第 1 話 待ち人来らず、光り来る
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「ごめんねー!」
「いいよーっ。彼氏によろしくね」
「今度何かおごるから許してー」
「んー。楽しみにしてる」
駅前にある彫像の傍、携帯で会話をしていた女性は通話を切りジャケットの内ポケットへそれを滑り込ませた。
季節はもう12月。
暖冬予想と言われながらも、肌に当たる風は日を追うごとに冷ややかなものへと変わってきている。
『寒っ……やっぱ手袋してくれば良かったかなー』
両手を口元へと寄せ、「はぁー」っと軽く息を吐く。
僅かながらの暖気は冷気にさらされ、あっと言う間に消えてなくなる。
1週間前から約束していた友人との夕食だったが、久しぶりに定時で終業できたという恋人が相手では勝ち目はない。
年末は何処も彼処も気忙しいものだ。
元々、どこかの店を予約していたのではなく、合流して食指にあった店で飲食をするつもりだったので、誰かに迷惑をかけるわけでもない。
問題があるとすれば、外食予定だった彼女にとって、このまま家に戻っても冷蔵庫の中にはろくな食材がなく、調理してから食べるという気力が萎えているという事くらいだった。
何分、現在時刻は8時半を過ぎている。
これから帰宅がてら買い物をして自宅に戻り、それから調理して食べるとなるとあと1時間以上はこの空腹と戦わないとならない。
途中で弁当を買うのもアリだが、今日は昼食も弁当だったのであまり気分が乗らない。
かといって、1人で豪華な食事もしたくない。
他の誰かが一緒だからこそ、そういう食事が楽しいのだから。
『どこかで簡単に済ませますか……』
小さく肩を落として、彼女の足はクリスマスイルミネーションで輝く街並みへと進む。
よく行く店でパスタを食べ、軽くワインも飲んだ。
店を出、街頭の時計を見上げれば、時刻は9時半を指していた。
辺りを行き交う人々は表情も行動も様々。
ショーウインドーを眺めるカップル、帰宅を急ぐサラリーマン、プレゼントの包みを持つ男性や女性。
もうすぐクリスマス、そして年末年始。
この賑やかさは嫌いじゃない。
自分に向けられた優しさではないけれど、それでも何か……ほんわかした温かい気持ちになれる。
空腹が満たされ、アルコールが身体に入った事で少しだけ寒さが和らいだのか、彼女の足は帰宅の途である駅ではなく、反対方向にある公園へと向けられていた。
木々に囲まれ、遊具もある、さほど大きくもない公園。
企業の建物と建物の間にある公園なのだが、通り抜けは出来ず袋小路な形となっている。
その為、昼は子供たちやその母親で賑わっているけれど、夜ともなると人は殆どいない。
照明はあるが、椅子や地面を照らすように灯りを下部に向けている。
公園へと足を踏み入れた彼女は、その照明の裏手にある木々の中へと向かい空を見上げた。
『ビンゴ。新月はここに限るわー』
見上げた空には星が見える。
建物に街の明かりが遮られているので他の場所よりもはっきりと星が見えるのである。
小さな頃に居た場所はもっと沢山の星を見る事が出来た。
時代の流れもあるのだろうが、都会で一人暮らしを始めて、見える星の少なさに残念さを感じていた。
プラネタリウムも好きだが、やはり本物が一番いい。
飲み会の帰りに偶然見つけたこの場所に、彼女は何度も足を運んでいた。
『これからもっと疎遠になってくんだよね……多分』
星を見ながら、先ほどの電話の相手の事を考える。
元々、そんなに友人と呼べる者は少なかった。
そして、その少ないながらも居た友人たちは皆、就職や恋人の出現に伴って次第に交際時間が減少の一途をたどっていた。
遊んだり食事したりという友人が一人減り二人減り、先ほどの彼女が最後の一人。
その彼女にも先月恋人が出来て。
そろそろかな? と考えていたのでショックはそんなにはない。
ただ、一人の時間が増えただけ。
『そのうち……自分にもそういった大事な人が現れるのかねぇ?』
ほんの少しだけ、自嘲した笑みが浮かぶ。
と。
視界の端に何かが入った。
『ん?……何だアレ?』
少し離れた奥にある樹の近くに、まるで蛍の様な光が明滅している。
けれど、流石に冬に蛍はあり得ない。
彼女は興味に駆られてそれへと近づいた。
光は、虫や何らかの器物が発光しているのではなく、本当にただ光だけの存在だった。
『わお。あなたの知らない世界、系?』
そんな事を思うが、光は決して恐怖を感じさせるものではなかった。
丁度自分の胸の辺りの高さにあるその光は、まるで街中のイルミネーションのように、色々な色に変化しているが、よくあるLEDのように冷たく刺し込む光ではない。
暖かくて柔らかい雰囲気の光り方で、ゆっくりとゆっくりと色が変わってゆく。
近付いていっても、消える様子も逃げる様子もない。
ただ、そこに浮き、光っている。
『綺麗なひかりね』
目を細め、そう思った瞬間。
【見つけた】
頭の中で声が聞こえた。
『はい?』
自分の耳……というか脳を疑ってしまう出来事に悩む暇はなかった。
【最強の盾、見つけた】
『え?』
そんな声と共に、光が彼女の胸へと飛び込んできた。
光に手が届く辺りにまで近付いていた彼女には、それを避ける事が出来ない。
痛みもなく胸に飛び込んできた光は、そのまま彼女を覆い尽くした。
淡い光が彼女を包み、そして消える。
光が消えた後には何もなかった。
光も、そして彼女の姿も。
目の前が一瞬光に包まれ、眩しいと思う間もなく景色が変わった。
「!!」
足に地面がついてない状態というのか、もしかして浮いてるのかという感触。
目の前に見えたのは黒い髪にオレンジの瞳をした人間らしきもの。
そして同時に、背中に今まで感じた事のない大きな衝撃を受けた。
痛いとかいうレベルじゃなく、死ぬって! っていう位の衝撃。
宙に浮いている感覚だったのが、一瞬で重力に捕まる。
地に足がついた瞬間、先ほど受けた衝撃の強さで意識が朦朧としてきた。
目の前の人らしきものの、そのオレンジの瞳は瞬きも忘れて見開かれている。
『こんな色彩のニンゲン、見た事ないよ』
そう思ったのが最後の記憶。
彼女……新田 晶貴はそのまま意識を失った。
久しぶりに文章を作るので、きちんと連載できるか不安ですが、感想叱咤激励誤字脱字等いただけると嬉しいです。