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神の一枝  作者:
2/19

第 2 話   謎多く、寝床は硬く

この作品には〔残酷描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。

15歳未満の方はすぐに移動してください。

また[性]に対する免疫がない方、あるいは[性]の苦手な方はご注意ください。

 じんわりと意識が浮上してくる。

 眠りに就いて目覚めるときに感じる感覚と同じものに気づき、晶貴は先ほどまでの記憶を思い出した。


『外食して公園に寄って、不思議な光を見つけて。その光に包まれたと思ったら目の前に不思議な色彩をしている人間らしきものを見て。背中に思い切りバスでもぶつかったんじゃないかと思う位の衝撃を受けて意識喪失……って感じだったよなー』


 思い出しつつ、いまだ目蓋は閉じたままにしている。




 理由はふたつ。

 ひとつは、横になっている自分の背に感じる冷たさと硬さから、ここが決して自分の部屋、もしくはそれに準じるような普通の場所ではないだろうという事が判るから。

 もうひとつは、空気のにおい。

 耐えられなくはないが臭さを伴う空気が周りにある。

 人らしき気配も近くからはしない。

 目蓋の裏に見える光から、真っ暗でない事は判る。


『じゃあ……まずは確認から、ですかね?』


 呼吸は普通にできている。

 痛い所は特になし。

 ゆっくりと手足をにぎにぎ。筋肉に力を入れてみても痛くない。

 頭や胴体を左右に振るのもOK。

 どうやら身体はまともに動きそうだ。

 辺りの明るさがどの程度なのか判らないので、両手を持ち上げ手のひらで両目を隠す。

 ゆっくりと目蓋を開け視線を横へとずらしながら目を慣らす。



 この動作は昔、病院で同じような状況で目をそのまま開けて、天井にある照明の光で何日も目から光の残像がとれず苦労したので、その時からの癖になっている。

 瞳孔の収縮率が悪いんだそうで。医者曰く、自分の身体は他にも色々と[特異体質]なんだと説明された。

 


「…………」

 目を開け、辺りをひと通り眺め、晶貴は上半身を起こした。

 横になっている場所の硬さと冷たさから予想はしていたけれど。


『うっひゃー』


 その場は、どう見ても牢屋だった。

 部屋の広さは6畳ほどだろうか。

 寝ていた石造りの寝床は壁にぴったりと横付けされている。

 小さな窓はあるが、自分の身長の倍くらいの高さにぽつんと一つだけ。

 明かりがもれているので多分、現在は夜ではないのだろう。

 勿論、この部屋の周りが人工物で人工の照明が窓からもれているとも限らないが。

 寝床と平行なかたちで向かい合っているのは壁ではなく檻。

 触ってはないのではっきりとはしないが、錆びた鉄っぽい棒の群れが柵となって目の前にある。

 部屋の中には水道どころかトイレもない。

 隅の方に薄汚れた花瓶の様な壺があるところを見ると、それがトイレの代用品なのだろうと想像できる。

 遊園地や何かのアミューズメントパーク以外、現代の日本にこういう状態の牢獄があるとは考えにくい。

 かといって地球は広い。

 西洋の城だってこういう施設は残っているし、世界のどこかにまだ使用されているこういう施設がないとも言えない。

 危険があるかないか。

 どうしてもその一点に心配があるが、自分自身が鎖などで拘束されてはいない所を見ると、とりあえず現時点で生命の危険は少なそうだ。


『でもねぇ? ああいう色した人種はいないはず……コスプレとか特殊メイク除いて』


 意識が失せる前に見た黒い髪とオレンジの瞳を思い出す。

 誘拐や拉致監禁。あるいは新しいドッキリテレビだとかサプライズドキュメント。

 自分の置かれている状況はまだ掴めないが、色々と想像だけは広がる。

 いい想像も悪い想像も、予想の範疇にしておけばショックは少ないから。

 現況を自分の知識と照らし合わせてみれば幾つもの予想パターンが出てくる。


『通常の予想以外にあるものと言えばタイムスリップっていうのも有りか。あとは異世界トリップ……とか有りそうで怖いねぇ』


 思わず笑みがこぼれてしまったのは仕方がない。

 そっちの線が強いのだという事は薄々感じている自分が居る。

 身体に違和感があるのだ。

 手を見れば、それが自分の手だという認識はある。

 けれども何かが違う……と、そう思う。


『幾分か肌の白さが増している気がするんだけど』


 身体の他の場所も調べてみたいが、周りに鏡らしきものもないので諦め、異世界だという認識をことさらに強めている存在である発光体を見つめる。


『てか、なんでコレだんだん増えてくるのかね?』


 気を失う前に出会ったあのひとつの光が、目覚めた後で部屋の中にひとつふたつ……と、ぱらぱらと湧いて出てきているのだ。

 今では数も数える意味がないくらいに増えている。

 これが何なのかは今でも判らないけれど、害のないものだという事だけを本能が理解している。

 今も自分を気遣うかのように、ほわほわと近付いてくる。


『しっかし石の寝床ってのは冷たいねぇ。間に毛布一枚くらい欲しいわ』


 そう思った途端、幾つか集まっていた光のひと塊が自分の座っている部分へ飛び込んできた。

「へ?」

 一瞬の事で見つめるしか出来なかったが、すぐに感覚で理解する。


『わぁ……あったかーい!』


 理屈とかは全く不明だが、触れば石全体が温もっている事がわかる。

「君たちがやってくれたのね、ありがとう」

 何となく光って見える石の寝床をすりすりと撫でると返事のように光が軽く明滅する。

 こういう事ができる所を見ると、これらは精霊とか妖精とかの類なのかもしれない。

 


 座っている部分が暖かくなったせいか、再び眠気が襲ってきた。

 衝撃を受けた背中に痛みは感じない。


『先ほどと同じようにこの光が癒してくれたのかもしれない……』


 そんな事を考えながら、晶貴の意識は再び閉じられていった。


主人公、二度寝に入りました。

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