七味
文化祭が終わり楽しい雰囲気が薄れて受験というぴりついた雰囲気が強くなりつつある。そんな雰囲気の中通り過ぎていく失恋話や成就話をどこから拾い集めてきたのか石川さんが僕に話している。
「4組の高橋さんと祐基君付き合ったらしいよ」小声で僕にしか聞こえないように話している。
「えー誰」
「5組の橘さんと江川君付き合ったらしいよ」
「えー誰」
「3組の佐藤さんが鈴木君に告白して振られたらしい」
「うん、誰」
石川さんが表情を変えた。「ちょっと、木村君誰も知らないじゃん」
「ごめん、人に対してあまり興味持ってこなかったから」
「えーひどいなー。じゃあ、知ってる人の話するよ」
「2組の西川君が木下さんに告白したらしい」石川さんはさらに小さな声で言った。
僕は大きい声を出すのはさすがにやばいと思って顔で大きなリアクションをする。目を全力で開いて石川さんを見る。「まじ?」
「まじだよ。木村君やっと興味を持ったね」
当然だろう。このクラスでの二大巨頭なのだから。
「結果はどうだったの?」僕は続きが気になって催促してしまった。
「まあまあ、そう急かさんと落ち着きなされ兄貴」
「急に悪そうな金貸しになるやん」
「これ以上の話は追加でもう少し金貨をいただかないと」
「え、課金させるんかよ。わかった今度ご飯おごります」心のどこかで彼女にはお礼するべきだと感じていた。
「え、」石川さんは予想外の発言に驚いたようだった。
「つまり、2人で今度ご飯食べに行くってこと?」ゆっくり、一つの言葉の意味を確かめるように話す。
「そういうことだね、いやだった?あれなら森岡さんとかも」
「うううん。2人で行こ」顔を横に振ってこたえた。
「おっけい、で、続きを教えて」
「あ、うん」まだ状況が読み込めないような感じだが思い出したように話出した。
「振られたみたい」
「そうなんだ」心の中で安心して喜んでいる自分がいた。
「ほら、あっちの方見てごらん。いつも通りのようにしてるけどぎこちない感じが隠しきれてない」
「確かに」
「でしょ、たぶん木下さんが気を使っていつも通りに接してるけどそんな薄い布では大きな感情は隠しきれないのよ」
「ちなみに、私が仕入れた情報では木下さんに告白した人は10人で全員振られてました」
「多いね」
「まあ、振られるのも記念みたいなもんだね。挑戦しないと結果はでないから」
「なるほどねー」気の抜けた返事をしてしまった。
「ねぇ、連絡先交換しよ」
「いいよ」交換画面を開いたスマホを石川さんの方に向けた。
「ありがとう。また予定は決めよ」
「了解」
昼休みに石川さんと森岡さんと僕の三人でお弁当を食べているときに木下さんが話しかけてきた。
「木村君、放課後ひま?」
僕は口に入っている物をなくしてから返事した。「うん、暇だよ」
「良かった、一緒に帰ろう。久しぶりに私の家寄ってってよ、お母さんも会いたいって言ってたし」
「うん、いいよ」
「じゃあ、またあとで」木下さんはいつものグループに戻っていった。
「木村君雪ちゃんの家行ったことあるの?」石川さんと森岡さんが聞いてきた。
「うん、数回だけ」
「えーすご、雪ちゃんの家行ったことある人初めて聞いたかも」
「そうなの?」
「うん、雪ちゃんあんまり家に人を呼びたがらないって聞いた」
「そうなんだ」僕を初めて家に呼んでくれた時木下さんはどんな感情だったのだろうか。
「木村君おまたせ、帰ろう」
「うん」
もう見慣れた道を歩きながら学校から直接木下さんの家に向かっていた。
何人にも告白された木下さんが隣にいると思うとどこかそわそわする。何回も並んで歩いたことがあるのになー。何か話さないと心臓がもたないと感じたので話題を出すことにした。
「お母さん今日家にいはるの?」
「うん。いるよ」
「そうなんだ。お仕事は?」
「来月で今の会社辞めて転職するんだって」
「そうなのー」驚いた何も家族のことはあの夏休みの日以来聞いていなかったから。
「そうそう、今の仕事ちょっと仕事量が多すぎるしやめて仕事量もう少し少ないところ探すらしい。最近はたまってた有休を消化しつつ働いてるの。それで今日は休みらしい」
