第4話 妻を娶らば
いざ王族として伴侶を選ぶために色々調べてみると、この国の王室のルールは第二夫人までと決まっていた。
やたらに後宮の人数を増やさないための賢明な措置だ。
王は正妃以外に、子ができない場合に限り、もう一人妻を持てるようになっており、それが側妃ということになる。
だとすれば、現王の父はルール破りということになる。
王が王室のルールを守らずしてどうするのか?
母との関係に、そんなにやむをえない事情でもあったのだろうか?
その結果、側妃としてのアイーシャの母と兄と自分がいるわけだけれど、これは父のミスだ。
そのミスのツケを他の王族が払わされているということだ。
正室に二人も男児がいるのに、更に側妃を持つとは。
しかも、嫡男を差し置いて側妃の娘が王位を継ぐかもしれないなんて、正室からしたら面白くないに決まっている。
母やわたしを許せなくて当然だ。
それがわからない王自体がどうかしている。
本来、予言なんてどうでもいい。
予言よりも現実の方が大切だというのに。
なぜ現実的に対処できる平和的な解決をしようとしないのだろうか。
アイーシャは父に掛け合い、自分は王位は継がないこと、正室の長兄に譲る旨を伝えたが、予言を盲信している王は承知しなかった。
父とは平行線のままだったが、アイーシャが成人しても、両性具有という発表はしないでもらうことだけをとりあえず承諾してもらった。
だがもう、アイーシャの姿を見れば気がつく者はいる筈だ。
公表しないだけで暗黙の了解というものになっている。
側妃の娘であるアイーシャの成人の儀は、ひっそりと行われた。
「アイーシャ様はそれでよろしいのですか?」
「父上の存命中になんとか兄上が継げるように、時間をかけて説得するしかない」
「嫁の件はどうされるのですか?」
「ああ、嫁は持つよ。嫁ならあの娘がいい」
「···ルーラのことでしょうか?」
自分の侍女になったばかりのルーラをアイーシャは個人的に愛でた。
高位の出身の娘や隣国の王族などを娶ってしまうと、王妃側とのバランスが悪くなるので、側妃の子は刺激を与えない程度の娘を妻にしておく方が無難なのだ。
その点でルーラは問題がなかった。
「ルーラは柔らかくてスベスベで温かいな」
添い寝までさせるようになった。
ルーラは自分には無いもの、成長するにつれて自分が失ったものを持っていた。
女性としての魅力に欠ける自分を補うかのように、アイーシャはルーラを傍に置いた。
明るい金髪に琥珀色の瞳の、愛くるしい彼女はアイーシャにとっては癒しだった。
彼女はアイーシャよりも若かったが、空気を読み人の気持ちに敏感だった。
「ルーラ、君はわたしの妻になる気はあるかな?」
「まあ、お戯れを。姫様とどうやって夫婦になるというのですか?」
「ははは、でも考えてみてくれ。急がないから」
その年の冬、流行り病が猛威を奮い、母と、正室が産んだ兄二人が呆気なく命を落としてしまった。
喪が明けたら、アイーシャを結婚させるのでそれまでに相手を定めよという王命が下った。
息子二人を失った王は、余計に予言に依存し病的にすがった。
父はアイーシャの同母兄に継がせる気は毛頭無いようだ。
「ルーラ、わたしの妻になってくれないか?」
「ご冗談ではなかったのですね······」
「わたしは王になるつもりはないが、君とは家族になりたい」
「姫様は、まるで王子様のようなことをおっしゃるのですね」
「はは、そうかな? それで······妻になってくれるだろうか」
「私でよろしければ、喜んで」
アイーシャは感激しルーラを抱き締めた。
「ありがとう、ルーラ」
ルーラは両性であるアイーシャに驚いたが、彼女はアイーシャを受け入れた。
父達からは反対はされたが、 数ヶ月後ルーラが妊娠すると、王は手のひらを返すように歓喜してルーラとの婚姻を認めた。
予言通り、アイーシャが王であることに間違いないと証明できたからだ。
子を成せる両性具有の王族、予言を受けたアイーシャは、王であり、女王になるのだとこれで周囲にも示せると、父は意気揚々として婚儀を待ち望んでいた。
兄二人を亡くすことも見越しての予言だったのかと、予言の信憑性が迫って来て、アイーシャはそら恐ろしくなっていた。
自分が王になる日が近づくにつれて、予言に翻弄されたこれまでの道のりを噛みしめていた。
予言だからといっても、なんの問題や障害もなく、全てすんなり行くとは限らないことを身をもって実感するアイーシャだった。