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人気者の君と一人ぼっちの僕  作者: 浅井天


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彼女のかくしごと

玄関の方からカギを開ける音、ドアを開ける音、カバンを置く音、靴を脱ぐ音、こちらに近づいてくる足音、私の心臓の音。すべてがカウントダウンのように少しずつ私に迫ってきて自分の首を絞めている。この状況はさすがにまずい、ついこの前にしっかり勉強しろと叱られ、スマホを没収されたところではないか。この状況を見られれば、今よりも厳しくなり家庭教師をつけられるだろう。いやだ、これ以上親に縛られたくない、これ以上縛られると自分が生きているのかわからなくなる。何とか、ばれないために木村君を隠さなければいけない。だめだ、間に合わない。

リビングのドアが開いた。

「君はだれだ、なぜ、私の家にいる。雪どういうことだ。この前あれだけ勉強をしろといっただろう、スマホ没収だけでは足りなかったようだな」お父さんはそういった。

詰みだ。やらかした。もう終わりだ。おそらく、私の顔には絶望感が表れているのだろう。こんな顔木村君に見せられないよー。

お母さんは木村君に興味がないのか何も言わずに脱衣場に行った。

「ごめんなさい、彼はクラスメイトで、私が家に上がってって言ったから、彼は何も悪くないの」


木下さんのこんなに弱弱しい声を初めて聞いた。まさか、こんなにも貫禄のある厳しそうなお父さんだとは思わなったので少しビビッてしまった。でも、少し黙って聞いているだけではいれない点が何点かあった。木下さんはスマホをなくしたと言っていたが本当は没収されていたという点とさらに罰を与えてようとしている点だ。木下さんが僕をかばってくれたのに申し訳ないが僕の意見も言いたくなった。

「初めまして、木下さんのクラスメイトの木村と言います。他人の家庭事情に首を突っ込むのはどうかと思いましたが少し気になったので主張させていただきます。雪さんにいつもこんな感じで説教されてるのですか?さすがに厳しすぎませんか?」なぜか、落ち着いて冷静に淡々と言葉が次から次へと出てきた。その中には怒りもあったのだろう。


「木村君か、木村君の家庭ではどのような躾をされてどのようなルールで生活しているのかはわからないが私たちの家庭ではこれがルールで普通だ。私には雪を教育する責務と権利がある、君にはそれはないのだ。雪もこの家庭のルールを受け入れて生活している。だから、君にどうこう言われる筋合いはない。」


「彼女はこの家庭のルールを受け入れていない。あきらめているだけだ。彼女がこの家庭に抱いている感情は恐怖と諦めだけだ。僕の方が彼女を幸せにすることができる」


「適当なことを言うな、君はまだ子供だろう、まだ、社会を何も知らないくせに。俺がどれだけ雪のことを思って言っているか。それと幸せにできるとか軽々しく言うな」


「社会をあまりしらないことは認めます。僕よりもたくさんのことを経験しているお父さんならわかるでしょう、大切なもの、時間を他人の都合で奪われる苦痛が。雪さんの勉強以外の高校生活もとても大切なことです。もっと、彼女の立場になって考えてあげてください、子供の僕ではできないことが立派な大人のお父さんにはできるのだから」


父は考えた。

俺も子供のころ大好きな漫画を親に燃やされたことがあったな。友達と集めたきれいな石も捨てられたな。あの頃は一日中泣いていることもあったな。大人になった今ではそこまで泣くほどのことではないのに当時はこの世のすべての幸せを奪われたようだった。この感情を忘れてしまっていた。雪にとって今の状況はあの時俺が感じていた状況に近いのだろうか。仕事の疲れと自分のあのようにしておけばよかったを雪に押し付けてしまっていたのだろうか。勉強をおろそかにして苦しんだ自分のようにならないように自分の娘に自分と同じ過ちをして欲しくなくて、自分が描いた理想を押し付けていた。

俺は父親失格だな。


「雪、日々悩んでいたのか?苦しめてしまっていたのか?苦しめてしまっていたのなら申し訳ない。反省する、これからは俺の考えを押し付けない。今の家庭環境の嫌なところがあれば言ってくれ。スマホも返す」


私は木村君とお父さんの言葉のラリーを見ながら呆然としていたらお父さんが私に謝罪していた。

「え、急にどうしたの?」あのお父さんが頭を下げて私に謝っているなんて考えられない。頭が追い付かない。木村君の言葉の剛速球も衝撃的だったのに。急に出番が来ると反応できないものだ。

「お父さん、気持ちを入れ替えたんだ。木村君の言葉を聞いて自分が忘れていた大事な感情を思い出すことができた。だから、今から少しでも取り返していきたい」

「確かに嫌なことだって山ほどあったけど、お父さんもお母さんも仕事が忙しいことはわかっているし理解しているよ、家事はもう少し手伝ってほしいけど」

「そうか、すまなかった。家事はお母さんとも相談しよう」


脱衣所のドアが開いてお母さんが入ってきた。お母さんはお風呂に入ったはずなのに服も着替えていなく濡れているのは目元だけだった。


せっかくの家族団欒の時間を僕が邪魔してしまうのは申し訳ないので帰ることにした。

「じゃあ、僕は帰るよ、またね。お父さんお母さんお邪魔しました」

お父さんとお母さんは「またね、木村君また来なよ」

家の前まで木下さんは見送ってくれて「木村君今日は本当にありがとう。気を付けて帰ってね。またね」

「うん、ばいばい」

手を振りながら暗い道だけどどこかいつもより明るい気持ちで歩いた。

家に帰ると木下さんからメッセージがきていた。「返してもらったよ」

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