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番外編 その者は、じ○○

アイーシャの父である先王は、彼自身の暴走から軟禁されていたが、その間にお付きの侍女に手を出して孕ませた。


これ以上庶子を増やされては困るので、侍女ではなく、身の回りの世話をする役を男にすると、その男にまで手を出して周囲を唖然とさせた。


とにかくこの先王は何においても自制の効かない男であった。


元王妃は蛇蝎を見るが如く自分の夫を嫌悪した。


アイーシャと側近達は父をどう処するか悩んだ結果、出家を命じた。


「出家だと?ふざけるな、わしにも孫に会わせろ!」


先王は激怒した。


「父上には、これから生まれる自分のお子がいらっしゃるではありませんか」


子に罪はないとはいえ、自分の子よりも若い妹か弟、新たに王妹か王弟ができようとしていることに、何の責任も感じていないこの父が、アイーシャには心底疎ましく軽蔑を感じずにはいられなかった。


身内に悩まされる、駄目親に苦しめられることは金輪際ごめんこうむりたい。



アイーシャとカシムの出産に続くように、元王妃の養子となった兄と隣国から嫁いだ姫との間にも子が産まれ、先王としては自分の孫だらけになった。


アイーシャと元王妃である義母との関係は良好で、アイーシャの子達を自分の本当の孫のように扱ってくれた。


暗愚な父と暗愚な夫に苦労する者同士、共通の敵を持つことで結束したとも言える。


「あの時、ちゃんと殺しておけば······」


不穏な義母の発言に、思わず同意したくなってしまう。



父が出家先の神殿に向かう途中で逃亡したという報せを受けると、王であり女王でもあるアイーシャは厳しい決断をしなくてはならなくなった。


「アイーシャ、大丈夫ですか」

「カシム···、我が父が情けなさ過ぎて嫌になる」


アイーシャは盛大な溜め息を吐いて、肩を落とした。


場合によっては、この国ではじめて先王が処刑されるかもしれない。それも自分の手によって。


「アイーシャ、傍において幽閉するのはどうどうだろうか?義父殿はああ見えて子煩悩、孫に定期的に会えるという餌で釣る方が大人しくなるのでは」


子煩悩······というよりも、父自身が子どもにしかアイーシャには思えない。


三男三女、そして新たな子を入れれば七人の子の親だというのに。


これは今認知しているのがそれだけであって、自分達の知らない、認知されていない庶子がまだまだいるのではないのか。


アイーシャはそう考えると先が思いやられてしかたがなかった。



逃亡から三年後、父は蟄居させられていた故アフマドの妻に匿われていたのを発見された。

懇ろになったアフマドの妻との間には女児まで設けていた。


開いた口が塞がらないとはこのことだ。


孕ませた侍女が産んだのは女児で、既に養女へ出していた。


本来ならば王族であるのに、養女や養子に出される子達の気持ちや立場をまるで慮ることなくやりたい放題子を作る父の愚かさに、アイーシャは唾棄したくなる。


元王は協議の結果、去勢され幽閉されることになった。



「孫には年に一度だけ会わせてあげましょう。牢屋越しにですが」



アイーシャとカシムの産んだ二人の王子と王女は共に四歳になった。


「このひと、だあれ?」

「あっ、おばあちゃまが言っていたひと?」

「だれ?」

「このひとって、悪いひと?」


四人の孫が一斉に喋り出して、ワアワアと騒がしくなる。


双子なのでみな息もぴったりだ。


元王が幽閉されている部屋に、幼児達の声が響いた。


元王は、弾かれたように牢の格子を掴んで近寄ってきた。


「はい、これ以上は近寄ったらだめよ」


アイーシャが愛息や愛娘達を手で止める。


「わしはお前達の、お、お祖父様だぞ」


元王は目に生気が宿ったようだ。


「じい···じ?」

「ちがうよ、じいだよ」

「えっ、じじだよね」

「じ···じ···」


愛くるしい四人は祖母から教えられていた呼び名を思い出して、元気な声で揃って呼んだ。


「「「「じじい!」」」」


「よくできました」


アイーシャ達よりも遅れてやって来た元王妃は、勝ち誇った笑みをかつて王であった男に向けた。


「ゴホン」


カシムは気まずそうに咳払いをした。


その夫の美麗な横顔をアイーシャは幸せそうに見つめた。


来年はもう一人、父に会わせる子が増える予定だ。


アイーシャは、そっと自分の腹を撫でた。



(了)

おまけです。

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