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神の一枝  作者:
16/19

第 15 話   祈りのこころ 正邪を問わず[ 1 ]

この作品には〔残酷描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。

15歳未満の方はすぐに移動してください。

また[性]に対する免疫がない方、あるいは[性]の苦手な方はご注意ください。



 カチャカチャという食器の音と香ばしい香りが室内を包んでいる。



「もう一杯お茶を如何ですか?」

「いや、もう結構」


 

 晶貴達は現在、昼食後のお茶中である。



 



 大神官による神の一枝公示の儀が無事に終了した後、怪我人が出たり、不本意ながら下僕ができたりと、まぁこまごまとあったが。

 何はともあれ晶貴の「お昼食べようよ」という言葉で場所を移動する事となる。





  

 聖都ランカスの都市全体像は、その中央にある聖天神殿を中心にしてほぼ円を描く様な形となって拡がっている。

 聖天神殿全体も円に近い状態で建立されており、前半面部にある主塔とその外縁部にある大小様々な建築物で囲まれた形となっていた。

 上空から見れば建物の外部構造くらいは判るだろうが、街の方から眺めた場合、外縁部にある建物や門で隠される為、聖天神殿の内部については外界の者達には詳しく知られていない。




 

 大神官に連れられ着いた場所は、外界からも神殿からも隔離された場所にあった。

 位置としては主塔の後方にある広い庭園内の中央にある建物。

 本殿と同じく白を基調としているその建物が、この神殿内で神の一枝専用の住処となる居宮[彩宮]である。



 隔離されているとはいっても、決して隠されている訳ではない。

 勿論、神殿内に居る者達だけでなく、一般の者にもその建物は見えるだろう。

 ただそれは、あくまで見えるというだけの事にすぎない。

 幾重にも施されている結界や神気による術で、選ばれた者しか立ち入る事の出来ない宮、それが[彩宮]であった。


 

 現在、この彩宮に立ち入る事を許されているのは、神の一枝でありこの彩宮の主となる晶貴。

 大神官と六名の神官長。

 そして、大神官と神官長達がそれぞれ選抜した神の一枝の世話役たち十名である。


 

 彩宮内でその十人の出迎えがあったが、大神官の「この者たちは後ほど紹介するとして、まずは食事を」という言葉で先に昼食を摂る事となったのだ。

 活動する時間である事を考慮してか、朝食よりも少し肉料理や野菜料理が多い。

 見知った料理ではなかったが、味付けは好みで、さっぱりとした飲み物と良く合う料理だった。

 


 給仕を受け一時間(タラン)ほどで食事を終える。

 食後のお茶は[テムー]という名の種類で、イルフェラム国で飲んだのとは違うものだった。

 烏龍茶と紅茶を合わせた様な香りのする、黄色に近い色のお茶。

 この国でお茶といえばこれ、という程一般的に飲まれているお茶らしい。






 晶貴がお茶を飲み終えるのに合わせて、大神官が世話役たちの説明を始める。


「シンディン様の護衛、および身の回りのお世話役として、まずは男女五人ずつ選出いたしました。この彩宮内の維持管理もこの者たちが行います。全員神官職にありますが、同時に騎士の称号を持つ神官兵でもあります」


 晶貴の前に整列した十人が無言で礼を成す。

 大神官は説明を続ける。



「この者たちが当座、この彩宮に滞在中、シンディン様と生活を共にする者達となります。当座、と申しましたのは人数の増、或いは人員の変更の可能性を思慮しての事にございます」

「減らすとかは?」

「彩宮は広うございます。シンディン様の御滞在中、この宮の維持管理を行う最低限の人員数が十人であるとお考え下さいませ」

「判った。で、増員というのは判るけど、人員の変更というのは何?」

「この彩宮は聖天神殿に御来訪なされている間のシンディン様の[家]でございます。寛ぐ事の出来ない家は苦痛でしかありませんからな。簡単に言うと、その者達がシンディン様と気が合うかどうか、という事です。シンディン様の御心に適わない者は別の者を選出し交代いたします。勿論、選出された者がシンディン様とは生活してゆけないと感じた場合も、別の者を選出し交代という事になりましょう」



