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神の一枝  作者:
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第 5 話   望んだモノが、モノでなく[中篇]

この作品には〔残酷描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。

15歳未満の方はすぐに移動してください。

また[性]に対する免疫がない方、あるいは[性]の苦手な方はご注意ください。

 

 牢塔内に入り、その身にかかる圧力に大神官は気を引き締めた。

 大神官だけではない。

 王達四人もそれを感じていた。

 自分たちを値踏みするかのように窺い飛ぶ発光体。

 聖霊と呼ばれているそれらが、中層階へ近付くほどに増えてゆく。

 

 

 牢の内外は圧巻だった。

 渦巻く光の群れは寝床の上の人物を護るかのように舞い踊っている。

 王達は聖霊の圧力に気圧されそうになるのをかろうじて押しとどめていた。

 見れば彼の人の目蓋は閉ざされている。

 深い眠りか浅い眠りかは判らないが、目覚めて貰わないとならない。



 聖天神殿の壁の反応、そして聖樹の発現。

 壁は神物の召喚を司り、聖樹は神の一枝の現出を司る。

 これが同時に起こる有り得なさに戸惑うが、神事に有り得ないというものは無いというのもこれまた事実。


 神の一枝。

 今回降臨された方が、和魂(にぎみたま)を持つ方なのか、荒魂(あらみたま)を持つ方なのか。

 それすらもまだ判らないが、目覚めを促す事で不興をかう事を恐れていては何もすすまない。

 何より、本物だった場合早々にこの場から居所を変えなければならない。



 彼の人が持っているであろう神気。

 そして意思を現す瞳……神眼。



 大神官はその確認をする為、修行によって得た神気を喉へと集中させる。


「お目覚め下さいませんか」


 小さいが、聖霊の圧力に負けないだけの凛とした声音が出る。

 すると、光が大神官の元へ幾体かふわふわと寄ってきた。

 目の前に止まり、明滅する光。

 自身に神気を負わせている為、その聖霊の行動が、かの人に害があるものなのか、ないものなのか、確認されているのだと理解できる。

 聖霊は神の吐いた吐息。

 どれだけ儚く美しく見えても、宿る力は人間以上だ。

 大神官は再度、正式な申し立てを行う。


「聖天神殿大神官、モノティア・レグルが申し奉る。どうか、お目覚めを許されますよう」


 僅かな間の後、光が動く。

 他の光と協議するかのような明滅の後、一体の光が寝床へと向かう。

 彼の人の目蓋の上を、くるくると動く光。

 それに刺激されたのか、彼の人の喉が軽く鳴らされた。


「…………ん……ぅ」


 身じろぎ、手を顔の前にあてた後、ゆっくりとその手が顔から外されるが、彼の人は上半身を起こしたままの姿で壁の方を向いていた。

 緊張しつつ、大神官は口を開く。


「お目覚めでございますか?」


 一瞬びくりと身体を震わせ、彼の人はようやくその顔を大神官の方へと向ける。


「……はい」


 男性にしては高すぎ、女性にしては低く感じる声音。

 だが、透き通るような響きを持ち、短くも神気を感じさせる一言だった。

 降臨後、すぐにこのような悪い環境に置かれ、さぞかし憤慨しているだろうと思っていた大神官にとっては予想外に落ち着いた返答。

 そして彼の人の持つ意思ある瞳。

 神書に伝わっている通りに金色に輝くその瞳は、彼の人の今の心情を現すかのように虹彩を僅かに青色に波打たせている。

 怒りなどない、安定した虹彩の輝き。

 信じられないほどの清々しい神気を放つ彼の人物に、大神官の身体は自然に震えが走っていた。


『間違い等、ありえる筈もない……神の一枝』


「……大神官?」


 後方から漏れ聞こえた王の言葉に、大神官は急ぎ牢内の神の一枝に向かい、叩頭礼を成す。

 何よりもまず、こなさなくてはならない儀礼がある。

 細かい説明は後々でも良い。

 王達への説明なら自分の発する言葉で足りる。

 理解すればすぐに、己のしなくてはならない行動に気づくであろうから。


「大神官モノティア・レグル、聖天リ・ラ・リリゥ様の御心である[神の一枝]……聖天神殿にて確かに御護り申し上げ奉ります」

「「「「 !!!! 」」」」


 大神官の告げた内容に驚愕するが、王達はすぐに大神官に倣って叩頭礼を成した。

 召喚なんて軽い状況ではなかった。

 降臨された尊い方を、本来ならば最初から優待するべきなのに、怪しいからとこのような場所へ放置してしまった自分たちの責に、四人共々叩頭して沙汰を待つ。

 大神官や王とて只人。

 神の一枝とは比べるべくもない。

 すぐさま殺されても、誰も文句など出せない。

 それほどに尊い存在なのだと伝え聞いている。

 神気に怒りは感じないが、まだ何も返答を頂けないのは自分たちを見分しているのだろうと判断する。

 

「頭を上げて下さいませんか」


 静かな声が上から降ってきた。

 

『もったいない』


 命令口調ではない、その言葉に恐れ入りながら大神官たちは頭を上げる。

 彼の方は立ち上がった状態で、自分たちを見定める様に金色の瞳を向け、再び口を開く。

 

「床は冷えます……どうか、お立ち下さい」


 それは、ここが牢だという事、冷たい場所だという事。

 自分がそういう場所に居るのだと、はっきりと認識しているから言える言葉。

 それでも、その事を咎めるわけでもなく、まずは身体を厭えと、只人の身を案じて下さるその優しさと度量に感激しながら大神官たちは立ち上がった。

 

