第 13 話 天頂の夢 こいねがう[ 4 ]
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大神官達は、晶貴が躊躇もなく聖樹へ向かう姿を静観していた。
聖樹の周囲には見た目、障害になるようなものはない。
支障なく歩を進められて当然ではある。
けれども大神官達の視線は、真剣に晶貴の動きを見つめる。
聖樹の傍らに到着した晶貴が静かにその両手を幹へと当て、自身の頬まで押し当てている。
すると聖樹の金色の輝きが倍増した。
晶貴は瞳を閉じたまま動かない。
恐らくは神書にあるように聖天との交感が行われているのだろう。
聖樹の黄金の輝きは、何度も明滅を繰り返す。
やがて。
大神官達が待っていた現象が到来した。
聖樹の、その大枝に芽吹いていた緑の葉がさらに増え、そして……金色の蕾が生まれる。
この位置からでは正確な数は判らないが、判別できただけでも五、六はあろうか。
その蕾が、次々に花弁を開いてゆく。
その花冠は、聖天と神の一枝の意思が完全なる接触を終えた事を表す。
それは聖天の歓喜であり、神の一枝の歓喜でもある。
そして、花冠の数が多ければ多いほど、神の一枝の心が聖天に近いという事を示す。
目を凝らして大枝を見れば、まだ多くの金色の蕾が葉に隠れている様だ。
ひとつ、またひとつと花冠が増え、それと共に膨大な神気が湧き起こり、この場を包む。
「…………ッ!」
神職にその身を置き、日々精進し自らの神気を高め、その神気の高さゆえに神官長となった。
驕りなどは毛頭ないが、神官長としての威厳とそれ相応の自負はある。
その自負をも叩き潰さんばかりの重圧な神気を受け、神官長達が次々に膝をつく。
最後まで耐えていた大神官も、とうとうその場に膝をついた。
皆同様に頭を下げ、聖樹に向かい叩頭する。
この神気は、神の一枝が本来持つ力に目覚めた証。
けれど、その力を発現している訳ではない。
これは……この神気は聖天と神の一枝の、ただの感情の揺れなのだから。
この神気に耐えられないという事は、神の体現たる神の一枝を護る資格すらない事になる。
大神官達は自身の神気を祈りで高めつつ、その場の神気が落ち着くのを待つ。
これが、歴代の神の一枝降臨に伴い、神官長以上の者だけがその身に受ける[神の試練]であった。
服が、髪が、肌が。
神気の勢いによって、びりりびりりと震える。
祈りで自身の神気を補ってはいるが、少しでも気を抜けば間違いなく意識を持っていかれるだろう。
神の一枝降臨というものは、只人の一生に一度有るか無しかの事。
だから、その存在は知っていても、その現出の世に居合わせる事自体が既に僥倖だといえよう。
こうして神職に就き、その神の一枝の最初の儀に参列を許された者である以上、この試練に打ち勝つ事は必然でなければならない。
何より、聖天から託される神の一枝の前で、無様な姿を晒したくはない。
各々の気概を心に乗せ、大神官達は祈りを続けた。
どれくらいの時間が過ぎたのか。
まるで、それまでの神気の勢いが嘘のように軽くなった。
神気はある。
けれども、その激しさが消え失せていた。
戸惑いながらも、叩頭礼のまま祈りを続ける。
そんな大神官達に声がかけられた。
「おーい。次は何したらいい?」
大神官達の身体が一瞬硬直し、弛緩する。
ともすれば抜けそうになる気を必死に押しとどめ、大神官は床に座した姿のまま顔を上げた。
「枝の聖花をお一つ、こちらへお持ち下さいませ」
「あー……そーだったそーだった」
軽い返答の後、晶貴は枝へ向けて左の手のひらを差し出した。
『ひとつ、おいで』
たった、それだけの思考で聖花は自ら枝を離れ、晶貴の手のひらへと乗る。
さくさくさくさくさくさく。
