ひやむぎを秋に食べるのは違反でしょうか、それとも味覚の秋でしょうか。
ひやむぎが美味しい季節は夏と決まっている。
だけど、わたしは秋に食べたい派だ。
たった一人の派閥だ。今のところはね。
学校の昼食で、通学前に作っておいたひやむぎを水に洗って、水筒に入れたおつゆで食べるのだ。
クラスのみんなはおかしなものを見たといった感じで、わたしのほうをチラチラと見ている。
わたしはそんなこと気にせず、ひやむぎをすする。
クラスであまり話したことのない子がわたしに語りかけてきたのは、そんなときだった。
「ひやむぎは暑い日の食べ物だと思ってたけど価値観が変わったわ。美天の考えていることっていつも不思議だと思っていたけど、今日で合点がいったかんじ」
「ひやむぎ違反とでもいっておこう。その価値観はあっているけど外れているんだよ。ほんとうは秋の食べ物なんだって、みんな知らないだけなんだ」
「違反がほんとうなんだ」
「ほんとうの違反は季節で食べるものを規定していることなんだ」
「でも、松茸は秋の食べ物でしょ」
「そんな高いものの話はしてもしょうがなくない?」
「ひやむぎは安いものね」
「贈答用はそれなりなんだ。知らないな」
「知る必要のない事実を知った気分」
「無駄な知識こそ至宝だよ。ひやむぎたべる?」
「じつはそう言ってくれるの、待ってたんだ。ずっと食べたかった」
「となりのひやむぎはおいしいんだ」
「そうあってほしい。うん、ひやむぎだ」
わたしは彼女に一口分のひやむぎをほおばらせた。
「ひやむぎってひやむぎだよね。秋でもひやむぎだった」
「新鮮でしょ」
「新鮮ではないかな。斬新ではあるけれど」
「ひやむぎつくりすぎて、家の冷蔵庫に残りがあるんだ。温めて食べる予定だけど、うちにくる?」
「温めた素麺は食べたことあるけど、ひやむぎはないかな、行ってもいいの?」
「斬新を通り越して新鮮だよ」
「ひやむぎの在庫どれだけあるのか知りたくなってきた」
「かなりあるけど、秋中に食べきるつもり。手伝って」
「お手伝いしませう」
「せうせう」
そういう因果で彼女と親友となったひやむぎな出来事だった。




