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人気者の君と一人ぼっちの僕  作者: 浅井天


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ちりぬるを

「本当に何でもいいの?」

僕は石川さんとファミリーレストランに来ている。この前した食事に行く約束を果たすためだ。初めての食事デートでファミリーレストランかよと言う人がいるかもしれないがアルバイトのしていない高校生なんてお金がないに決まっているのだから勘弁してくれ。大学生や社会人になるとおしゃれで予約が必要な店に行ったりするのかもしれないが高校生なんてこんなもんだろう。


「うん、何頼んでくれてもいいよ」僕は景気よく言った。

「じゃあ、これにする」石川さんは注文用タブレットを操作した。

「いいね、じゃあ、僕はこれかな」

男子は安定のハンバーグだろう。


注文を完了させ注文が来るのを待ちながら石川さんと話をしている。

「ねえねえ、最近西村君変じゃない?」

あれから、西村君は教室では一人で過ごしている。

「確かに、変だよね」

「だよね、教室でも静かだし誰とも話してないし」

「そうだよね、急に変な感じだよね」

「そうだよね、木村君何か知ってる?」

「いや、知らないな」口先だけで答える。

「ほんとう?」

「うん、僕が人のこと知ってると思う?」

石川さんは納得したように「確かにそれはそうだ」

「でしょ」


「お待たせしましたご注文の・・・」

「あ、ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ」店員さんは立ち去った。


僕たちは手を合わせていただきますと言って料理を食べ始めた。

「木村君は彼女いるの?」

「いないよ」はっきりと素早く答えた。

「即答だね、好きな人は?」次はこの質問というように聞きたかったことを次々と聞いてくるような感じだった。

僕はその質問にドキッとした。以前ならさっきの質問と同様にはっきり素早く言い慣れたように答えることができただろう。

しかし、自分の中で状況が変わってしまった。

先日、西村君たちに宣言したように自分の中で気持ちがはっきりしてきており形を成している。

この感情をそのまま石川さんに答えるのは正しいのだろうか。

自問自答を繰り返していた。

好きな人はいると答えて名前は出さない。ありかもしれないが石川さんに名前を言うまで聞いてくるかもしれない。

いや、石川さんはそういうことをする人じゃない。名前を教えたとしても広めることはしないだろう。

ならば、教えてしまっていいのではないだろうか。僕の中で結論が出た。


「いるよ」僕は迷いなくはっきり答えた。(実際はとても悩んだ結果だが)