晶貴は、聖樹へ向かった時と同じ様に、軽い足取りで大神官の元へ歩む。
『えーと。何て言うんだったっけ?…………んー』
聖天との交感によって、様々な知識と記憶が晶貴の意識下に埋まっている。
ただ慣れてないので、まだ上手く引っ張り出せずにいたが、僅かな間の後、すぐに思い出した。
大神官は四肢を床に付けたまま、静かに言葉を待っている。
晶貴は、言葉に神気を乗せ、ゆっくりと言う。
「我が身より零れた欠片を、聖天神殿大神官モノティア・レグルへと預ける」
左手に乗せている聖花を大神官に向け、軽くふっ、と息を拭く。
聖花は、まるで生き物のように宙を飛び、大神官の胸の前で動きを止める。
大神官はその聖花を両手で押し戴いた。
「黄金の妙なる聖花。聖天神殿大神官モノティア・レグルが、確かに御預かり申し奉る」
聖花は枝にあった時と同じく、明滅を繰り返している。
大神官はその聖花を、自分の胸元にある飾りへと近付けた。
すると、首から下げられていたその飾りの前に聖花が浮く。
飾りに直接くっついている訳ではなく、まるで磁力か何かで引き合っている様な感じだった。
それが終わると、大神官は改めて晶貴にゆっくりと頭を垂れる。
「聖天リ・ラ・リリゥ様の体現にして、人に近し心持つ神の一枝様の御降臨、至極随喜にございます。降臨後より、この[接受の儀]迄の間の御無礼の数々、御容赦を賜わります様伏して御願い申し上げ候」
一度そこで言葉を切り、大神官は晶貴を見る。
「我、聖天神殿大神官モノティア・レグルの名に於いて、神の一枝ラキ・シンディン様を聖天樹彩主として世界全土に公示する由、御允許頂けますや?」
「認めよう」
大神官の言葉に間髪いれずに返答する晶貴。
互いの言葉が神意を纏い、金色の二筋の帯が大神官の胸元の聖花に吸い込まれてゆく。
聖花は一度だけ青白く発光し、元の金色に戻った。
晶貴が「ふぅ」と軽く息を吐く。
「本日の儀礼、これで終了~……あー、お疲れ様?」
何だか、えらく疲れているように見える大神官達に声をかける晶貴。
大神官達は無言のまま、ゆっくりと立ち上がった。
「大神官と、えーと。多分神官長さん達だと思うけど。貴方達にも許可するから、言葉も態度も少し……いや、思いっ切り砕けて。あと、名前とか判らないんで自己紹介もよろしく」
気軽な言葉だが、しっかりと神気が乗せられている。
その事に気が付いた神官達の顔に、それぞれ苦笑が浮かぶ。
「困りましたね、言霊縛られましたよ?」
「うわ……言葉がほんとに口から出せない」
「恭順の誓い、この後にしておこうと思ったのにー」
「良い判断をお持ちでいらっしゃる」
「ふふ。わたくし共の予定など、通用する筈もないでしように」
「面白い。こういう事を体験するとは」
あれこれ呟く神官達の傍で、大神官も笑みを浮かべて口を開いた。
「改めて、私からもう一度自己紹介を致しましょうか?」
「いや……大神官はもういいんじゃないの? 何回も聞いたし、覚えちゃったよ」
「では、大神官ではなくてモノティア。あるいはモノ、と」
「はい?」
思わず首を傾げる晶貴に、笑顔のままの大神官が言う。
「齢も六十を超え、大神官と言う要職におりますもので。なかなか私を只のモノティア・レグルとして見てくれる者はおりません。シンディン様は私よりも上位の御方、私を敬称なしで呼べる唯一の御方なのです。……年寄りの我儘と思って頂けませんか?」
じっと大神官の瞳を見、晶貴は「ふむ」と呟き、言葉を繋ぐ。
「『思い切り砕けて』位の[言霊縛り]じゃその程度か。イルフェラム城内で『緊張解いて、素の状態で、話』ってやった時は本当に言葉だけで態度が崩れなかったからね。態度ごと縛ったらどうなるのかを見知っておきたかったんだが」
大神官も「成る程」と頷く。
