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人気者の君と一人ぼっちの僕  作者: 浅井天


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18/28

文化祭前日

梅崎高校には舞台ステージがないので文化祭の期間になると特別にステージが組み立てられる。普通の学校になるようなステージではないので少し物足りなさがあるように感じるがまあそれで十分だろう。演技をする人は変わらないのだから。

今日は劇のリハーサルであり、小物作成係の僕は役割がないので舞台袖の端っこの方でクラスの劇が始まるのを見ている。僕自身クラスの劇がどのようになっているのか全く見ていなかったので今日初めて見ることになるので少し楽しみだ。

今日はリハーサルだけなので体育館にはほとんど人がいない。次のリハーサルのクラスだけがいるので体育館の中はこの人数が過ごすには広く持て余しているので音が跳ね返るように感じる。広いのに人が少ないと寂しい感じがする。満たされないことがこんなにもつらい事なのだと実感する。

壁にもたれていると2人組の女子が話しかけてきた。

「木村君おはよう。何考えてるの?」

昨日最初に作業を手伝ってくれた人たちだ。昨日初めて名前を知ったのだが、石川さんと森岡さんだ。2人とも背が僕よりも少し小さいぐらいでバスケ部に入っていたらしい。

「石川さんと森岡さんおはようございます。今考えてたのは広い空間を得ることができる富を得ても幸せで満たせなければ意味ないなーって考えてました」

「ふっか、溺死してまうて」石川さんがそういうと3人で笑った。

「普段からそんなこと考えてるの?」森岡さんは素直な疑問を僕に投げかけた。

「いや、普段は早く学校終わってくれーって思ってます」

「え、私も」石川さんと森岡さんの声がハモってさらに笑いを誘った。

少しうるさくしすぎただろうか周りからみられている気がする。僕はこの視線が嫌いだ。自分の心を突き刺すように次々にチクチクする。僕自身あまり目立つのが嫌なのもあるがそれにしても集団を敵にするのはしんどいものだ。

僕がそんなことを考えている内に2人は気にする様子もなく話続けた。

「木村君もともと眼鏡じゃなかった?変えたの?」

「夏休みに変えました、コンタクトの方が楽かなって思って」

「え、めっちゃいいじゃん。似合ってるよ、変えて正解だと思う」

「ありがとう、2人は裸眼?」

「私は裸眼」石川さんが答えた。「私はコンタクトだね」森岡さんが答えた。

「あ、森岡さんもコンタクトなんだ。最初、つけるのめっちゃ難しかったよね。僕、手こずりすぎて目赤くなってたもん」

「リハーサル始めるので静かにしてください」と文化祭実行委員会の2人が言ったので僕らは静かにした。

森岡さんが小声で「私も最初つけるの苦労したよ」と言って2人はもっとステージの近いところに行った。

ナレーションが始まった。シンデレラの原作を見たことがないのでどのような話なのかあまりよくわからないので演技は良く見えないがナレーションと役者のセリフに聞き入っていた。

隣に誰か来た気がしたので横をちらっと見ると木下さんだった。よかった、知らない人だったらきまずいところだった。

木下さんは何も言わないで横に立って劇を見ているだけだったので僕も何も話さないで劇が終わるのを待った。無事にリハーサルを終えて役者組は教室に戻って最終練習と反省を行うようだ。僕たち小物作成係は特に用事がないが空き教室に行くことになった。ぞろぞろとみんな劇のことを話しながら体育館を出ていく、僕は密集するのが嫌いなので最後に出ることにしている。

「木村君、劇良かったね」

「そうだね、初めて見たよシンデレラ」木下さんが隣にいることをすっかり忘れていた。

「初めて見たのー、えー人生損してるよ」

「いやいや、人生損してないよ。それ相手が見てない時の常套句だけどさー、言い出したら切りないじゃん」

「それは確かにそうだね」少し顔を下に向けて笑っている。

クラスメイト全員が出口の方に向かったので僕たちも出口に向かった。

「あれ、綾斗じゃん。久しぶり元気?」

「え、拓海。久しぶりー元気だよ」そうか今年の劇は6組からだから次の劇は3年1組なのか。拓海の横にいる人どこかで見たことある気がする。

「あれ、雪」

「上田君お疲れ様、劇出るんだっけ?」木下さんが話し出した。

思い出した副生徒会長だ。去年の就任演説で見たことあったんだ。拓海といるってことはこの人も1組なのか、拓海副生徒会長と仲がいいなんて意外だな。いや、そうでもないか。拓海は接しやすくていいやつだしな。

「僕、劇出るよ。ゴミ拾いしてるおじいさん役」

どんな話なんだ。

「そうなのー、1組の劇って不良漫画でしょ。上田君それ出番あるの?」木下さんは腹の底から笑いながら聞いた。

「もちろんあるよ。明日見といて」

「わかったまたね」

「綾斗またなー」

「うん、またー」

「1組の劇気になるね、明日が楽しみ」木下さんと僕は空き教室に向かった。


空き教室に行くと中はもうすでに何か騒がしくなっている。

「お、木下さん来たー!みんなでトランプとかUNOしよう」

小物作成係の中心的存在の男子(田中)が言った。

「うん、いいよ。楽しそう」

「ないすーさあさあ、みんな集まって。木村はそこら辺の掃除しとけよ」

男子勢が笑う。

「えー木村君もしようよ。全員でしたほうが楽しいって」木下さんが言うと他の女子も「そうだよー」と言った。男子勢は思いもしなかった流れに困惑している様子だったが冷静を装うように「みんながそういうならそうするか」

納得のいかない感じだったがしぶしぶ僕も混ぜることになった。

木下さん、石川さん、森岡さんらと話しながらカードゲームをするのはすごく楽しくて体感時間は一瞬だった。遊び終わるとみんなで掃除をして教室に戻り、ホームルームが終わるとみんな帰っていく。

田中が声をかけてきた。「木村、悪いけど空き教室に忘れ物しちゃってさ。一緒に探してくれない?」

明らかに怪しすぎるだろ、また何かしてくるのか。「えー、まあいいよ」

「さんきゅー」


空き教室に着くと強くドアを閉める田中。

「最近、お前なんか調子乗ってねえか?木下さんとも話して他の女子とも話してよ。勘違いすんなよ、お前のことが好きとかじゃなくてお前への哀れみから話しかけてくれてるだけだから。舞い上がって告白とかしちゃわないようにな。それと、お前明日休めよ。目障りなんだよ、このクラスにお前は必要ない。じゃあな」

田中は言いたいことをすべて言って満足したのか空き教室から出ようとする。

「無理。僕は明日も学校に行く」

田中は踵を返して「は?」まだわかんねえのか?」と言ってくる。

「だから休まないって。もしかして田中君、僕に負けるのが怖いの?何もかも下に見ていた相手に」

大きな声と同時に僕の体に衝撃が走った。痛みにはっきり気づいた後に僕は殴られたのだと理解した。天井が正面にある。

遠くなっていく足音と近く早くなっていく鼓動と傾き続ける太陽とが違う速度なのに同じ時間のレールに乗っているのだと理解した。

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