第 9 話 望まれて ここに在る[後篇]
この作品には〔残酷描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。
15歳未満の方はすぐに移動してください。
また[性]に対する免疫がない方、あるいは[性]の苦手な方はご注意ください。
今回はまた、性に関する内容が少々ございます。
えちちな内容ではございませんが、性関係が苦手な方は特にご注意くださいませ。
この作品はファンタジーで、フィクションです。
湯殿へ晶貴を送り出した後、ダレスは大神官たちの居る部屋へと戻った。
「御一人で平気だと言われておったが、大丈夫ですかな」
国王が不安げに呟く。
「幼い方ではありませんので、あまり心配は要らないと思いますが」
大神官がふと、思案顔になり、ダレスへと問う。
「側近どの、説明はひと通りされましたか?」
「はい。手布や浴布の場所、新しい肌着や夜着の場所も致しました」
「……湯殿内の石鹸の出し入れの仕方は?」
「あ!」
どうやら表情を見るに、ある程度以上の浴室には民間でも必ず設置されている仕組みなので、つい説明し忘れた様子だ。
「説明に行ってまいります!」
そう言い、湯殿に向かったダレスが、暫くして悲鳴を上げながら戻ってきた。
長椅子に座っていた面々は、皆何事かと立ち上がる。
「如何なされた」
大神官にそう訊かれたダレスは、その顔を紅潮させていた。
余程慌てたのか、興奮がなかなか治まらずにいるようだ。
それでもダレスは幾度か深呼吸をし、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「王族親衛騎士としてあるまじき失態、どう償えばよいのか……」
真剣な顔で言うダレスに大神官は再度訊く。
「どのような失態をしたというのです」
「御許可もなく、シンディン様の、ら……裸体を拝してしまいました!」
再び真っ赤になるダレスに、国王が言う。
「確かに許可なくすべきことではないが、神の一枝さまの裸体を拝したとて、それほど恐縮するものでもあるまい?」
「シンディン様からお叱りでも受けたのなら別だが、そういった声は聞こえなかったぞ?」
太子も国王に言葉を足す。
ルドルフも二人の意見に頷きながら言う。
「何より、本当に失態を犯して聖天樹閣下の不興を買ったのだとしたら、聖霊たちが黙って見過ごす筈もなかろう」
そうなのだ。
部屋の中にはたくさんの聖霊たちが居る。
勿論、湯殿にも沢山居るだろう。
神の吐息である聖霊にとって、神の一枝の存在は神自身と同等。
恐怖や嫌悪、そういった負の感情を神の一枝が持てば、即座に反応するだろう。
けれども現在この部屋の中の聖霊たちは、自分達を観察しているだけのように感じる。
そう思ってのルドルフの言葉に、ダレスは辺りの聖霊たちの姿を垣間見る。
自分がこの部屋を出た時と何ら変わりのない聖霊たちの雰囲気に一瞬安堵しかけたが、ダレスはその頭を左右にぶんぶんと振り回す。
「いえ! いえ!! やはりダメです! 許可もなく、女性の裸体を拝するなど、騎士のする事ではございません!!」
「「「 ! 」」」
ダレスの言葉に国王と太子、ルドルフは一瞬、息を詰まらす。
一番早くに立ち直ったのは国王だった。
「ダレス……ダレス・ワイマート・ガレダン。……今、何と申した?」
国王に向かい、厳かに言うダレス。
「私が拝してしまったのは、神の一枝さまの、シンディン様の……女性の上半身でございます」
沈黙が室内に流れる。
神の一枝たる晶貴と対面し、色々な会話はあった。
だが、まだ年齢や性別すら尋ねていない事に気付き、自分達の失態に眉をしかめる。
すらりとした肢体と短髪、利発な語り。
男性によく有り気なその様相に勘違いを起こしていた
雰囲気や声、立ち居振る舞いや言葉遣いも中庸だった晶貴を、つい男性として見、扱っていた事に国王達は気づいてしまった。
各々が「ううむ」と唸る中、大神官は告げる。