「先だって、この身に護りの結界をしているのだと御説明致しましたでしょう? それでも、使われましたのが『完全にとっぱらって』辺りの強い縛りでしたら、恐らくはこの結界も砕けてしまうかと。ああ、そうですね……[接受の儀]で私の心身も護りが付加されている為この程度で済んでいるのだと考えると……先程の、シンディン様を[彩主]として祀る[接受の儀]の前に言霊縛りを使われていたとしたら、少々危なかったでしょうな」
「どの位危なかったんだ?」
「そうですね……私はもうこの歳ですから、性的なお付き合いは無理がありますので。『下僕にして下さい』程度には危なかったかと」
「……っ、あはははははは!!」
大神官の返答に大笑いする晶紀。
暫くすると大笑いは止まったが、晶貴の口元は、まだ笑っている。
笑いが収まるのを待っていたのか、大神官が再び言う。
「言葉は礼を欠いたとしても、大抵は些少な結果で済みます。ですが、態度に関してはそうはいきません。態度から礼を外してしまえば、その時に相手が何を感じていたかによって結果が多岐過ぎます。そういった言霊を使う場合は、きちんと信頼できる相手にだけお使い下さいませ」
「何だ、神の一枝に説教か? 私は、言動の自由が保障されてる筈だよな?」
「……先程、言葉と態度に[対等]という言霊を乗せられたのは、どなたです?」
「それもそうだ」
満足気に晶貴は頷いた。
対等を許す。
ただそれだけの事でも、不用意にそれを相手に与えてしてしまうと確かに大変な事になるだろう。
位の高い者が、ただの配慮として許したかもしれないそれを、自分がさも特別扱いされているのだと勘違いし「厚意を受けた」「懇意にしてもらっている」と考える者は少なくない。
そしてそれに欲得が絡み、懇意を受けている者からさらに懇意を得よう……と、砂糖菓子に群がる蟻のように奇妙な順列が出来てしまう素因ともなる。
そういったものが人物間、或いは集落間と大きくなってしまえば、やがては諍いを引き起こすことにも繋がってしまう。
羨望や妬心からくるその想いが、国家間の戦にもなり得る事を晶貴は識っている。
それでも言葉だけなら、ある程度の対等も有りだろう。
けれど態度……行動まで対等を許すと色々困った事も湧き起こる。
先程の大神官が言った言葉がそれを物語る。
あの時……大神官に聖花を渡す[接受の儀]の前。
意識は自身の肉体へと戻ったけれど、聖天と交感した直後だったから、その神気の移香の様なものが自身を覆っていた。
その為、それまでには無かった神々しさが晶紀自身からかなり出ていた形になる。
大神官は最初から晶貴を……神の一枝を[性]の対象としては見ていない。
だからもし、神々しさを感じているあの時に今と同じ[言霊縛り]をしたとすると、それに対する畏怖や畏敬の感情だけが強く出る事になる。
その『生命も肉体も貴方様の思うままに』という感情を『下僕にして下さい』という言葉に置き換えたのは[対等]を求めた晶貴へ対しての、大神官の精一杯のお茶目だろう。
では、もし[性]というものを普通に感じる一般人を相手に、今回と同じ事をしてしまうとどうなるか。
さらりと想像してみた晶貴だったが、脳裏に浮かぶ結果にろくなものはなかった。
神力を持たない一般人が、言霊の力とはいえ[対等]を意識してしまえば、その強制力によって無意識にその命を貫こうとするだろう。
神の一枝という枠を外し、晶貴に対し、ひとりの人間として相対するようになる。
そこまではいい。
ただ、それも相手がその時の晶貴に特殊な想いを感じていないという条件が居る。
もし、晶貴を[性]の相手として夢想でもしていた者だったとしたら。
態度や、行動の制限も取り払われているとしたら。
感情の暴走は、行動の暴走へと向かう事が多い。
