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 1学期末テストが終わり、今年も学園祭の季節がやってきた。


 今年も私のクラスは劇をやるらしい。衣装や小道具作成の手伝いをしていたが、ゆかりちゃんから送られてきたメッセージによって私の手が止まった。



「ようやく完成しました!!!!!!どうでしょう!!!!!」


「1枚の画像」


 七色のグラデーションを背景に、様々な動画のサムネイル。空さんたち特有のキャラクターや実際の4人の姿もある。画像を切ったり貼ったりしながら作成したのだろうが、合成には思えないほどのクオリティだった。すかさず返信する。


「すごい!めっちゃ良いやん!ゆかりちゃん天才やな」


「SEDOさんに送っとくね」


 追加したばかりのSEDOさんのアイコンをタッチする。東京スカイツリーをバックに両手を上げてピースしている、なんともSEDOさんらしい写真だ。



「お疲れ様です。前田りこです。モザイクアートのデザインができたため送らせていただきます」


 そう一言添え、ゆかりちゃんから送られた画像を貼った。


 大きさは、A3用紙200枚分に決まった。縦約4メートル、横6メートルになる。2人で手分けして行えば100枚にはなるが、1日1枚完成させれば本番までには間に合う。これから夏休みに入ることもあり、勉強の合間にでも行えば完成はできると思う。


 しばらくして、SEDOさんから返信が入った。



「おぉ!すごいね!!」


「じゃ、こっちで印刷は進めとくね!次の打ち合わせで持っていけたら渡すから!」


 ありがとうございます。そう送ると、よく分からない表情をしたお化けのスタンプが返ってきた。




 作業に戻ろうとすると、クラスメイトの1人があたふたしていることに気づいた。

「衣装を縫う糸が足りひん!このままやと作れへん!」

ミシンで制作していたグループ全体が、やがてどうしよどうしよと慌てふためき出す。

「届出を提出したら買いに行けるんやろ?行くしかないんちゃう?」

「ほんまやな。でも俺らこっちやらなあかんし・・・」

「誰か手空いてる人おらん?」


 学級委員の1人があたりを見渡す。ほとんどが目をそらし、作業を進めている。小道具制作の続きをやろうと体を動かした時、それが学級委員の目にとまってしまった。







 今年の夏は特に暑かった。汗だくになりながら近くのショッピングモールに足を進める。「急ぎめで!」とは言われたが、正直走る気力などなかった。衣装係はほとんどが劇に出演するメンバーのため、今の間は演技の練習でもしているはずだ。今年も何の役も行わない私が選ばれたのは、もしかしたら必然的だったのかもしれない。


 目的の色の糸を買い、領収書を貰う。その店の隣に本屋があったため、少しだけ中を覗いた。


 雑誌コーナーには有名な俳優や、私たちと変わらない年齢の女の子がポーズを決めているものなど様々なものがあった。


 目を凝らしてみると、「相田ゆかり」と小さく書かれている雑誌を見つけた。これは昨日出たばかりのもののようだった。私もまだ持っていない。中のページを見ると、ゆかりちゃんを含む4人のモデルが黒い服を身に纏い、こちらを睨みつけていた。


 今まで見たことのない表情に、一瞬身体が強張ったのが分かった。メイクもあるのかもしれないが、やはりその表情は大人っぽく、長い黒髪がさらに色気を増長させていた。今までの明るく元気なゆかりちゃんはどこにもおらず、年下にも見えなかった。


 いつもならば購入していたが、財布ひとつでここにきた私がこれを持ち帰ってしまえば一発でバレてしまう。放課後にでも買いに来ようと店を出ることにした。


 ゆかりちゃんから、その日メッセージは来なかった。






 





 7月末。夏休みに入って1週間が経った。


 1ヶ月ぶりに東京に足を運ぶ。今日の打ち合わせで、行う企画などの詳細が決まる予定だった。私が呼ばれていないときにも何度か打ち合わせが行われており、グッズ制作なども進められているようだった。


「・・・あれ、相田ちゃんとミミさんは?」


 集合時間になったが、ゆかりちゃんと今回のイベントに出演するゲストのミミさんがまだ来ていなかった。デザインに関してのやりとりの後は、連絡を一切行っていなかった。


「ミミさんは電車遅れてるから間に合わなそうって来てた」

「あ、まじで?相田ちゃんは?」

「あの子も電車遅れかな?前田ちゃんの方連絡来てる?」

「いえ、特に・・・」

スタッフさんの方にも連絡は入っていないようだった。心配になって連絡を入れてみるが、既読はつかない。


 それどころか、3週間前のやりとりでさえ既読がついていなかった。何かあったのだろうか。


「とりあえず、先に始めよっか」


 空さんの言葉で、関係者全員が書類に目を通し始めた。もしかしたら遅れて来るかもしれないし、彼女が来たとき、分からないことがあれば答えられるようにしようと、スマホからシャーペンに持ち替えた。







「はいこれ!印刷した紙とペン!結構分厚いし重たいよ〜」

「ありがとうございます!」

「こりゃ大変だ・・・何かあったらいつでも言うんだよ〜」


 打ち合わせ後に、SEDOさんから印刷された用紙を受け取った。1枚1枚がしっかりとした紙で、小さなマスの中に「赤」「青」「黄」「緑」「白」と書かれている。指示通り塗って、これらが完成する。


「それにしても、ゆかり最後まで来なかったな」

隣にいた一ノ瀬さんもかなり心配している様子だった。ミミさんは30分ほど遅れてやってきた。人身事故が起きたため迂回していたらしい。


「この残り100枚どうしようか・・・」

SEDOさんは丁寧に100枚ずつ封筒に分けてくれていた。

「また次の時で良いんじゃないの?」

「そうだね。そうしよっか。じゃあ2週間後に渡そうか。時間は多分あるよね」


 その後一ノ瀬さんとSEDOさんと別れ、1人で駅に戻ることになった。


 



 私が東京駅に向かう線は、特に電車の遅延はなかった。別の場所だったのかもしれない。予定通りの新幹線に乗って帰れるため一安心だ。


 ゆかりちゃんとのメッセージトーク画面を開くが、やはり今も既読はない。仕事なのだろうか。それとも寝ているのか。流石に高校生で夜型の生活になるのだろうか。21時以降は働けないし、ありえないと思っていた。


 1人きりの帰り道は、少し寂しかった。












 その日の夜に、2つの発表があった。


 1つ目は、空さんたち4人のSNSで発表された。3月のイベントの出演者発表が、生放送を通じて行われるという内容だった。現時点でゲストはまだ発表されておらず、これは今日の打ち合わせで全て聞いていたことだった。








 しかし2つ目は、私どころか、きっと誰も知らなかった情報であることは間違いなかった。


 それは、誰かのSNSからではなく、ニュース速報として流れてきたものだった。











 『女優、モデルの相田ゆかり(17)死亡』







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