようであった。
艦隊司令部としては、元の世界に帰る事が第一であるため、わざわざ指摘する事はなかった。
この大きな迷宮都市は、地下に深い迷宮を有するこの世界でも最大規模の迷宮都市であり、人口はこの迷宮都市だけでも数百万人に上るという。
大きい都市とはいえ、とても数百万人を有する事ができる都市には見えないが、大部分の人々は地下迷宮に居住しており、広大な安全地帯に住んでいるという。
そのため海竜の売却も問題なく行え、専門機関に帰還のための日時の割り出しも依頼できた。
日時の割り出しにはある程度の日数が掛かるとのことで、艦隊はそれを待つ間金策に乗り出す事になった。
現状、今すぐ元の世界それも元の時間に帰還できたとしても、既に艦隊の燃料的に真珠湾攻撃は完遂できない状態となっており、当面の食料や飲料水の確保のため、艦隊司令部は戦艦比叡・霧島と数隻の駆逐艦を海竜討伐・確保のために投入した。
水上機の偵察により発見した海竜を、戦艦比叡・霧島は狩りとっていき、海竜の死骸を駆逐艦が曳航していった。
多数の海竜の死骸を売却する事で、艦隊は多額の資金を得て、当面の水と食料の問題はなくなった。
多数の海竜を狩って来る艦隊に対し、迷宮都市国家も興味を持ち、海竜を討伐できる戦艦の建造技術を求めるようになっていった。
艦隊があらかた金策を終える頃、専門機関から凡その帰還できる日時が提示された。
それは、120年後であった。
あまりにも絶望的な数字に、艦隊司令部も意気消沈し、艦隊の士気は大いに下がるのであった。
しかしそこへ、翻訳の道具を入手し情報収集を行っていた士官から希望となる情報がもたらされた。
「この世界では、地下迷宮深層を探索している者達は、寿命がないに等しいそうです。鍵となるのは回復薬で、具体的には71階層以降で回復薬を使っていると老化が遅くなり、81階層以降で回復薬を使い続けると老化が止まり、91階層以降で回復薬を使えば若返りが見られたそうです。つまり、我々も81階層以降へ至り、回復薬を使用し続ければ、理論上は120年後も健在でいられるのです」
この報告に艦隊司令部は藁をも掴む思いで、いやむしろ縋る思いで地下迷宮での延命に賭ける事にしたのだった。
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