暴走の強弱も相手次第ではあるが、最悪、晶貴にとっては犯られるという、あまり好ましくない状態になるだけで済む。
勿論[性]に限らず、その感情が[嫌悪]や「怨嗟」であっても同じ。
晶貴を傷つけようと暴行に走る場合もあるだろう。
だが、晶紀自身はそのどちらをも自分の招いた事だからと許容してしまう可能性が高い。
晶貴の意思が聖天の意思である以上、周囲を説き伏せる事も可能だ。
問題は別の所にあった。
問題は、傷害暴行であろうが性的暴行であろうが、それが大抵感情の暴走によるものだ……という事。
例え本能的なものが混ざっていたとしても、所詮暴走は暴走でしかない。
狂人でもない限り、人が暴走し続けるという事は不可能に近い。
つまり、いつかは正気に戻るのだ。
感情の嵐が収まって、いつもの自分の意識が戻るにつれ、やがて自分のしでかした事を知る……知ってしまう。
信仰の深い者ほど、その心に受ける衝撃は大きいだろう。
聖天という唯一神の体現である神の一枝。
神と同格とされるその身を、犯し傷つけたという事実。
その重さに果たして耐えきれるのかどうか。
本人が耐えきれたとしても、その親族や友人、或いはその事を見知った赤の他人が、果たしてその人物の行いを許し、擁護し続ける事ができるだろうか。
他者から見放されてしまえば、惨憺たる結末が待っているだけだ。
そこまで考え、晶貴はもう一度、大神官の言葉を噛み締める。
無暗に説得するわけでもなく、力任せに話を叩き折るわけでもない。
ただ、淡々とした説明と提案のみの言葉。
それだけなのに、心がふんわりと暖かくなる。
神の一枝と言う至高の存在だから、何をしてもいい。
けれど、神の一枝自身が傷つく事は、出来ればして欲しくない。
その、大神官の優しさと心配が伝わる。
晶貴は大神官をちらりと見、笑みを浮かべたまま床へ視線を落とす。
『何か、やっと理解出来た気がする』
父母というものが本当はどんなものなのか、実際晶貴は良く判っては居なかった。
これまでの人生で色々な家族を見てきたけれど、あくまでそれは他人の家族。
自分も養ってもらっては居たけれど、その中に父母と呼べる者はいなかったし、この身体では父にも母にもなれない。
養子を迎えたり結婚したりと、家族というものを作る事は出来るだろうが、父母を知らない自分が、父母としての愛を子に与えられるだろうか?
誰かと結婚する事が出来たとして、相手の両親が自分を受け入れてくれ、実子の様に愛してくれる確率はどれくらいなのだろう?
そんな事をつらつらと考えていた時期もあった。
けれど、その思いは既に過去の事と割り切れる。
父の顔も名も知らなかった。
母の顔も名も知らなかった。
けれども、こちらの世界へと来て、母と言う存在をやっと知った。
実母の愛を知った。
魂の母の愛も知った。
『解ってしまえば簡単な事。あっちの世界で父が居なくて当たり前だよ……』
晶貴は軽く瞳を閉じ、笑みを強めた。
『こっちに、ちゃんと居たんだな……おとうさん』
幸せを、噛み締める。
晶貴の顔が上げられる。
「忠告をありがとう。言霊は選んで使う事にするよ…………モノ」
「……意を汲んで頂き、ありがとうございます」
大神官の瞳が、喜びの感情を伴って細められた。
晶貴も嬉しそうに微笑み、視線を他の六人へと向ける。
「さて、こっちの話も終わった事だし。貴方達の自己紹介をよろしく。あ、儀礼は最小限で」
神官達は晶貴の言葉に一度顔を見合わせ、再度晶貴へと顔を向けて頷いた。
予め順番を決めてあったのか、最初はやはりあの肩位までの白髪に赤髪の交じる女性だ。
一歩前へ出、腰を折る。
少し癖のある髪が、ふんわりと揺れる。
「土の神官長に就いております、アムル・カントと申します。齢は五十、神官長の中では一番年かさとなります」
