第四話
これは肉の焼ける臭い。
獣…いや、ちゃんと処理された牛の肉だな。
それにスープか? 煮込まれた香りがする。
香草や鶏など様々な物が入っているのだろうか…とても芳醇な香りとなっている。
これは一般の家で出せる香りでは無いな。
というかここが猫の踊り場なのでは?
「すみません、こちらが猫の踊り場であっていますか?」
「いらっしゃい! うちが猫の踊り場だよ! チェックインはこっちだよ!」
「ではお願いします」
「はいよ」
「あの…ルインツァルト様の紹介なのですが」
そう言って例の紋章を見せる。
すると女将さんはちょっとびっくりしたような声を一瞬上げていた。
こんな子供が紹介されてきたら、そうもなってしまうよね。
「ルインツァルト様の…。 分かったよ! ところで何泊予定だい?」
「特に決めてはいません…」
「そうかい? あぁ、丁度従業員用の部屋が一つ余ってるんだよ! そこなら、タダで泊めてあげれるよ」
「それは流石に悪いですよ!」
「ルインツァルト様の知り合いから金取ったらもっと悪いよ!」
「で、ではお言葉に甘えて…」
「あぁ、食事だけは代金をおくれよ? まぁ、とりあえず今日はタダでいいさ! 明日はどうするんだい?」
「明日は迎えが来るとの事なのでギリギリまで食事は分からないです」
「はいよ! 冒険者や旅人なんてその日暮らしさ! そういう対応が出来て当然だよ」
凄く良心的な気がする。 他の宿に行った事が無いから分からないけれども。
しかし、妙だな。
先程から遠巻きに視線を感じ続けている。
女将さんやルインツァルト様のものではない。
いや、俺の村の関係者でもない。
誰だ?
まぁ良いか。
「じゃあこれから食事を出すから、そこのテーブルに座ってな? ってアンタ目が見えないのか…」
「はい。 ですが、感覚で分かります」
「はぁ、凄いもんだね。 まるで見えているみたいだ。 心眼とでも言おうかね」
「それはとても凄い騎士のお話に出て来る技じゃないですか! 一緒にしてしまっては失礼ですよ!」
「細かい子だね…。 そのくらい凄いって自覚した方が良いのにねぇ。 まったく…」
そう言ってすたすたと歩いて食器を取りにいった女将さん。
面白い人で良かった。
これなら泊まっていても苦痛は無さそうだ。
「ほれこれはガリックカウステーキと、チキンスープだよ、あとパン。 パンは食べ放題だよ。 うちで焼いてるからおかわりはいつでも言っておくれ! すぐに持ってくるから」
「はい!」
と言っている間に結局パンのおかわりを四回もしてしまった。
恐ろしい。
下手な魔物や下手な盗賊なんかよりよっぽど恐ろしいかもしれないぞ、ここの料理。
半分意識が無かったのだから。