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07

 リリーが何か隠し事をしているんじゃないか?

 辺境領主ダイファンは心配します。

 最近、よく手を怪我して包帯を巻くことが多くなったし、叔父とこそこそ話をするのが多くなった。

 もっと信頼しなければいけないと思いつつも、辺境領主ダイファンはリリーの後をこっそりとつけてしまいます。

 そして、驚くべき光景を見てしまいます。

 叔父の指導の元、リリーが料理の練習をしていたのでした。

 「もうすぐ、ダイファン様の誕生日なので、私の手料理を食べていただきたくてこっそり練習をしてました。でも、私は不器用なので」

 包丁で軽く切ってしまった指をみせるリリー。

 「そうだったのか。でも、手の怪我は心配になるから、料理の練習は止めてくれないか」

 二人の間に、辺境領主ダイファンの叔父は割って入る。

 「ははははは。心配性だな。もっと、どっしりと構えなさい。リリーがおまえのために料理を練習してくれているんだ」

 「お願いです、ダイファン様。料理の練習を続けさせてください。しばらくは、手に包帯をまくことになりますが、気にしないでください」




 「叔父様。ご自分の立場をわかってますか?」

 「私はリリー様の忠実なしもべです」

 辺境領主ダイファンがいなくなり、二人は元の会話を再開する。

 ダイファンの前では大人の余裕で忠告している演技をしていた叔父は、年下のリリーのご機嫌取りをする。

 「そっちじゃなくて。あなたしかいないのよ、この辺境領を守れる人は。ダイファン様はまだ子供だし、私はこの地になんの思い入れもない。この地で生まれ育ち、この辺境領を一番愛しているのはあなたでしょう」

 「・・・リリー様」

 「現状、この領内には不穏分子が山ほど紛れている。そして、この地は魔物がいつ侵攻してきてもおかしくはない。隣の魔法国家とは険悪な関係。それなのに、叔父様は中央の考え方すらわかっていない。ですから、叔父様には、中央に行ってもらいます」

 「いつですか?」

 「今です」

 リリーは転移魔法で、辺境領主ダイファンの叔父を中央にぶん投げる。


 ぶん投げられた先にいたのは、モリシア伯爵令嬢。

 目にクマを作り、大量の書類を捌いていく。

 すさまじい速度で仕事をこなしていくが、同じぐらい大量の書類仕事が回されてくる。

 「話は妹から聞いてます。何故、あなたのいる辺境領地は、中央にとって優先順位が低いかの説明でしたね」

 仕事をする手は止めず、モリシア伯爵令嬢はダイファンの叔父に説明を始める。

 「ざっくりと言うと、中央にとって、あなたの辺境領地の問題は対処方法が確立されているからです。この王国は、大陸で二番目に大きい国です。それだけ課題が山積みになってます。解決の糸口さえ見えていない問題を抱えた領地はたくさんあります。ですから、あなたのいる辺境領地は中央にとって優先順位が低いのです」

 話している間にも書類を処理し続けているモリシア伯爵令嬢。ただ承認のサインをしているだけではなく、承認できない案件は振りわける。

 「仮に魔物が本格侵攻してきた場合、中央までのルートを完全封鎖します。あなたの辺境領地から中央までは、長い一本道で、途中に山のトンネルなど完全封鎖が可能なポイントが何か所もあります」

 「待ってください。それは、私の辺境領を見捨てると言うことですか?」

 「見捨てる見捨てないの話ではないのです。いいとか悪いとかでも論理の話でもない。このボタンを押せばこうなるとの話です。魔物か魔法国家かが、あなたの辺境領地に戦争をしかけてきたら、中央は辺境領地ごと閉鎖する」

 「しかし、それでは領民が」

 「魔物との戦争が本格化すれば、反対側の帝国が好機と判断して戦争を仕掛けてくる可能性もあります。わずかだろうが、その可能性は潰さなければなりません」

 「しかし!」

 「あなたしかいないのですよ。あなたの辺境領を守れる人は。その地で生まれ育ち、あなたの辺境領を一番愛しているのはあなたでしょう」

 妹とまったく同じことを言うモリシア伯爵令嬢。

 「一つ釘をさしておきますが、最終兵器としてのリリーは役に立たないですよ。リリーは十二個の強力な魔力封じのアイテムを身に着けていますが、それでも攻撃魔法を使ったら、どんなに抑えても、あなたの辺境領地は全滅するでしょうね」

 モリシア伯爵令嬢は、一枚のチケットを叔父に渡す。

 「あなたはもっと中央の考え方を知らなくてはいけません。そうでなければ中央相手に、自分の辺境領を守ることはできませんよ。このチケットは中央で一番人気がある演劇です。中央の文化、考え方を体験するには最適です。見てきてください。それと、次来るときは、辺境領の会計記録帳を持ってきてください。リリーの姉として、私もちょっとだけ役に立てますよ」

 次の日、叔父が持ってきた会計記録帳を一通りめくり、次々と指摘する。

 「ここと、ここと、ここ。不正されてますね。この数字だと、書き間違いではなく、誤魔化した分を懐にいれるための改竄ですね」

 「まさか。古くからいる料理長とメイド長と警備長が、そんなはずありません」

 「書類処理を三年やれば、不正されるとなんとなくわかるようになります。私は十年以上、国のお金がらみの書類を扱っています。間違いなく、不正してますね」

 叔父が辺境領地に戻ると、料理長とメイド長と警備長が床に倒れていた。

 「お帰りなさい、叔父様。こいつら、怪しかったので、カマかけたらゲロりましたわ。領民のためのお金をちょろまかしていましたわよ」

 リリーの手は、三人をぶん殴って真っ赤になっていた。

 「なんなんだ、おまえは?」

 床でもがく警備長が、喚く。

 リリーは名乗る。

 「私はダイファン様の敵を全て排除する者よ」


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