石川さんは僕の発言に対して興味を示すように声のトーンが上がった。

「え、誰々。気になる」


僕は少し間をおいて自分の最大の秘密を特別に明かすかの如く小さな声で答えた。

「きのしたさん」

あんなに決意したのに言った後に恥ずかしくなった。

顔が熱い。テーブルにあるお冷を飲む。



少し間があいて石川さんが「ごめん、聞こえなかった」と言った。

ファミリーレストランなので周りで話をしている人なんて山ほどいるのだから僕の小さな声が聞こえなくても当然だろう。


人に内容をもう一回聞かれることが一番苦痛だ。

ボケでも聞こえていなければ気まずくてもう一度ボケるなんて所業をするのは鬼だ。

今回は僕が悪い。


もう一回言うのは恥ずかしさが増すので嫌だが言うしかあるまい。


今度はできるだけ近くでさっきよりも大きな声で言った。

「木下さん」

これはさすがに聞こえただろう。


「あー木下さんか。仲いいもんね」

石川さんは自分を納得させるかの如く何度も木下さんの名前を口に出している。僕と同じようにお冷を飲む。

自分の注文した料理を見ているのに瞳の中には料理はなく自分の奥の方を覗いて気持ちを整理しているように見える。

急にこっちを向いたかと思うと「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」と言って席を立った。


僕は秘密を話した恥ずかしさを紛らわすようにハンバーグを食べ進めて気が付いたら完食してしまっていた。

お冷を飲みつつ口の中を整える。

窓から見える人の動きと信号の変化を何も考えずに見ながら石川さんが戻ってくるのを待っていた。


「ごめん、ただいま」

「おかえり」

「木村君もう食べ終えてるじゃん」

「あ、ごめん。食べちゃった」口周りをペーパーで拭きながら答える。

「いいよ、私が戻ってくるの遅かったし」

「ぜんぜん、大丈夫だよ」


そこからの会話は学校でしているような内容で学校外で二人っきりということを除けば普段と特に変化はなかったと思う。森岡さんが変なお菓子くれただとか先生がお気に入りの生徒に甘すぎるだとかそんな会話ばかりだった。



ファミリーレストランを出て文房具とお母さんへの誕生日プレゼントが欲しいということで一緒に見て回って、少し早いが解散することになった。

「今日は私の買い物についてきてくれてありがとう」買った商品が入った袋を持ちながら話した。

「全然、僕も楽しかったし」

「ありがとう、また学校でね」屈託のない笑顔で言った。

「うん、またね」

親の車に乗り込むのを見送って僕は改札に向かった。




お風呂から上がると木下さんからメッセージが来ていることに気が付いた。

その内容は今日電話してもいい?というものであった。電話なんてしたことがあっただろうか。たぶんない気がする。僕は急いで着替えて髪を乾かして自室に行く。

いいよと返信して木下さんからの返事を待っている。

僕は自室の中を閉じ込められた蟻のように動き回り返信を待つ。なかなか来ないので普段通りのことをして落ち着こうと動画を見る。いつもはげらげら笑うような面白さにも笑えない。視覚だけがその動画を楽しんでいてそれ以外の感覚はどっかに行ってしまったような感じだ。


どっかに行っていた感覚たちが通知音でかえってきた。

通知音の後にコール音が鳴って体が動く、あらかじめ決められた行動のようにプログラムされた行動のように電話に出る。

「あ、もしもし木村君」

「はい」緊張してしまって変な間の後、変な声で返事をする。

「今大丈夫?」

「ダイジョウブ」言葉が上手く出てこない口が堅い。

「緊張してる?」木下さんがおかしそうに笑う。

「うん」

自分の心臓の音が大きくて心臓がでかくなってしまったのではないかと思ってしまうほどだ。

「今の木村君本当に面白いよ」電話越しでも腹の底から笑っているのがわかる。

「そうかな」

木下さんは笑いすぎて声が出ないようでなかなか返事が聞こえなかった。

苦しそうな声で「あー一生分笑ったかも」


木下さんの笑いのツボが収まるのを待っていると僕も落ち着いてきた。

「そんなに笑える?」

「ごめんごめん、もう大丈夫」

「良かった」

木下さんは笑いを引っ込めるように深く息を吸った。

「木村君今日何してたの?」

「今日は石川さんと出かけてた」


「え?本当?なんで?」さっきとはトーンが下がった。

僕は行くことになった経緯を話した。もちろん西村君が木下さんに告白した結果が知りたくて行くことになったというのは隠して文化祭のお礼ということにした。

「なるほどね。楽しかった?」

「楽しかったよ、いっぱい話せたし」

「ふーん」

木下さんから聞いておいて食指が動かない様子の返事をするのはすごく不思議だった。


「木下さんは今日何してたの?」

「今日はずっと家で勉強してたよ」

当然のように答えるがとてもすごい事なのだと心の底から思う。

「勉強大変な時期なのに僕なんかと電話してていいの?」

「大丈夫、リフレッシュになってるはず。たぶん」

木下さんにしては珍しく自信のない回答だった。

「いや、そこはリフレッシュになってるって言いきってほしいかった」笑いながらツッコむ様に返事する。

「ごめんて」

気づいたら最初の緊張など見る影もなくいつも通りの会話を繰り返している。

スマホを通しての声しか聞こえないくて遠くにいるはずなのに近くに感じることができるほど彼女の声には安心感があった。


そのあと勉強に戻ると木下さんが言ったので終わることにした。

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