「すごい話進んでたんだね。良かったね。お母さんとの時間増えて」
「うん。木村君のおかげだよ」
「僕は何もしてないよ。少しお話しただけ」
「少しじゃなかったよー」笑っていた。
「そうかなー。お母さんとはどうやって仲直りしたの?」
「別に喧嘩してたわけじゃないから話してたら仲良くなってた」
陽が短くなってきているとはいえまだまだ昼間のような明るさをしている空を見上げてつぶやいた。「そうか」
僕は木下さんがお母さんと楽しそうに会話をしている姿を想像して微笑ましくなった。
そこからは木下さんがお母さんとお父さんとした会話を話してくれてそれを聞いている内に家に着いた。
木下さんが今までより軽快にドアを開けた。まるで小学生が家に帰ってきたみたいな。
「ただいま。木村君連れてきたよ」リビングにいるであろうお母さんに向けて大きな声で知らせた。
その声を聞いたお母さんがリビングのドアを開けて玄関に迎えに来てくれた。
「久しぶりー木村君。この前はごめんね」しっかり声を聞くのは初めてかもしれない。
「いえいえ、とんでもないです。僕の方こそ出しゃばった真似を」頭を下げた。
「いいよのーこっちが悪いんだから。頭なんて下げないで。さあさあ、あがって」
僕は顔を上げてお邪魔した。
お母さんが出してくれたお菓子をつまみお茶を飲みながら3人で会話をした。お母さんが僕のことを色々聞いてくるので答えていると夕飯の時間になったので帰ろうと立ち上がった時に木下さんのお父さんが帰ってきた。
「おー木村君じゃないか」
「お久しぶりです」
そこからはさっきお母さんにしたようなことを再びした。家の人が大丈夫ならご飯食べていきなよと言われたので親に連絡して木下さんの家で食べることにした。
お父さんにもさっきお母さんに聞かれたようなことを聞かれたので答えていた。
「それさっき私が聞いたわ」とお母さんが言うとお父さんは「いや、だって俺いなかったし」と言って家族が笑うというはたから見ているとすごくいい家族になっているなと感じた。
まだ、ついこの前の出来事なのにこんなにも仲良く、今までずっとこれでしたよと感じさせるような雰囲気になっていてすごいと感じてしまった。あるべき姿になったというべきだろう。
簡単に変わるなんてみんなこれを心のどこかで臨んでいたのだろうな。
「そろそろ、お暇します」
お父さんとお母さんは「まだいなよ」と言うが木下さんだけが「途中まで送るよ」と言って立ち上がった。お父さんとお母さんが駄々をこねる子供になってしまったのも少し問題があるなと思ったが幸せそうなので何も言わなかった。
「ごめんね、こんな時間までいてもらって」
「ううん、大丈夫楽しかった」僕は軽く首を横に振って自分の本音を口にしていた。
「僕、秘密主義で親にあんまり自分のこと話さないからすごく新鮮ですごくよかった。すっきりした気持ち」昼間は息をひそめていた星たちが輝き出した空を見ながら話していた。
「よかった。また、来てね」
「うん、ここらへんでいいよ」
僕と木下さんは足を止めた。
「わかった。気を付けてね」
「ありがとう、おやすみ」僕は1人で歩きだした。
「そういえばさー」木下さんが何か思い出したように話し出したので僕は振り向いた。
「なに?」
「私がいろんな人から告白されたのはたぶん石川さんとかから聞いたよね」
「うん」
木下さんは深く息を吸って溜めて何秒かの沈黙の後、声を出した。
「一応、言っとくと全部断ったから」
「うん」
「それだけ、おやすみ」木下さんは全部言いたいことを言ったのか早歩きで家の方に振り向いて帰った。
僕は歩きだしている木下さんに向けてぎり近所迷惑になりそうな声量で「おやすみ」と言った。
断ったことなんて知ってるのに何でわざわざ言う必要があったんだと思いながら、木下さんの話した理由を考えながら帰った。
翌日、教室に着くとすぐに声をかけれた。声の方に向くと胸倉をつかまれた。
「おい、放課後教室に残っとけよ」
返事をする前に自分の言いたいことだけ言って去っていった。
西村君の恨みでもかってしまったのだろうか。あれは放課後今までのシャレにならないことをされそうだな。
放課後になるとごく少数になって目的があって残っている人だけだ。
