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2011年3月12日(土)

 まんじりともしない夜が明けた。TVは一晩中、地震の報道をしていたようだ。

 地震が地震を誘発するのか、余震ではない他の地震が頻発しているとのことだった。マグニチュード6を超える大型地震が、福島県沖・茨城県沖・長野県などを震源地として連続で発生し、各地で当たり前のように震度5や6に達しているらしい。

 地震のマグニチュードは、その後さらに改正されて9.0とされていた。阪神大震災の180倍のエネルギーに相当するらしいが、規模が大き過ぎて、もはや見当がつかない。

 茨城県の海沿いの町に4mの津波が到達したらしい。高校時代の恩師・T先生の住む町だ。心配になり不通を覚悟で電話をかけてみる。奇跡的に一度でつながった。

 電話に出たのは先生ご本人で、ご家族・お宅ともに無事とのことで一安心した。昨夜は避難所に退避したらしいが、今朝がた帰宅されたらしい。一段落したら、お互いの無事を祝して呑もうと言われ、必ずと約束した。

 また、福島県の原発(福島第一原発)が地震によってその機能を停止し、いろいろと不具合が生じているようだった。原子炉の冷却水位が減少しているだの、発生した水素で炉の内部が高圧状態になっているだのと報道されている。多少不安ではあるが、ジタバタしても仕方がないので、経過を見守ることとする。


 その日は以前から、会社の先輩らと麻雀を打つ約束をしていた。面子の実家はいずれも大したことはなかったようなので、予定通りに集まっていつもの雀荘で打ち始めた。

 打っている最中も何度か余震を感じたが、そのうちの一回は、体格の良い雀荘メンバーが後ろを歩いていただけのことだった。

 また、一度は照明が点滅し、停電するのではないかと思われることがあったが何事もなかった。

 そして、盛大に小四喜に放銃した…。

 打っている間は携帯電話のニュースを時々チェックして情報を得ていた。とあるお笑いコンビが気仙沼にて被災したらしい。

 彼らはブログを公開していて、その日も一日の行動を逐一アップしていたようだ。覗いてみたが、地震の前後で全く内容が異なっている。地震の一時間ほど前まで普通に海岸の風景写真がアップされ、「ラーメンが旨かった」などと書かれていたのに、その後は一転して被災地の様子を中継する内容に変わっていた。

 「さっきまでロケをしていた場所は流されてもうありません」という一言が重い。

 よく読んで見ると、地震直前に潮吹き岩で有名な岩井崎に行った内容があったが、

 「引き潮なのかな、なかなか高く吹き上げない。こんな時もあるんだ」などと書かれていた。今思えば、地震の予兆だったのかも知れない。

 22時半過ぎ、父親よりメール受信。実家はガスのみ復旧したらしい。飲料水確保の為に給水所に6時間半並んだとのこと。余震も頻発しているらしい。心配になり、生活用品や食料を持って帰省しようかとの提案メールを送信したが、返信はなかった。

 結局23時頃まで麻雀を打ち、上がろうとした時に今度は知人Aからのメールを受信。いわゆるチェーンメールで、なかなか長かったが概ね次のような内容。


・コスモ石油爆発(千葉)や原発の冷却水減少(福島)の影響で、1~2日以内に首都圏を中心に放射能を含んだ降雨がある。傘やカッパの準備をすること。

・放射能の体内吸収を防止する為に、今日から毎日海藻類を食べ続けること。

・福島原発の放射能被害はチェルノブイリのそれより甚大。危機感をもって、このメールを周囲の人に転送すること。


 よく読んでよく考えれば、なかなか矛盾点の多い内容ですぐにデマと分かりそうなものだが、この混乱で判断力も低下しているのか、信じ込んでしまっているようだった。

 しかも、情報源として「座間市役所の知り合いの方より」の連絡とある。

 …なぜ千葉とも福島とも関係のない座間(神奈川)なのか。

 …「知り合い」であって「役所の人」ではないのか。

 …コスモ石油で放射性物質は扱っていない。

 …炉心溶融も起きていない福島原発(※2011年3月12日時点)が、チェルノブイリより危険な筈はない。

 …地震から1~2日の首都圏は晴天だ。

 …放射能は雨具では防げない。

 ツッコミ所が満載でもはや滑稽だ。

 しかし、この非常時ではAでなくとも判断力が欠如する人も多いと考えられ、混乱に繋がる可能性がある。すぐに返信メールを送り、これはチェーンメールであり安易に送ることは控えるべきであることを伝えた。

 それに対する返信はすぐに来た。が、どうやら理解してもらえなかったらしい。意訳すると以下のような内容。


・メールは自分の知人からのもの。一方的にデマだと決めつけるな。

・知らないよりは知っていた方が良いと思って友人知人に回している。カッパでも、無いよりはあった方がマシなはずだ。

・安易な気持ちで送ってはいない。信じないなら自分ひとりで無視していれば良い。


 完全に逆切れされてしまっている。さて、どうしたものか。

 昔から、信じ込んだら一直線なタイプだった。今回は、その純粋さが裏目に出たようだ。

 しかし、今度ばかりは自己満足を放置する訳にはいかない。情報を真に受けて、海藻を採りに海岸へ行く人が出る可能性だってある。被災地の沿岸部は、まだ津波警報が解除されていない。

 とはいえ、電話はまず不通状態。仕方がないので、チェーンメールの内容の矛盾点を一つひとつ挙げ、デマ情報であることを理解させるメールを送信することにした。

 どうやらかなり悩んでいるらしく、その後1時間近く返信はなかった。もしここでさらにゴネてこようものなら、罵声メールを送りつけてあとは知らん顔をしているつもりだった。

 しかしその後、ようやく理解してくれたのか、Aから「もう送っていない」と返信が来た。やれやれだ。


 茨城にいる父親からはまだ返信がなかった。停電が続いているようなので、早々に寝てしまったのだろうか。試しに、妹の方にも同内容のメールを送ってみる。

 すると、こちらはほどなく返信が来た。少し前に停電が解除されていたらしい。父親はさっそくTVにかじりついていて、私のメールに気付かなかったようだ。

 妹からのメールは、私からメールが来ていることを父親に伝えるというのと共に、道路がところどころ陥没していて危険なこと、水道以外のライフラインは復旧しているのでさほどの心配はいらないこと、よって慌てて援助してもらう必要はないとの旨が、感謝の言葉と共に記されていた。

 その後まもなく父親からも返信があり、気持ちは嬉しいがすぐに援助の必要がない、との言葉がこちらにも記されていた。

 道路状況を見てみると、開通したばかりの北関東自動車道を含め、高速道路は軒並み通行止めのようだった。この時点で迅速な帰省は困難だったし、話に聞く状態では私が帰省してもかえって迷惑になる可能性が高いようだ。ここは父と妹の言う通り、帰省を見送ることにした。


 そんなこんなで、もうだいぶ遅い時間になってしまった。

 お互いの安否確認や状況報告をし合うメールの総数は、今日までに送受信を合わせて50件を超えていた。これからまだまだ増えそうだ。

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