「皆様それぞれのお考えはともかくも。まずは、シンディン様御自身のお気持ちを汲んで差し上げるのが宜しいかと存じますが……如何なものでしょう?」
大神官の提案に皆が頷く。
晶貴は湯殿で寛いでいるのか、まだ脱衣所の扉から出てくる気配はない。
皆は長椅子に座り、静かに出てくるのを待つことにした。
湯殿や脱衣所には時刻板らしきものが無かった為、自分の体内時間でしか測れないが、着替えも含めて大体一時間くらいは過ぎたのだろうと思う。
晶貴にとっては平均的な入浴時間だ。
用意された肌着は生成りの長袖のシャツの様な上肌着と、同じく生成りのトランクスの膝上長けの様な下ばきだった。
下ばきはひもでウエストを調節するタイプだったので簡単に調節がきいた。
薄青い夜着も上は長袖。下は足首まであるズボンで動きやすい。
夜着の上に着けるのだろうガウンらしきものもあったが、さほど寒さを感じないので夜着のまま、乾いた浴布で濡れた髪を拭きつつ大神官たちの待つ部屋へと戻る。
自分の姿を認めるや否や、大神官を除く全ての者が片膝を床へつけ、頭をたれる。
晶貴はその様子を眺め、立っている大神官を見つめた。
大神官は…………微笑んでいる。
その姿に、晶貴も笑みを浮かべる。
彼らの自分を扱う雰囲気から男性に間違えられているのだろうとは思っていた。
唯一その判断をつけた様子を見せずに晶貴と対話をしていたのは大神官のみ。
そこへあの、騎士ダレスの悲鳴である。
大神官以外は自分の事を[男]と思っていたとみて間違いないだろう。
ただ、今気にかかるのはひとつ。
他の者が跪いている中、笑顔で立っている大神官についてである。
神と人との間に立つ職務、神職。
神事が関わらぬ限り、各国の政治的な事には一切手を出さない者達。
普通の神官は国王等一国の主に対等にものを言う権利を持ち、大神官は国王よりも立場が上となる。
それが、聖霊たちに訊いた神官というものだった。
なので、国王が跪き大神官が立っているという構造は特に不思議ではない。
問題はその笑顔にあった。
大神官が晶貴を女として最初から見ていたとしたら、それを国王達に告げていない筈はない。
男と女、その身体の構造が違うのは誰とて見知っているものである。
壁近い棚にある石で作られた女性の彫像はドレス姿である。
テーブルの上の織物や寝台の上掛け、天蓋にも手の込んだレースや刺繍が施されていた。
そういう技術がある中で、男女の肌着が同じであろう筈もないのだから。
今回とて湯を使わせる段階で必ず着替えの問題があるだろう。
肌着上着含め、あの着衣には女性の胸の膨らみを考慮した仕立てになってはいなかった。
神の一枝に対して、あれほど真摯に礼を成す人物がそういった事を見逃す筈はない。
つまりは女として見てなかったから、何も進言しなかったのだと判る。
では、男として見ていたのだとしたら、どうか。
これも答えは否だ。
もしそうなら、他の者同様、今あの場で笑顔でなど居られないだろうから。
牢で初めて対面してから以降、男だとか女だとかいう性別に関係なく晶貴に接していた大神官。
叶う限り、神の一枝の意思に添いたいと思慮行動する者。
彼は、晶貴に男女の確認すらしなかった。
となると、考えられる事は限られてくる。
『最初から知ってたのか、それとも神の一枝が皆そうなのか。或いは聖天とやらがそうなのか……という辺りか?』
晶貴は自分を見つめ、未だ笑顔でいる大神官を見る。
彼は他の者が跪いている中、自分が言葉を発するのを待っている。
晶貴の瞳の金色が橙色を流した様に揺れ動く。
『このオヤジ……イイ性格してやがる』
そんな思いに、口角が自然に上がる。
「とりあえず、皆さん立ちません? 椅子に座って話しましょう」
晶貴はそう言い、自ら椅子へと座る。
その言葉で大神官はすぐに移動をする。
国王と太子は互いの顔を見合わせ、立ち上がり同じく椅子へと腰かける。
ルドルフは、ちらとダレスを見やり国王達に幾ばくか遅れて立ち上がった。
方向こそ晶貴の方へと変わっていたが、ダレスはまだ頭を下げたままである。
「騎士さんも、まずは立って」
晶貴が促すと、ダレスは恐縮した声で告げる。
