02
二人が、辺境領に帰り着いたのは、夜が更けてからでした。
「いろいろあって疲れただろう。今日は、ゆっくりと休みたまえ」
辺境領主ダイファンは、少女リリーの身を気遣う。
「あ、あの、私が眠るまで、手を握っていてくれますか」
少女リリーの申し出に、驚く辺境領主ダイファン。
「すみません。私ったら、厚かましいお願いをしてしまって」
「いいや。いきなり、こんな僻地に連れてきてしまった。軽率な行動を謝罪するのは私だ」
ベットに横になる少女リリーの手を握る辺境領主ダイファン。
少女リリーが寝息をたてても、その手を離さず、その寝顔をみつめている。
夜が明けるまで、その握られた手は離されなかったのでした。
「これ、私が悪いの?普通、手を出すでしょう。妻として連れて帰ったんだから、初夜でしょう。新婚初夜でしょう。ベットの上に可憐な私がいて、なんで、手を出さないの?」
「リリーが悪いわね」
「リリー様が悪いです」
「リリー様が悪いですね」
「リリー様が悪いです」
お茶会の席で、リリーはみんなから駄目出しをくらう。
場所は王国の中心部。辺境領から馬車で半日の距離だが、リリーが使える転移魔法ならば一瞬で移動できる。もちろん、リリーが転移魔法を使えることは、辺境領主にはないしょだ。
お茶会に飛び入りしてきて愚痴を言う妹に、モリシア伯爵令嬢は上から目線で注意する。
「いいですか。リリー。殿方に、自分の気持ちを言わないでも察して行動してもらうなんて期待するのは、馬鹿者ですよ。そんな殿方はいません」
「そうですよ、リリー様。男の鈍感さをわかってませんよ」
「リリー様。何も知らないふりをして、さりげなく誘導するものです」
ふてくされるリリー。
「じゃあ、具体的にどうリードすればいいのよ?」
みんな、それぞれあさっての方向を向く。
「ごめんなさい。みなさん、まだですものね」
謝罪するリリー。
テーブルを強く叩く、モリシア伯爵令嬢。
「そんなことはないわ。私は王子と婚約中の身。つまり、経験済みということです」
「さすが、お姉さま」
「私の初体験の相手はギルバート」
「まさかの王子全否定」
「ギルバートは私の家の庭師でした」
「そんな名前の庭師がうちにいたことないよね。と言うか、庭師は女性に限定して雇っているわよね」
「麗しき私に、淫らな欲望を抱いた庭師は、私の寝室に忍び込んだのです。抵抗する私に、ギルバートは、お嬢様が美しすぎるから悪いんだと、無理矢理。これが私の初体験です」
「具体的な行為がわからないから、話をすっとばした」
ミッシェル伯爵令嬢がテーブルを強く叩く。
「それならば、私の体験を」
「ミッシェル伯爵令嬢!」
「私は三年前まで、グリーン侯爵家に仕えるメイドでした」
「自分の身分をねじ曲げた」
「旦那様と奥様は愛のない政略結婚でした。私はいつしか旦那様の誠実な人柄に好意を覚え、一線を越えてしまいました」
「ここの国にグリーン侯爵家なんてないけどね」
「旦那様との許されぬ過ちは一度きり。ですが、その一夜で、私は子を授かったのです」
「絶対に嘘ですよね」
ヨールデリ伯爵令嬢がテーブルを強く叩く。
「私の初体験も話させてもらいます。これは本当にあった話なんですけど、私の生まれ育った村が焼かれ、生き延びたのは私と幼馴染の男の子の二人だけ。私たち二人は村を焼いた盗賊団に復讐を誓い、旅をすることになりました」
「嘘の要素しか無い」
「ですが、私達は盗賊団に捕まってしまい、私たち二人は盗賊団の思いつきで、媚薬を盛られ狭い牢獄に放り込まれることになったのです」
スワンリ伯爵令嬢がテーブルを強く叩く。
「そして、その盗賊団のボスがこの私」
「他人の妄想に乗っかった」
リリーはテーブルを強く叩く。
「男と手も握ったこともない伯爵令嬢達の妄想披露大会は止めろ!」
「叔母様に相談しようかと」
恋多き女性として数々の男性とのロマンスが語られる、リリーの叔母。
「あの方に、アドバイスをもらうのは止めた方がいいですよ」
スワンリ伯爵令嬢が止める。
「どうしてです?」
「いろんな人とつきあっていたってことは、最終的にみんな駄目になっているってことですよ。リリー様がいろんな男とやりまくりたいならピッタリの人選ですが、夫婦として末永く共にあゆみたいなら最悪の人選です。私は恋愛マスターを知ってますから来てもらいます」
スワンリ伯爵令嬢が連れてきたのは、ココ伯爵令嬢。そばかす残る顔立ちと低い背丈は、まだ子供にしか見えない。
「ココ伯爵令嬢は先月婚約を発表されました。我々は彼女の恋愛技法を学ばせてもらわなければいけません」
「わ、わたくしは親の決めた婚約に従ったまでです」
「これですよ。これ。最高物件の男性を捕まえておいて、いかにも地味な女が地味な男とくっついただけですと言った立ち回り」
「ほ、本当に私は何もしていなくて」
モリシア伯爵令嬢が手を上げる。
「初めてはどんな場所でしたか?参考にしたいので」
「わ、わ、わたくしは彼とはキスもしたこともないです」
モリシア伯爵令嬢は、部屋にいる使用人を人払いし、部屋の扉が厳重に閉まっているのを確認して見せた。
「もちろん、あなたが清らかな身体なのは知っています。でも、他の誰かの体験話を知っていれば教えてもらいたいのです」
ココ伯爵令嬢から気が弱そうな態度が無くなる。
「これは私の友達の話なんですけど。私じゃなくて、友達の話ですよ」
「わかってますわ。あなたじゃなくて、あなたの友達の話ね」
「ドラゴンっているじゃないですか」
「我が国の神聖なる守り神ですね」
「そのドラゴンって背中に乗れるじゃないですか」
「伝説によれば、七代前の国王が乗ったことがあると。さすがにそれはおとぎ話かと」
「そのドラゴンの上でやるんです」
しばらく理解できないでいるモリシア伯爵令嬢。
「それは我が国の神聖な守り神であるドラゴンの上で、おっぱじめると言うことですか?」
「はい。おっぱじめて、最後までやりきると言うことです」
ざわめくお茶会。
「あなた、天才ですか」
「さすが経験者は違う」
「これが恋愛マスター」
モリシア伯爵令嬢が再び手を上げる。
「罰当たりと言うか、ドラゴン側は怒らないのですか?」
「私、ドラゴンさんとは昔からの顔なじみで、孫娘みたいに可愛がってくれていて」
「孫娘の秘め事に、背中を提供する。嫌なじじいですね」
「ドラゴンさんからみれば、猫がさかっているみたいな感覚らしいですよ」
リリーはココ伯爵令嬢の手を取る。
「ドラゴンさんに頼んでいただけますか?」
ドラゴンの上のロマンスは実現できなかった。
リハーサルのためドラゴンを呼んでいる途中で、リリーがさらわれたと思い込んだ辺境領主ダイファンが乗り込んできたのだ。
「ココ様すみません。ドラゴンはキャンセルで」