 少し考え、晶貴が言う。



「…………仮に、人員を交代して貰った場合、その人物の評価が下がるとかいう事は?」

「陰口程度でしたら多少はあるでしょうな。ですが、陰口を叩く様な心根を持てば自身の神気が減少する事は周知です。また、交代されてしまった者も神の一枝様から嫌われた等の感情は持ちません。ただ、自分とは縁が無かったのだと、そう思うのみです」

「ま、その程度なら安心して変更できるか」



 ひとり頷きながら納得する晶貴。

 自分が気に入ったとしても、相手もそうとは限らない。

 誰しも苦手な相手というのはあるものだ。

 晶貴は、目の前に静かに並ぶ十人を見やり、大神官に言う。



「自己紹介は?」

「ございません」

「? なんで?」



 不思議そうに問う晶貴に大神官が応える。



「先程も申しましたように、この者たちはあくまで[当座]でございます。これより数日は[お試し期間]とでもお考え下さいませ。その後、シンディン様が御自身の傍に残すか残さないかを裁可され、認められた者のみが初めて名を明かすのが通例となっております」

「名前ないと、呼ぶのに不便なんだけど」

「では、色でお呼び下さいませ。私ども神官はその能力の方向性で、髪の色彩がこのように色とりどりに変化しております。見分けるには良い目印かと存じますが」



 自分を指し周囲の者たち全てを指し示す大神官。

 確かに皆、服も髪も白色を基調としているが、瞳の色と髪の一部が違う色となっている。







 自身にある知識によれば、神官職は望めば誰でもなれるものなのだそうだ。

 それまで神官を目指していた者も、それまで悪事を働いていた者も、平等に神官職に入る為の試練を受けられるという。

 必要なのは神官になるという意思と、それに見合う神気のみ。

 神気も、多い少ないではなく、質なのだという。




 神殿にて神官になるという意思を表明し、聖天へ祈りを捧げる。

 祈りが届けば、本来あった髪の色が、その場で真っ白なものへと変化するのだという。

 だから、新米の神官の髪は誰しも純白で他の色は無い。

 個々人のそれからの鍛錬で自身に見合う能力の種類に応じて、髪に白以外の色が出始める。

 一色だけでなく何色かの色が出る者も多い。

 一色ではあるが、その色が別の色へと変わる者も居る。

 けれどそれも、鍛錬精進してゆく中でそれぞれに見合った一色のみに落ち着く事が殆どだ。



 また、色がなかなか現出しない者も居る。

 色が現出したのに、それが消えて白へと戻る者も居る。

 だがそれは、決して色付きの者と比較して劣っているという事ではない。

 白は希望の色。

 何色にでも変われる待機の色なのだから。



 ちなみに。

 神官だからと自己節制している者も居るが、禁欲という形の強制はされていない。

 飲酒も恋愛も婚姻も、基本自由である。



 ただ、それらの欲も度を超すと情の均衡が崩れてしまう。



 一つのものだけを愛しすぎると、他のものが見えなくなってしまう。

 一つのものだけに執着するようになると、他を大切には思えなくなる。

 そういう事が重なり続け、それが神と人とを繋ぐ役割すらも忘れる程になってしまうと、神気が眼に見えて下がる事となる。



 つまり、白かった髪が神気を無くし、生来持っていたその者の地色に戻ってしまうのだ。

 勿論地色に戻った時点で神官としての位は無くなる。

 還俗するか、それとも神官職の試練をもう一度受けるか……或いは地色のまま神殿で神官の下働きをするかを選ぶ事となるらしい。

 

 

 



 目の前に居る世話役候補達の髪の色を眺め、晶貴はふと思う。

 横文字を除けば、こちらの言葉も問題なく伝わっている様子だし、相手からの言葉も問題なく自分に伝わっている様に思う。

 時間や距離などの感覚は刻まれた記憶で大体把握出来たので違和感なく使用していたけれど、色に関してはまだ確認していない事に気がついた。


『色の表現はどの辺りまでオッケーなんだろうな?』


 晶貴は室内を一度眺め、再度神官達を見まわし、大神官へ言う。



「色の呼称を確認したいんで、指差し呼称してもいいか? 私の言葉が通じない時は、その色の呼称を教えて欲しい」

「承知致しました」



 物や人を指しながら色を確認してゆく晶貴。

 