「申し訳ございません! ひとりの男として、騎士として。恥ずべき行為を行いました事、この場で死を賜っても文句はございません」
生真面目実直の見本の様な言動に晶貴は苦笑し、指でこめかみを数回掻く。
面倒だが、こういうのは命令して動かすに限る。
「えー。ダレス……ワイマート・ガレダン、だったよね。……顔を上げて立て」
「はっ!」
流石に命令口調だとさっくり動いてくれた。
その場に立ち、次の言葉を待つダレスに晶貴は言う。
「多分、私の裸を見た事でそういう考えになってるんだろうけど。不可抗力だし、不問って事で」
「そ……」
「私が、そう決めた。何か不満でも?」
「い、いえ………………ですが」
「騎士が二の句を継ぐな」
笑みを浮かべて静かに言う晶貴。
「裸を見られる事は慣れてる。だから、あまり気にするな」
「………………はい。御厚情に感謝致します」
礼を成したダレスから、晶貴は大神官へと向き直る。
「で。大神官にも訊きたい……聖天の性別は何だ?」
「聖天様に性別はございません。無性でございます」
予測していた問いなのか、大神官は笑みを崩さない。
なるほど、と思い頷き、晶貴はもう一つの質問をする。
「では、歴代の神の一枝の性別に、決まりは?」
「神の一枝さまの性別は、二種類でございます」
「ここまで来て[男性]と[女性]だったら怒るぞ」
勿体ぶった語りに晶貴が軽く釘を刺す。
大神官は平然と言う。
「歴代の神の一枝さまの中には、性をお隠しになられた方もございますので。まずはシンディン様の御意向を伺いたく存じまして」
なまじ大神官と言う大層な職に就いているだけあって、なるほど立派な狸である。
国王達が神の一枝に対し、男性の様な扱いをしている事を敢えて咎めず。
しかも裸体を見させる様な事を幾度か示唆し、罠に嵌った騎士によって性を周囲に判らさせた。
この状態で神の一枝が激昂する様ならば、性の事には触れない形でこの場を収めたのだろう。
例え、一人の騎士の生命が喪われようとも。
そんな大神官の意図に気づいてしまった晶貴は溜息をつく。
「私はこの、自分の身体を好いても嫌ってもいない。けれど、身体と心が揃ってこその自分自身だし、この身体でなければ今の自分はない。だから、隠さない」
晶貴のその言葉に大神官は頭を下げ、礼を成す。
「承知いたしました。では、各国の王への告示にも記載いたします。宜しいですかな?」
「構わない。そうでないと後々死人の山ができそうだ」
肩を軽く上げ、笑みを浮かべる晶貴に大神官は言う。
「ご意向が判りましたので、先程の問いの返答を致しましょう。……その前に他の皆様へ申し上げます……本来なら後日正式な告示がイルフェラム国に着いて初めて知らされる事なのですが、先程のシンディン様の御允許がありますので降臨地に置ける特赦扱いとして、告示まで口を閉ざすのを条件とし、この場に居る者全てに聞く事を許可いたします」
長い前置きの後、大神官は晶貴に告げる。
「歴代の、神の一枝さま方の性別は先程申しましたように二種類ございます。ひとつは聖天様と同じくどちらの性も持たない[無性]……もうひとつは、どちらの性も兼ね備えている[両性]でございます。……拝見するに、シンディン様は[両性]のご様子ですが」
返答を求められた晶貴は落ち着いた声で言う。
「確かに私は両性具有と呼ばれる身体を持っている。ただ、まぁ……期待されても困るので最初に言っておくけど、子を作る事は出来ないからな」
「その辺りも了承しております」
大神官は言う。
「歴代の神の一枝さま方の中で子を成された方は御一人として居られません」
「ま、無性や両性じゃ無理もないか」
晶貴が僅かに微笑む。
そして、驚いている様相の国王達に向かって言う。
「驚かせて申し訳ない。母国の役所には[女]として登録されてはいるけど、私は身体の中の仕組みが色々、普通の人とは違っててね。この世界の学問……医学がどの程度かは判らないけど……私は両性具有といって、男女両方の持ち物を持っている。簡単に言うと、男性と交わるのも可能だし、女性と交わるのも可能だって事。でも男としての種は無い。女としての畑も無いので、子を成す事は出来ない……それが私の身体だ」
