08
「やめてください。モリシア様!」
「離しなさい。私はやらなければならないのです」
もうすぐお茶会が始まろうとする席で、執事姿のリンリンがモリシア伯爵令嬢のやろうとしていることを必死に止めようとしていた。
「私はみなに披露しなければいけないのよ。このテーブルクロス引きを」
モリシア伯爵令嬢は、食器が置かれたテーブルクロスを引き抜こうとしていた。
「メイドさん達もモリシア様を止めるのを手伝ってくださいっす」
だからこっちに話を振ってくるんじゃねえと、メイド達は無言の笑顔で動かない。
「私のことが信用できないのですか?」
「モリシア様はこのテーブルクロス引きを成功させたことがあるすか?」
「やるのははじめてです」
「成功するはずないじゃないすか」
「何事もチャレンジですよ」
「だったら、初めは食器とかどかして練習しましょうっす」
「それじゃあ、真剣みが足りないでしょう」
「止めてくださいっす」
必死に止めようとするリンリンに助けの声が入る。お茶会に参加する予定のゲストが到着したのだった。
「見苦しい真似はお止めなさい。モリシア伯爵令嬢」
「ミッシェル伯爵令嬢」
「騒がしいと思って聞き耳を立ててみれば、テーブルクロス引きなどと。そんなくだらないことをこのお茶会でするつもりなのですか」
ミッシェル伯爵令嬢のメイドが、大量のシャンパングラスを運び込む。
「今の流行はシャンパンタワーですわよ」
リンリンは悲鳴を上げる。
テーブルの上に、ピラミッド状にシャンパングラスが積み上げられようとしたとき、また新たな声が割り込む。
「シャンパンタワーなど笑止千万ですわ」
「ヨールデリ伯爵令嬢」
「私はテーブルクロス引きの方を支持しますわ」
「どちらかいいかじゃなくて、両方止めてくださいっす」
さらに新しい人物がやってくる。
「スワンリ伯爵令嬢」
「話はすべて聞かせてもらいました。こういう場合は、シャンパンタワーを作った上で、テーブルクロス引きをすればいいのです」
他の三人の伯爵令嬢は、さすがスワンリ伯爵令嬢とその意見を採用する。
リンリンが止めようとするが、四対一ではかなうわけがない。
十分後、リンリンの悲鳴がお茶会に響き渡る。
テーブルクロスを引かれ、上に置かれた料理が食器ごと床にぶちまけられました。
「わたくしにこんなお粗末な料理を食べろと言うの?」
「しかし、妹のリリー様が追放されてから、この伯爵家の経済事情が悪化してまして」
「執事の分際でわたくしに意見するなんて、身の程を知りなさい。あなたは罰を与えます」
極悪非道な罰をうける執事。
そう、モリシア伯爵令嬢は、悪役令嬢なのです。