「あと、何がどうなっているのか。説明が欲しいのですが」


 こちらが立ち上がるのを確認すると、すぐに言葉が発せられる。

 否といえる筈もない。

 非は全てこちらにあるのだから。

 言葉を慎重に選び、大神官は返答する。


「承知致しました。ですが、ここはそれには適さない場所にございます。これより早々に御身の移動をさせて頂きたく存じます。御許可、頂けますでしょうか?」

「はい。構いません」


 疑問の言葉すらない即答だった。

 思えば、彼の人自身が「ここを出る」と意思を向けるだけで、この程度の牢の封縛を解除するなど呼吸するより楽に出来るだろうに。

 それでも、そのような事をしていなかった意味に気付き、大神官は再度感激に打ち震えていた。


『神の僕たる我らが迎えに来ると。信じて、待っていて下さったのか……っ!』


 金色の瞳は、真っ直ぐに自分を見つめている。


「牢の封縛を解除後、移動の陣にて参ります。宜しいか」

「うむ」


 後ろに居る王たちを見もせずに告げるが、納得の返答を得て大神官は軽く頷き、目の前で静かに立っている彼の人へ必要な事だけを告げる。

  

「陣にて即時移動を致します。どうか、御目を閉じられますよう」

「はい」


 了承の返答を貰い彼の人の目蓋が閉じられると、大神官は即座に牢の封縛を解除し、王を含む自分たち五人と彼の人とを繋いだ形で移動の陣を組み上げ動作させた。

 光の粒子が辺りに舞う。

 




 

 空間移動は速やかに行われた。

 移動先はとして陣に組み込んだ座標は、現在使用可能な貴賓室にしていた。

 移動後、術ですぐに室内に明かりを灯し室温を調整する。


「もう御目を開けられても宜しいですよ」


 自分の言葉にぱちりと目蓋を開いた彼の人は、すぐに辺りをさらっと見渡し軽く息をついた。

 恐らく貧相すぎるこの室内に呆れたのだろう。

 大神官はそんな彼の人に、軽く頭を下げながら言う。


「この様な手狭な部屋で申し訳ございません。正式な御部屋が御用意出来ますまで、どうか御辛抱頂けますようお願い申し上げます」

「…………」


 返答はなかったが頷きは帰ってきたので、とりあえずは我慢して貰える様子だ。

 これから急いで色々な物事を用意しないとならない。

 

「御説明の前に色々と準備がございます。しばしお時間を宜しいでしょうか?」

「はい」

「有難うございます。それではこちらにて少しの間お待ち下さいませ」


 尊いこの方を一人でこの場に残す事にかなり悩んだが、それでもまずは周りを動かす事をしておかないと何も出来ない。

 勧めた長椅子に彼の人が腰掛けるのを確認し、大神官と他の四名は部屋から退出する。







「ルドルフ、ダレス。ここの警護を任せる」

「承知。ですが、我らがここに残ると王と太子の警護がカラに」

「構わぬ。何事かあっても大神官どのがおる。何より、現在こちらの部屋に居られる方以上に尊い方は神以外にないのだ、心して警護にあたれ」

「は」


 礼をして扉の前に立つ二人を後に、大神官と王、太子は王の執務室へと急ぐ。





「細かい説明は彼の方の前で同時に行うので後に。……早急に神の一枝を迎え入れねば。こちらの神殿と聖天神殿へも連絡を」

「臣を招集。当座必要な人員、物品を即座に揃えよ」

「書類関係は後回しで構わん、認証は全て我らを通せ」




「神の一枝、降臨」


その言葉と共に、慌ただしく城内が動き出した。












 時間にして1タラン。(約1時間)

 ようやく少しずつ準備が整い始めた。

 十分というにはほど遠いが、説明も何もなく、尊い方をこれ以上待たせるわけにはいかない。

 城内総出で様々な用意を行わせつつ、大神官と王、そして太子は再び貴賓室へと足を運ぶ。



 扉の外で警護をしている二人は、室内から時折感じる神気の増減に内心驚きながらも真剣に職務を全うしていた。

 王達の姿を認め、礼を成す。


「これよりは我らがこちらを」

「判った」

「外の警護は?」

「は、既に手配済みにございます」


 王達に付いていた騎士達が扉の警護を交代する。

 ルドルフとダレスは再び王と太子の警護についた。

 先程の簡易正装と違い、王も太子も神事に使用する正装に着替えている。

 その姿に改めて気を引き締め、状況を報告する。


「幾度か神気が増減されましたが、穏やかにお過ごしのご様子かと」

「そうか」


 返答する王に、大神官が言う。


「宜しいですかな? 参りますぞ」


 言葉なく頷きを返す面々を見やり、大神官は自らの手で扉を叩いた。


「大神官でございます。入っても宜しいですかな?」

「はい、どうぞ」


 返答はすぐに寄越された。

 扉を開けると中からこぼれるかのように聖霊たちが飛び出てくる。

 新しく扉の警護に付いた者がびしり、と一瞬固まった。

 神気にあてられたのだ。

 だが流石に王族の親衛騎士、すぐに動ける状態に戻っている。

 それを確認し、大神官達は室内へと足を踏み入れて行く。



 尊き人は長椅子にゆったりと腰かけ、こちらの様子をじっと見つめていた。

 


見る視点が変わると、それぞれの受け止め方の相違がw

人って、自分の見たいものしか見えないし、自分の聞きたい事しか聞こえないんもんです。


さて、ようやく次で神の一枝の説明に入れる……



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