残されたのは僕と西村君と数名の男子だけだ。
盤上が整ったかのように唐突に西村君が話始めた。
「木村、お前、昨日雪と一緒に帰ってたよな」もっと怒鳴った始まり方するのかと思ったがそんなことはなく落ち着いた始まりだった。
「うん」
「付き合ってるん?」はっきりしない不安を確かめるように聞いてきた。
「いや、付き合ってないけど」
西村君は安心したかのようにいつもの調子に戻っていった。
「だよな、お前が雪と釣り合うわけないし。付き合ってたら雪のセンス疑うぜ」
西村君がいつも通りになると遠くから静観していた数名の男子も会話に混ざってきた。
盤上は急に圧倒的に僕の劣勢に転換した。
歩一つの僕が王、金銀飛車角に勝てるわけがない。
西村君がいつもの調子で僕を馬鹿にするような口調で「お前、雪のこと好きなん?」と聞いてきた。
周りの男子たちも笑いながら「ちょっと話しかけられて勘違いしちゃってそう」と馬鹿にしていた。
指をさしてきたり一方的に肩を組んできたりと不動の僕に絡んできた。
「え、で、どうなん好きなん?」再び聞いてきた。
答えるべきだろうか、正直、好きという確信をもったことはなかったが木下さんが告白されたことを知って初めて自分の中で生まれた感情があった。あの感情が好きだから生まれる副産物なのだろう。
好きと答えた時また馬鹿にされて広められてしまうのだろうか。それは嫌だな。
「早く答えろよ、安心しろ誰にも言わないでいてやるよ。約束する。なぁみんな」
全員笑いながら「当たり前よ」と答えた。
絶対嘘だろ。
しびれを切らしたのか手を出してきた「おい、はやくしろよ」
流石にそうなると僕も答えるしかない。
「好きだよ」胸倉をつかまれているので大きな声を出すことができないが確実に言った。
聞いて満足したのか胸倉をつかんでいた手を離した。
僕は呼吸と姿勢を整えて「僕は木下さんが好きだ」さっきよりもはるかに大きな声で答えた。大きすぎて校舎中に響き渡ってそうで恥ずかしくなった。変なスイッチが入ると大きな声が出てしまうものだ。
「おーうるせえな。まじで好きなんかお前。どうせ、告白してもあっけなく振られるって」西村君は強がるように言った。
うまく隠そうとしている弱いところを突くように「まだ、振られてない僕が羨ましい?」僕は吹っ切れたので強気に聞いた。
「は?何言ってんの?頭おかしいんけ?」
「おかしくないよ。木下さんに振られて悲しくて気持ちのやり場がないんでしょ」
周りの男子もそれには触れないようにしてたのにという表情をして僕と西村君の方を見ている。
「そんなことねえし、てか、誰からそんなこと聞いたんだよ」怒りと焦りで早口になっている。
「クラスでは有名な話だよ。似非王子だってね」
正直、似非王子なんて聞いたことなかったがかまをかけた。
西村君が他の男子を見る。男子は首を横に振って「そいつの嘘だ」と言うが西村君は信じられないようで怒って大きな声を出して教室を出ていこうとした。
出ていこうとしたので男子たちがついていこうとするが「ついてくるな」と一蹴した。
僕は教室を出ていこうとする西村君に声をかけた。
「その辛さを乗り越えた先に幸せがあるよ」
残った男子が話し合って「木村のせいだからな」と言ってみんな教室を出ると思ったが一人だけ去り際に殴ってきた。
今回は倒れるほどのダメージはなかったがせっかくなので床に寝そべることにした。
「結局、殴られるのか。今日も前と同じように」白い天井にあるシミを見ながら小さくつぶやいた。
「昨日見た星とは比べ物にならないな」
「人生は七味唐辛子という言葉が流行ったことがあるようだ。その内容が恨み、辛み、妬み、僻み、嫌み、嫉み、やっかみの7つの感情が人生に深みと豊かさをもたらすというようだ。この7つのあまりいい感情と言えないものが本当に深みを増すのか疑問に思ったが人生いろいろな経験をしておいて損はないのだからこの7つの感情も悪いものではないのかもしれない」
人間は7という数字が好きだと思う。七福神や七不思議や七つの大罪とあげだすときりがない。
7になんの意味があるのだろうか。
確かに素数として7は美しいが。




