変わらないもの、変わるもの
木下さんのあの言葉の影響でいじめがなくなるということはなかった。
たとえ人気者で影響力のある人が善意で悪意を取り除こうとしたとしても完全に取り除くことは不可能なのである。
確かに変わったこともあった。それは木下さんの前では僕に対していじめをしてこなくなったことである。光の前に現れることのなくなった闇はさらなる深い闇になった。今までは避けられといったことが主だったが最近は靴を隠されたり登下校の時に公園のトイレに連れていかれて罵倒や恐喝といったものに変わった。学校の中で納まっていたことが学校外にもあふれてしまったことには困った。
何より、いじめがひどくなったことはかなり僕の精神に負担をかけた。
無視されることが当たり前だった僕の学校生活に木下さんという変革者の登場によって自分の当たり前がかわるのだと考えてしまった。でも、それは夢物語に過ぎなかったのだと気づいた。
木下さんの前ではいじめは起きず、木下さんの前ではクラスメイトは普通に接してくることによって木下さんはおそらく自分の力でいじめをなくすことができたと思っているだろう。
しかし、実際は全くいじめはなくなっておらず、むしろ悪化しているのだ。
でも、彼女はこのことを気づくことができていない。自分の目に映る情報のみが正しくすべてだと思い込んでしまい見えていない情報のことを知ろうとしないで物事を判断してしまっているのだ。
ヒーローや救世主と言われるような存在が僕の前に現れて自分を助けてくれることを願っていたとしてもそのような存在はめったに現れないのだと気づいた。他人に自分の環境を変化させてもらうことを待つのではなく自分から環境を変化させる努力が必要なのだと気づいた。
自分が変わるべきなのだと。
それからの僕は言われるがままされるがままではなく反抗、抵抗するようになった。
もちろん、反抗、抵抗することによって反撃にあった。
でも、されるがままであった前と違って自分の意思で抵抗しているとどこか自分が好きになった。
こんなに弱くて抵抗してもやり返される自分を好きになるなんて思い上がりにもほどがあると思われるかもしれない。
今まで自分の意思が全くなく現状を変化させようと思っていなかった頃に比べたら自分の意思で何か変えようと思っている自分がうれしかった。