淡々と語る晶貴。
「私の場合、身体の中の内分泌……あー難しくなるか。まぁ、性別を司る力が常に男女両方に揺れるんだ。だから胸が男の様に平らな時もあるし、女の様に膨らむ事もある。実際、先刻食事をしている時や湯に入る前まで、胸はぺたんこだったからな。湯に入って身体が温まって少し気を許したんで、胸が膨らんだんだと思う。これまで、ここまで急に膨らんだりする事は無かったんだけど、こっちの世界へ来てから多少身体の造りが変わったみたいだから、その所為かもしれない。何にせよハダカを見たと騒がれてしまった件については、不問。……この身体が特殊だって事で、昔から散々ハダカに剥かれ、沢山の人間に見られてきた……視線には慣れているから今更だ」
特に面食いではない晶貴だが、審美眼が無いわけではない。
この場に居る男性達の顔の造作は皆、整っている。
若いという事もあるが、太子やダレスなどは既に美系の部類に入るだろう。
自分の傍らにそういう者が居る。
ただそれだけでも、夢想は働くものだ。
それが女性化の引き金になってしまった可能性は十分にある。
苦笑しながら晶貴はダレスに言う。
「どっちかっていうと……ある程度膨らみはするが、恐縮されるほどの胸でもない。つまらないものを見せて申し訳ないのはこっちの方なんだよね」
「そんな……!」
「いやいや、無理しなくていいって。女の感情が強くなれば胸は膨らむし、男の欲望が強くなったら勃起だってする。そんな困った身体なもんで、感情を制御するよう心がけては居るんだけどなぁ……」
くす、と漏れる小さな笑い声。
相手が男であろうと女であろうと、自分のこの身体全てを許容する者はこれまで居なかった。
肉体関係を持った後などは特にそうだった。
大抵の者はどちらか片方の性にするよう手術を勧めてくる。
男の心、女の心。男の身体、女の身体。
どちらも自分なのに理解して貰えない。
何度、住処を変えたろう。
幾度、性格を変えてみただろう。
人間は、自分と異なるものを排除したがる癖がある。
このままの自分を認めて貰いたいけれど、なかなかそう上手くはいかない。
いつしか心に仮面をつける事を覚え、当たり障りのない対応を取る様になった。
感情に揺れ過ぎると碌な事はない。
晶貴はずっと、そうやって生きてきた。
「あと、言葉づかいが荒くて申し訳ない。出来なくはないが、このナリで普通の女言葉を使っているとどうしてもオカマかニューハーフ……あー、身体は男性なんだけど心が女性とか、男だった身体を手術で女性に変えた人達とかと混同されてしまうんで、ついついこういう喋りになってしまっていて……実は地の喋りはもっと荒い時もある」
笑顔のままそう言う晶貴に、大神官が言う。
「聖天様の意思でこの世界へと降臨なされたシンディン様はこの世界で至高の存在となります。我ら只人は全て貴方様の僕と同じ。主上の言葉遣いがどのようなものであれ、我らはその言葉を拝するのみ。主上の持つ自分らしさに苦言を言う者などおりますまい……何、位の高い者でも結構口調の荒い者ごろごろ居ります。先程の『何しやがったコノヤロー』などは可愛いものでございますよ」
楽しそうに語る、その瞳に嘘は無い。
晶貴は軽く頷く。
「そうか、安心した。自分らしくあればいい、か」
「ええ。あと、夜間のお世話なのですが。御必要であれば男女どちらでもご用立てしますので、お気軽に申し付け下さいませ」
「ぷっ…………ははははははははは!!!」
晶貴は盛大に吹き出した。
辻褄の合わない部分があるので、大神官の嘘はすぐに見抜けた。
「なに? まだお披露目前だから人目に触れさせちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「良い記憶力でございますね。確かに今のは、ほんの冗談に過ぎません。ですが、先程のシンディン様のお話を聞くにあたり、これだけは申し上げておきたく存じます」