正面から見て、初めてその瞳が薄い灰色だと知る。
晶貴は次を指名する代わりに頷いた。
次に進み出たのは、薄緑色の瞳に、白髪に金髪が交じる男性。
髪は長く、少しウエーブがかかっていて腰位まである。
「わたしは光の神官長を務めております、カッタード・モレスと申します。齢三十の男にございます」
雰囲気と声質で男性だとは思っていたが、黙っていれば確かに判りにくい。
改めて男だと明言するあたり、女性に間違われる事が結構あるのだろう。
晶貴は軽く、頷く。
次に足を踏み出したのは、スポーツ刈りが少し伸びた様なツンツンした髪の男性。
白髪に交じるオレンジ色と真っ赤な瞳が印象的だ。
「自分は火の神官長に就いております、 カルナ・サラと申します。歳は二十九、見ての通り無骨な男にございます」
服に隠れている為はっきりとは判らないが、無骨と言うその身体は、太くはないが鍛え上げられている様にも見える。
晶貴は頷いた。
次の者は、ふくらはぎの辺り迄はゆうにありそうな長い直毛の女性だった。
白髪に交じる紺色は、瞳と同色。
「わたくしは闇の神官長を拝名しております、キサラーク・ニアと申します。歳は二十五、女性にございます」
物腰が優雅なのは生まれついてのものなのか、それとも生活によるものなのだろうか。
礼を成す度にさらさらと流れる髪が印象的だ。
晶貴は頷く。
次の者は、この場に居る中で一番背が高く、瞳はきらきらと輝く水色。
背の中ほどまである直毛は途中紐で結えられ、白髪にはっきりとした紫色が交じっている。
「俺は水の神官長の任を頂いている、ムスティーノ・トレファムと言います。二十二歳になったばかりの男です」
言霊が効いているのか、わりと砕けた物言いと、同い年という事に親近感が湧く。
少しだけ目を細め、晶貴は頷いた。
最後の者は、この中では一番若く見える。
肩よりも少し長めの、まるで静電気でも起きているのかの様にふわふわと揺れている髪には、濃い緑色が白髪に沢山交じっていた。
青色の瞳は大きく、辺りの物を反射させている。
「僕は風の神官長をしています、ヒューリヒ・ムントと言います。よく普通の神官や神女と間違えられますが、十八歳の男です」
確かに可愛い顔立ちをしているし、おまけに声が男性にしては結構高い。
間違うなという方が難しいかもしれない。
晶貴は納得も含めて頷き、皆を見渡す。
「自己紹介をありがとう。時折名前とか間違えるかもしれないので、その時はもう一度教えて欲しい」
そう言い、一度言葉を切り、再度口を開く。
「神の一枝としてここに居る、新田晶貴……こちらでは、ラキ・シンディン、かな? 歳は二十二、両性具有者だ。これから、よろしく」
軽く頭を下げ、皆へ腰を折る。
一瞬、神官達の息を呑む音が聞こえた。
頭を上げ見渡すと、神官長達はそれぞれ驚いたような顔で晶貴を見つめている。
平静を保っているのは大神官だけだ。
そちらへ視線を向けると、大神官は苦笑を浮かべた。
「公では、お止め下さる様、お願い致します」
「承知している」
「ああ、それと……シンディン様、もうひとつ言い忘れていた事が」
「なに?」
勿体ぶった大神官の口調に、軽く問いかける。
大神官は、にこにこと笑みを振りまきながら晶貴へ言う。
「神職に就いている者とも、恋愛は自由です」
「は?」
「ここに居る者たちも、全て独り身でございます。御用の際はいつでもお声掛けくださいませ」
愉しそうな大神官の言葉に、晶貴は小さくぽそりと呟いた。
「乙ゲーとかギャルゲーじゃねぇっての」
その言葉が聞こえているのか居ないのか。
「……何か、仰いましたか?」
おとうさん。
何か、笑いが黒くないですか?
「いや、何も」
父と思うのは心の中だけにしておこうと思う、晶貴だった。
大神官、愉しそうです(笑)
晶貴さんがんばれw