 金銀白黒赤青緑灰紫茶。

 水色や空色という、この辺りまでは同じだった。

 問題はこれからだ。


「藍色」

「……ガイ色、でございましょう。服などをこの色に染める際に使う植物の名となります」


「群青」

「海色、でございますな」



「レモン色」

「ソラン色、と申します」

「あ、昨日の夜出てきた酸味のある果実か」

「左様です」



「オレンジ色」

「ララ色、ですな。甘酸っぱい果実でございます」



「ピンク色」

「カリデ色、でございます」

「甘いとか説明のあった、あの飲み物の?」

「はい。この位の大きさの実が十前後集まる様に実っていて水分が多くございます」

「でかっ!」



 大神官の示した大きさは両手の人差し指と親指を円の形にしたものだったが、指と指の隙間が開けられていて直径にしておよそ十五センチ程はあるものだった。

 それが十前後集まっている様子を想像してはみるが、なかなか難しい。


『そのうち実物が生っている所を見てみたいもんだ』


 笑みを浮かべながら晶貴はさらに幾つかの色を問い、最後に聖霊を指差した。



「聖霊の様な感じに光る虫とか魚は居るの?」

「魚は良くは存じませんが、南方に居る虫の中にハックンと呼ばれるものが存在します。長い二本の触角の先が聖霊の様に光り明滅していて、人の魂の破片が宿っているとも言い伝えされています」

「へぇー……似た様なの居るのか」


 

 光る部分は違うが、蛍と似た様な言い伝えに晶貴の顔が綻ぶ。


「うん。大体の色は聞いたし、分からない時はまた訊く事にするよ」


 一応の質問を終え、晶貴は世話役候補達の方へと近付く。


「白、黒、灰、茶、赤、青、緑、紫、金、海……で、いいかな?」


 一人一人を指差しながら言う晶貴に、全員が無言で頷く。

 晶貴はにっこりと笑みを浮かべ、言う。


「余所余所しいのは好きじゃない。力に媚びる者も好きじゃない。おだてや褒め殺しも、真平ゴメンだ……言葉や態度がある程度丁寧なのは仕方ないので許す。だが意見はしっかりと口にしろ。相手が私であろうと、間違ってたら叱れ。それが出来る者だけしか要らない」


 神気の乗っている言葉をいきなりぶつけられた世話役候補の者たちの身体は、一瞬ぐらりと揺れた様に見えたがすぐに持ち直した。

 大神官や神官長達は余裕の笑みを浮かべる。

 晶貴も「ほう」という表情を浮かべた。

 大神官が笑みのまま言う。



「御安心下さいませ。その程度の神気で倒れる様な者は世話役の候補にも上れません」

「それはそうだろうな」



 晶貴も笑みを浮かべた。

 その様子に、大神官が問う。



「……御知りになりたい事は確認できましたか?」

「ん。ま、今のところは全員合格圏内って事で」

「御意に」



 勿論、あの程度の神気で彼らが倒れないだろう事は晶貴とて承知の上。

 知りたかったのは、彼らの表情(かお)


 表面をどれ程繕っていても不意打ちをくらえば、僅かでもその者の素が現れる。

 物品などに含まれる神気や神官達自身の放つ神気には慣れていても、神の一枝本人から放たれた神気など生まれて初めて味わうのだから尚更だ。

 神気を受け、繕っていた表面が剥がれ落ちた世話役候補たちのその素の表情……それまでの無表情な瞳ではなく意思と感情の見える瞳を……晶貴は好ましく感じた。




とりあえず、仕上がっている部分までをup。


体調も何とか回復してきているので、次週からはもう少し執筆速度が戻るかと思います。

感想場やメッセージへの返答は週明けてから致しますです。

応援有難うございますm(_ _)m

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