大神官は静かに、けれども真面目な目を向ける。
「シンディン様の御身体を両性だと公示する事で、それを異端と考える様な馬鹿はこの世界にはおらず、『神の一枝さまとは、そういうものなのだろう』と認識されるだけに過ぎません。ですのでシンディン様はその御身体が持つ欲を我慢する必要性はございません」
「……子孫とか出来ないのに、勝手に『お手付き』とか言われて後宮とか出来たりするのはご免こうむりたいんだが」
男であれ女であれ、権力のある者につきものの一つがそうした妾、側室の類。
至高の存在と聞かされて、まず浮かんだのがそういうものだった。
自分の事を本当に好いてくれてそういう関係になるのであればまだいいのだが、自身の持つ立場を考えると、どうしても何かの策略や政治に関わる可能性が高くなる。
自身の性経験の最初を思い出し、少しばかりげんなりしている晶貴に大神官は言う。
「シンディン様が望む事がなければ後宮などは出来ません。お手付き云々は多少はあるでしょうが、その辺りはシンディン様ご本人が相手を選べば良いだけの事でしょう? 性生活についてもシンディン様の自由恋愛でお願いします。……何も、のべつ幕無しに色欲魔人になれと言ってるのではございませんよ?」
大神官は苦笑しつつ、続ける。
「シンディン様は先程、ご自分の感情を制御しているとおっしゃられた。これまで生活なされていた世界がどのようなものかは存じませんが、お話から察するに男女という性の括りが一番の多数で、それ以外の性は排他されているような感を受けました。ですので、シンディン様はご自身の感情を抑えなければ、生きて行けなかったのだろうと、そう見受けられました」
一度頭を下げ、礼をとる。
「私の考えが感違いや間違いであれば謝罪申し上げます。けれど、もし、そうでないのなら。神の一枝さまは、その自由な御心があるが故、聖天の体現と呼ばれているのです……理性と言うのも人それぞれの範囲がございますでしょうが、過度の抑圧だけは……感情を無理に押し殺す事だけはして下さいません様にお願い申し上げます。……これは、神官としてではなく、私モノティア・レグル個人の意見にございます」
晶貴は少しだけ目を細めた。
神と人とを繋ぐ神職にある人間が放つ、個人としての言葉の、その意味の深さを考えて。
本来[個]という感性を捨て去る者が多数を占めるのがこういう神職だ。
その中でも最高峰である大神官の位にありながら。
その彼が、[個人]として自分に[願う]という。
それは、本心からでないと告げられない言葉だから。
『……自分の事を心配してくれる者が居るというのは、嬉しいものだ』
晶貴の心にほんわかとした温かさが灯る。
裏切られる事には慣れている。
傷つきたくなければ、過度に期待を持たなければいい。
けれども、この久しぶりに差し出された想いを、受け止めないでいる方が苦痛だった。
「随分と長い事こういう生活をしてきたから、急に変われと言われても難しい……が」
目を細めたまま、晶貴は大神官へ心からの笑みを見せる。
「努力はしてみよう」
言葉と共に、晶貴の感情が漏れ出る。
その感情を受けた聖霊たちが部屋中に向けて力を放つ。
激しいものではない。
怒りや嫌悪でもない。
その温かな想いによる力は、晶貴の身体を少しだけ輝かせる。
神々しさと、色香を伴う甘美なる輝きに、その場の人間は一瞬理性を手放しそうになった。
力が放たれたのは、時間にしてもほんの数秒だろうが、感じた色香に惑わされてしまった者達の頬は、ほんのりと紅く染め上げられていた。
色々な形の性があります。
カミングアウトする方も少ないし、認知度もそんなに高くない。
でも、確かに居るんですよね。
まえがきにも書きましたが、この作品はファンタジーでフィクションです。
ですが。
決して、こういった性というものを面白おかしく書き、冒涜するような意図のものではございません。
ご承知おき下さいます様、切に願います。
そして、まだまだ続きます。
聖天神殿が遠い……何でだ? _| ̄|○




