失った居場所と新たな居場所
僕はいつも一人だ。友達がいない。教室では誰とも話すことなく自分の席で寝ているふりをする。なぜ、寝ているふりをするのかってそんなの学校が楽しくないからに決まっている。学校のことについて何も考えたくない。
私は人にやさしくするのが好きだ。誰であろうとも優しく接することを大事にしている。偏見や周りの意見は気にしない自分でその人のことを判断する。おかげでみんなから頼られる生徒会長になることができた。
一つの組織という人の集まりにおいていじめや嫌われ者ができるのは当然である。この梅崎高校3年2組という組織においての嫌われ者は僕(木村綾斗)だ。物を隠されたりパシリや恐喝といったことはほとんどないが陰でこそこそ言われたり無視されたり避けられたりといったことは毎日ある。見た目が地味や眼鏡をかけていて暗いだとかそんなことをよく言われている。
唯一普通に話しかけてくるクラスメイトが一人だけいた、生徒会長の木下さんだ。これが彼女が人気ものである所以なのだろうと思った。
いじめによって人間不信になるし学校にも行きたくなくなるが学校に行かないと卒業できないし、卒業をしないと社会に出た時に損することはわかっている。だから、つらくても学校に行かなければいけないのだ。
親に心配をかけたくなかったが毎日登校するというのはさすがにきつかったので2週間から1か月に一度のペースで勉強の遅れや出席日数に影響しない程度休むことにした。自分の部屋でアニメを見たりゲームをしたりすることにした。一人の時間を作るだけですこし気持ちが楽になった。
私(木下雪)は自分のクラスでいじめが起きていることを知っている。私は木村君に何度か話しかけた。みんな暗いと言っていたが話してみると普通だった。しっかり私の話を聞いてくれて返事をしてくれて笑ってくれるいい人だった。
でも、周りは彼を偏見なしでは見れないのだ。周りが避けてるという集団の圧力的なもので彼を避けていた。私が木村君に話しかけたら友達(石田真央と坂本由香)は「雪なんであいつと話してるの暗いし面白くないから話しかけないほうがいいよ」と言ってきた。自分の意見、集団の意見が正しいと思っているのだろう。「私には木村君を避ける理由ないし話してみたら普通だよ」そう言うと真央と由香は何も言ってこなかった。
朝起きて顔を洗い、トイレにいき着替えて朝ご飯を食べていつも通り一人で学校に行く。電車の中や通学路で同じ学校の制服の人が多く見かけるが誰一人僕には話しかけてこない、一人で教室に行き自分の席に座る。
いつも右足から教室に入ってくる先生も語尾をのばす号令もいつも通りの日常だった。イレギュラーと言えば席替えをすると先生が言ったことぐらいだろう。僕は誰が周囲にいてもどの席の位置であっても一人だから関係ないなと思いながら教卓に置かれたくじを引きにいった。
僕のクラスの席替えの方法は数字の書かれた紙を引いてその紙に自分の名前と名簿を書いて先生に返してくじを戻した後先生が数字の書かれた座席表を掲示するというやり方だ。僕の数字は15番だった。先生が座席表を黒板に掲示してクラスメイトは様々な声を上げて友人と話し合っていたが僕は何も声を上げずに座席表を見て自分の席に移動しようと荷物をまとめていた。
先生が「静かに自分の荷物まとめて移動して」といったことによりほかの人たちも移動を始めたので僕も移動した。
席は窓際の一番後ろでみんなが一番求める席だった。おそらくクラスメイトが初めて僕を羨ましがったことだろう。一人で教室で寝るには絶好の場所だ。
西村壮太が僕に「俺と席変われよ」と言ったが先生が聞いていたみたいで「席の交換はだめだぞ」と言ってくださったことによって何とか問題が起きずに済んだ。
西村壮太はクラスのムードメーカー的存在だ。僕にとってはムービーメーカーのムの字がないがいやむしろ無だ。
自分の席のことしか考えていなく周囲のことを気にしていなかったが隣は木下さんだった。「よろしく」と言われたので「よろしくお願いします」とだけ言った。「なんで敬語」と言われたが敬語じゃないと恐らく僕はクラスメイトに絞首刑にされるだろう。
木下さんの周りには休み時間になるといつも人が集まるのでついに教室での僕の居場所はなくなったのかもしれない。
案の定、休み時間になると木下さんの友人がたくさんきた。隣の席で楽しそうに話をしているが僕は自分の席で寝たふりをしていた。「隣の席木村とか最悪やん」とか聞こえてきていたがもう慣れたもんだ。「そんなことないよ、木村君優しいしいい人だよ」木下さんがそう言った。
「俺の方が優しいし面白いで」とか西村君が言って周りも「それな」とか言っていたが木下さんが落ち着いた口調で「みんな木村君の悪口言うのやめな、一人で立場の弱そうな人を集団で攻撃するのは卑怯だよ」
木下さんがそう言って一瞬周りが静まったが周りの人が「最近、雪。木村のこと肩入れしすぎじゃね」と言ったが木下さんは「みんながしている良くないこと、間違った価値観を指摘してるの」と一蹴した。すごく落ち着いた声で怒っているように感じなかったがすごく力強く周りに影響力を持っているように感じた。
すぐにチャイムが鳴りみな席に戻っていった。
チャイムが鳴ったので寝たふりをやめて顔を起こしたら木下さんが耳元に小声で話しかけてきた。「ずっと起きてたよね、うるさかったよね、嫌な思いさせちゃってごめんね。これからこんなことにないようにするから」
僕は驚いてとっさに「全然気にしてないから大丈夫、ありがとう」といったが少し声が裏返っていた。
木下さんは少し笑っていた。
それから僕は一度もしたことがなかった授業でのペアワークというのを木下さんとするようになった。
僕は新たな居場所を見つけたのかもしれない。